アンリ・サルヴァドールの専属ギタリストとして知られ、ロバート・クラムと組んだプリミティフ・ドゥ・フュチュールやウクレレ・クラブ・ドゥ・パリのリーダーであるドミニック・クラヴィク。今回彼が取り組んだのは、マヌーシュ・スウィングの創始者、ジャンゴ・ラインハルトのトリビュート・アルバムである。音の名工による素晴らしきマヌーシュ・ギター作品――勝手にそんなイメージを抱いていたのだけれど、予想とは大きく異なる世界が広がっていた。ジャンゴの若かりし頃から晩年までを追いつつ、多面的な魅力を持ったギタリストだったことを解き明かしていくクラヴィクとその仲間達。当然ながらアプローチも多彩にならざるを得ない(ダニエル・コランとフランソワ・パリジが火花を散らし合うアコーディオン主体の《Brazil》などもあり)。さぞかし選曲が大変だったろう、と想像していたが、最初から確たるコンセプトがあったわけじゃなかったとクラヴィクはいう。
「お互い意見を出しあううちにこういう選曲になった。今回の参加者それぞれがジャンゴに思い入れがあって、若い頃の写真を持ってきて見せ合ったりしてね。そのうち、自分たちなりに『こういう人間だったのでは?』というように明確な像が浮かぶようになっていった。そして僕らは、シャンソン歌手の伴奏者、ミュゼットの伴奏者として活躍していた頃など、これまであまり焦点が当てられなかったジャンゴの曲を揃えていった。彼の若い時分の写真を見たら、いかにも旅から旅へ、街を渡り歩いていく姿が映っているし、いつしか僕らも演奏しながら彼の旅を追体験したいと思うようになっていったんだ。彼の人生を追いながら、自分らの旅をさせてもらったというのが正しいかな」
例えば名曲《Nuages》はギターを一切入れずにアコーディオンの華麗なるインプロをメインに仕上げるなど“いかにも”なやり方を避けているのは、自分流の旅を楽しもうとしたことの表れだろう。ギターの巨匠という側面よりもジャンゴの音楽家/クリエイターとしての側面に光を当てるようにしてテーマを選択していくこの旅人たちは、随所で『こんなジャンゴがいてもいいでしょ?』というような演奏を繰り広げているが、とにかく皆の表情が楽しげなのが印象的である。
「ダニエル・コランも言ってたけど、ジャンゴの音楽の素晴らしさを再発見した。それに尽きるね。ジャンゴは正統な音楽教育を受けていないが、彼の曲を演奏していると途轍もない完成度の高さに驚かされる。レコーディング中は『こういうことだったのか!』って発見ばかりだった。ジャンゴを巡る旅はまだまだ終わらない。僕らは今回そんな思いを分かち合ったんだ」