コラム

ヤエル・ナイム、〈生と死〉をテーマにどんな心境纏った楽曲も表情豊かなポップ・ミュージックに仕立てた新アルバム『Older』

ヤエル・ナイム、〈生と死〉をテーマにどんな心境纏った楽曲も表情豊かなポップ・ミュージックに仕立てた新アルバム『Older』

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真のアーティストとしての成長を感じさせる5年ぶりのニュー・アルバム

 両親はチュニジアから移住してきたユダヤ人で、彼女自身は幼少時をイスラエルで過ごしたのちにパリ在住。38歳になったばかりのヤエル・ナイムは、そんなコスモポリタンとも言える民族環境に生まれ育った。無論、フランスでのこうしたクロスオーバーぶりは決して珍しくないが、そうした異民族同士の邂逅によって新たな文化は生まれ、形成されていく。それこそ、このヤエル・ナイムという女性アーティストがそうであるように。

YAEL NAIM Older PLANKTON(2016)

 彼女自身、そうした民族的なクロスオーバーに限らず、指向するその音楽性も柔軟だ。幼少時にクラシック・ピアノを学びつつ、ジャズやポップスも聴いてきた。実際、彼女の作品には東ヨーロッパ、スラヴ系、中東、アジア、アフリカなど様々なエリアの音楽の要素が奥床しく顔を出す。もちろん、本作にも関わっている彼女の公私に渡るパートナーのダヴィッド・ドナスィアンもカリブ系フランス人だし、このニュー・アルバム 『Older』にはなんとミーターズのメンバーまでが参加。つまりはそうしたシームレスな越境ポップスであることは彼女にとっては必然なのである。

 可愛がってくれた祖母を亡くしたこと、かたやダヴィッドとの間に子供を授かったこと。その二つの出来事が今作のテーマになっているそうだが、そうやってあらゆるエリア、ジャンル、民族などに自然とオープンになってきた彼女だけに“生と死”という両極端なテーマにもフレキシブルに向き合っているのが伝わってくる。《メイク・ア・チャイルド》は生き生きとしたポップ・チューンだし、タイトル曲《オールダー》は物静かに別れを綴った重いバラッドだ。バンド編成で賑やかに聴かせる曲も、ピアノ弾き語りも表情豊かに丹念に聴かせる彼女。そこには、どんな曲調でも、どんな心境を纏ったものでもポップ・ミュージックに仕立てることができる、という気品と自負が見え隠れする。そういう意味では、70年代、最も輝いていた時代のジェーン・バーキンにも負けない表現者に成長した、と言っていいのかもしれない。

 

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