テイム・インパラを筆頭に今年も活躍の著しいサイケ・ロック勢。そのなかにあっても初めて彼らの音楽に触れた人は、〈なんじゃこりゃ!?〉と驚きの声を上げてしまうかもしれない。フレーミング・リップスのウェイン・コインの誘いでビートルズ『Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band』のカヴァー作品『With A Little Help From My Fwends』(2014年)に参加し、リップスらとツアーを共にしたLAの4人組、フィーヴァー・ザ・ゴースト。もともとはキャスパーのソロ・プロジェクトとして活動をスタートさせるも、その後、自然とバンド編成になったという。
「僕にはルーサー・ラッセル(元フリーホイーラーズ)っていう叔父がいて、彼のスタジオでニコラスが働いていたんだ。メイソンはもともとニコラスと同じバンドのメンバー。ボーナビンは友達のガーデン・パーティーで知り合った瞬間に、〈いつかバンドでプレイしてもらうよ〉って声を掛けた。そうやっていまのメンバーが揃ったんだよ」(キャスパー:以下同)。
今回お目見えしたファースト・アルバム『Zirconium Meconium』は、キャスパーの父親らが運営する地元のスタジオで録音され、フレーミング・リップス、マーキュリー・レヴ、MGMT作品に連なるような、プログレ、ガレージ・ロック、アンビエント、サーフ・ポップ、ジャズ、ソウルが融合して大爆発したかの如き一枚に。冒頭から輪廻転生などスピリチュアルな領域に踏み込むと、以降もPCで生成した音声、オーヴァーダビングされたヴォーカル、ノイズ、シンセ、爆音ギターなどがあちらこちらから顔を出し、映画「ホーリー・マウンテン」みたいなシュール極まりない音世界を創造。リップスのスティーヴン・ドローズが客演した“Peace Crimes”や“Sun Moth”をはじめ、人懐っこくてポップなメロディーと、旺盛な実験精神が全編に渡って詰め込まれている。
「僕らはさまざまな音を試すし、音楽をカテゴリーで分けることがないんだ。きゃりーぱみゅぱみゅも、マイケル・ジャクソンも、スティーヴィー・ワンダーも、ブレンダ・リーも、バディ・ホリーも大好きだし、最近はホワイト・ノイズもお気に入り。ファンタジーっぽくて映画的で、ポップでもあり、ノイジーでもある。イメージの膨らむような音が好きだね」。
聴き手のイメージを膨らませるのは『Zirconium Meconium』も同じく。〈ジルコニウム=結晶〉と〈メコニウム=胎便〉を並べたタイトルも奇妙だが、アートワークも受け手の想像力を掻き立てるものだ。なんでも、周りから聞いた幽体離脱や宇宙人の話に影響された結果、深海生物が登場することになったらしく……。
「元になったのは、モンハナシャコなどシャコ目の生物なんだ。虹色でキラキラしていて触りたくなるけど、攻撃してくるからやめたほうがいいよ。すごく綺麗な表面の下にダークさがある……僕はそういう矛盾に惹かれるんだよね」。
そうか、一見ナンセンスな矛盾に潜む真理やポップネスが、この4人の表現の核にあるのかもしれない。ウェイン・コインも〈なぜ彼らがこんなことをしているのか、俺にはわからない〉とコメントしている通り、理解不能なほど自由な音遊びを展開するフィーヴァー・ザ・ゴースト。ひとたび彼らの楽曲に触れたら最後、そこには大文字のアートへと到達する、不思議なポップ・ワールドが広がっていく。ちなみに4人はスウェル・スワンなる会社を設立。具体的な事業内容は不明ながら、ここでも既存の枠に囚われず、さまざまなプロジェクトを実現していくそうだ。
「例えばサーカスを観に行くと、壁、装飾、観客……すべてがその雰囲気を作っているよね!? 僕らがめざすのはそれなんだ。すべてのフォームを使って、〈バンド〉という領域に収まらない存在になりたい。そして今回のアルバムは、グループが形成された現時点での自分たちのスナップショットだね。多くを学んできた経験や、いまのすべてが詰まっていると思うよ」。
フィーヴァー・ザ・ゴースト
キャスパー(ヴォーカル/ギター)、ボーナビン(シンセサイザー)、ニコラス(ドラムス)、メイソン(ベース)から成るLAの4人組。キャスパーのソロ・ユニットとして活動を開始し、2013年初頭に現在のラインナップとなる。ほどなくしてエコーなどでライヴを行うようになり、2014年2月にはロリポップからファーストEP『Crab In Honey』をリリース。その後、フレーミング・リップスやショーン・レノンのツアーをサポート。今年に入ってヘヴンリーと契約し、レコード・ストア・デイ用に発表したテンプルズとのスプリット・シングル『Calico/Keep In The Dark』が話題を呼ぶ。このたびファースト・アルバム『Zirconium Meconium』(Heavenly/HOSTESS)をリリースしたばかり。