「日本に来ると故郷に戻ったみたいで心地良いんだ」――2013年と2014年の2年間、日本人アーティストとコラボレーションするために、ほとんどの時間をこの国で過ごしたクリストファー・チュウ。彼の率いるポップ・エトセトラが4年ぶりに完成させたニュー・アルバム『Souvenir』は、その滞在期間中に感じた本国USとの文化の違いや、日本での体験をインスピレーション源にしているという。

POP ETC Souvenir Pop Etc/ソニー(2016)

 「特に日本人が持つ〈職人気質〉に感銘を受けた。アメリカ人は何かのパイオニアかリーダーでなきゃダメだって思い込んでいるんだけど、日本には自分のやっていることに誇りを持っている人が多い。例えば、そば職人。何年もの間、そばを打ち続け、そのことに誇りを持っている。彼らの生き方に美学を感じて、自分もそんなふうになりたいと思ったんだ」。

 とはいえ、新作のサウンド自体が和のテイストになっているわけではない。80年代マナーのエレポップを踏襲しながら現行のアーバン・ミュージックに接近し、ダンス・グルーヴを手中に収めた前作『Pop Etc』のさらに延長線上で、ギター・ロック・バンドとしての硬質なアンサンブルも立たせてきた印象がある。

 「狙ったわけではないんだ。意識したのは、〈時間を掛けてじっくり作る〉という点と、〈前作と同じことはしないようにする〉という点。それだけだった。3人でアイデアを出し合いながら曲を組み立てていくうちに、自然とこうなったんだよ。ひょっとしたら、生粋のロック野郎であるジュリアン(・ハーモン)が、ちょっと張り切りすぎたのかもしれないね」。

 本作のサウンドメイクについて、クリスはティアーズ・フォー・フィアーズキュアーブルー・ナイルほか、80年代のUKニューウェイヴからの影響を認めているが、もちろん、ここで彼らが奏でているのはいままでと同様、単なるリヴァイヴァルとは一線を画したものだ。

 「80年代の音楽って最新のテクノロジーを駆使しながら、デジタルなサウンドとアコースティック・サウンドっていう正反対の音を組み合わせることに挑戦していたと思う。そこに惹かれるんだ。もっとも、アルバムを聴いてもらえば、僕ら3人それぞれに時代もジャンルも超えて、いろいろな音楽に影響を受けていることがわかってもらえるはず。それに今回は、ドラムス以外の全パートを自宅でレコーディングしたから、音の鳴りもポップ・エトセトラならではと言えるユニークなものになっているんじゃないかな?」。

 その真骨頂と言える曲が、ブレイクビーツっぽいドラム・アレンジとバリバリ鳴る歪んだギターを肝にした“What Am I Becoming?”。往年のディスコにも、オールド・スクールなヒップホップにも、グランジ以降のギター・ロックにも近い匂いが感じられ、リスナー次第で新しいとも懐かしいとも思えるであろうタイムレスな魅力を放っている。

 「弟のジョナサンがいるから余計にそう感じるのかもしれないけど、バンドって家族みたいなものだろ!? このアルバムではそういう親密さを捉えたかったんだ。外のスタジオだとプロデューサーやエンジニアがいて、親密さが薄れてしまうと思った。それに時間を気にせず、やりたいようにやりたかったんだ。ひとつのフレーズを納得できるまで何十回でも繰り返すことが、僕たちには重要だった。時間が限られているとそれも難しいけど、その点、今回はとことん〈職人気質〉を極めることができたね」。

 昨年の秋に盟友Galileo Galileiの全国ツアーで東名阪公演のオープニング・アクトを務めた際、この『Souvenir』から3曲を披露し、ライヴ映えすることもしっかりと証明したポップ・エトセトラ。そうなると、また近いうちに日本に戻って来てほしいもの。「いつでも戻って来たいよ」とクリスもジャパン・ツアーに意欲を燃やしている。

 


ポップ・エトセトラ
クリストファー・チュウ(ヴォーカル)、ジョナサン・チュウ(ギター)、ジュリアン・ハーモン(ドラムス)から成る3人組。2006年にバークレーで前身のモーニング・ベンダースを結成。2008年にラフ・トレードからファースト・アルバム『Talking Through Tin Cans』を、2010年に2作目『Big Echo』をリリースする。2012年には改名後初となる3枚目のアルバム『Pop Etc』を発表。2013年からクリスは東京に長期滞在し、Galileo Galileiや木村カエラのプロデュース、TVアニメ「残響のテロル」のサントラで菅野よう子とのコラボ、NTT docomoのCMソング制作などを経験。日本での知名度を上げるなか、ニュー・アルバム『Souvenir』(Pop Etc/ソニー)をリリース。