1曲目のビートが鳴った瞬間にグイッと引き込まれ、あとはラストまで一直線——木村カエラの2年ぶり、8枚目のオリジナル・アルバム『MIETA』は聴き手を掴んで離さない吸引力と止めようのない勢いを備えたエネルギッシュな快作となった。オフィシャルのインタヴュー資料で「これまで見えなかったものが見えた時のスッキリ感を表したかった」と語られる印象的なタイトルが示す通り、ここには明確なヴィジョンを持って迷いなく突き進む彼女の姿がある。

木村カエラ MIETA ELA/ビクター(2014)

「(デビュー10周年ライヴの)MCで話したのも覚えてるんだけど(笑)、〈最強だから〉って言ってて。最強だっていうモードに入れてる時って、何かを気にして中途半端なものを作るっていうことをしないし、誰に何を思われようと関係ない!って思ったのね。〈もう、ついてきて!〉みたいなモードに入れたから、揺れ動くことなく真っ直ぐに、自分の頭の中で自分のやりたいことを描いて、ちゃんと表現しないと駄目だなって思った」。

 バンド・サウンドを軸に置きつつ、当人も「いろんなジャンルのものを持ってきているので、なんか新しすぎて、どう受け取ってくれるのかなっていう不安は、やっぱり正直あります(笑)」というほどヴァラエティーに富んだ楽曲をラインナップ。先行シングルとなったアグレッシヴなロック・チューン“TODAY IS A NEW DAY”、□□□三浦康嗣の手によるエレクトロニック・ミュージカルといった趣の表題曲、ニューウェイヴィーな“Satisfaction”、米国の3人組バンド、ポップ・エトセトラ製のシンセ・ポップ“sonic manic”……音のスタイルはさまざまだが、どの楽曲もポジティヴなヴァイブレーションに満ち満ちている。

「私はデビュー当時から、音楽で人を元気にしたいし、いくつになっても夢を持っていてほしいなって思ってたけど、ようやくいま、自分が人に向けて歌える状態になったというか。だから、このアルバムには、自分がポジティヴになった感覚だったり、すごく開放的になった感覚だったり、悩みから抜け出していく途中経過や、そこから抜け出したとこ、それに、時が過ぎてわかったことが入ってて。音楽って、やっぱり聴いてて元気になるし、私の曲を人が聴いてくれた時にポジティヴな気持ちになってもらいたいなって思って。だから、明るくて元気な曲やテンポ感のいいもの、爽やかだったり、綺麗だったりする曲を基本的に集めていったんですね」。

 そんな陽性のモードはリリックにも顕著に表れている。ひたすら〈RUN〉を連呼する“RUN”なんて極端な曲もあるが、前に進まんとする姿勢をさまざまなアングルで捉え、シンプルな言葉で表現している。

「今回は、自分の内面に入り込んでひとりぼっちな感覚で歌詞を書くっていう作業をしなかった。変に頭で考えて作るというよりは、いまの〈いくぞ!〉っていう気持ちがまんま入ってる」。

 エッジーにしてキャッチー、あるいはロックにしてポップ……そんな木村カエラの木村カエラたる魅力を、本作は最良の形で提示しているし、その意味で、デビューから10年を迎えた彼女の集大成としても位置付けられる作品だろう。

「ロックな部分とポップな部分を両極端にできる人って、なかなかいないぞって思ったんです。自分はすごいんじゃないかって気づいた(笑)。ロックとポップをもっともっと突き詰めたいし、それが極端であればあるほど、おもしろいんだろうなって思ってますね」。

 

▼木村カエラの近作

左から、2013年のコラボ・カヴァー集『ROCK』、2014年のシングル“OLE!OH!”“TODAY IS A NEW DAY”(すべてELA/ビクター)、ベスト盤『10years』(コロムビア)
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▼『MIETA』に楽曲提供したアーティストの作品の一部

左上から、撃鉄の2014年作『NO UNDERGROUND』(PERFECT)、□□□の2013年作『JAPANESE COUPLE』(commmons)、クラムボンの2013年のカヴァー集『LOVER ALBUM 2』(コロムビア)、ポップ・エトセトラの2012年作『Pop Etc』(Rough Trade)、ASPARAGUSの2012年作『PARAGRAPH』(3P3B)、agraphの2010年作『equal』(キューン)
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 ここでは木村カエラのオリジナル・アルバムを紹介します。初作『KAELA』(コロムビア)を発表したのは2004年。爽快な西海岸テイストに貫かれた本作には、その後、長い付き合いとなるアイゴンのクレジットも。そして2006年には奥田民生吉村秀樹岸田繁ミト田渕ひさ子らと組んだ2作目『Circle』(同)が到着し、続いて2007年にはライナス・オブ・ハリウッド製の楽曲も話題を呼んだ『Scratch』(同)を、2008年には石野卓球遠藤大介DE DE MOUSE)らを招聘することで新たな地平を開いた4作目『+1』(同)を、2009年には作曲者にavengers in sci-fiの名も加わった5作目『HOCUS POCUS』(同)をリリース。多彩な作家とのタッグで次々と自身の多面性を引き出していきます。そこから路線を変え、2011年の6作目『8EIGHT8』(同)では渡邊忍の全面プロデュースでバンド感のある一枚を作り上げると、2012年はまた多くのクリエイターと共に電子風味の楽曲も印象的な『Sync』(同)を完成。〈ポップとロック〉の間を振れながら、この後はELAの立ち上げへと続いていきます。 *bounce編集部
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