今回は初の海外出張スペシャル! 去る4月29日に韓国・ソウルはCakeshopで行われているナイスなパーティー〈PHANTOMS OF RIDDIM〉にD.J.Fulltonoがゲスト出演した際、編集部スタッフも遊びに行きがてら無理やりお邪魔。そこで同企画のレギュラー・メンバーであり、2014年に大阪で開催された日本と韓国のDJが集った〈Far East Jukin'〉でFulltonoと共演経験もあるソウルのDJ/プロデューサー、CONG VUとの対談取材を行いました。連載担当としても、個人的に念願の取材でございます(ありがとう)。

CONG VUことチョン・セヒョンは、実は404(サーコンサー)という2人組ロック・バンドのギター/ヴォーカルとしても活動しており、2013年のファースト・アルバム『1』は日本盤もリリースされ、来日公演も行っています。なので韓国インディーに興味のある人なら知っている人も多いのでは? そんな彼に、韓国のジューク/フットワークDJとして(事実上)孤軍奮闘するに至った経緯や、日本のシーンの印象などを語ってもらいました。

 

韓国ではフットワークを踊る人がいないから音楽自体も発展しづらい

――CONG VUさんは、404での活動も知られていますが、まずはこれまでのご自身の活動歴について教えてもらえますか?

CONG VU「2010年にもうひとりのメンバー(ドラムスのチョ・インチョル)と404としてライヴ活動を始めたのですが、その前からPCでトラック制作をしたり、音楽ブログを書いたりしていました。CONG VUの名義では2013年からやっています」

――404はいまも活動しているんですか?

CONG VU「いまはライヴやリリースの計画はなくて、これからの方向性をメンバーと話し合っているところです」

404の2013年作『1』収録曲“춤 Dance”
 

――そうなんですか。CONG VUとしては最初からジューク/フットワークのトラックを作っていたんですか?

CONG VU「はい。ジュークというジャンルを知って、これなら自分が本格的に挑戦できそうだと思ったんです。だから、ジュークをやるためにCONG VUがあるというか」

――ジュークに目覚めたきっかけは?

CONG VU「音楽をやっている人だったらみんな一緒だと思うんですが、新しい音楽はないかなとネットでいろいろ調べているなかでDJラシャドを聴いて、一気にハマりました」

――初めて聴いたのはいつ頃?

CONG VU「ちょうど2013年の中頃だと思います。ラシャドを聴くようになってから、プラネット・ミューからリリースされたコンピ〈Bangs & Works〉を知って、こんなにたくさんの人がこのジャンルをやってるんだ、と思ったんです」

D.J.Fulltono「どの曲にいちばん衝撃を受けましたか?」

CONG VU「本格的にハマったのはラシャドの『Just A Taste Vol. One』(2011年)というアルバムなんですが、いま思えば当時その作品に収録されている“Ghost”がいちばん好きでしたね」

――実際〈Bangs & Works〉がリリースされた時、日本での反響はどんな感じだったんですかね?

Fulltono「インターネットを通じて色んなジャンルの尖った人たちに注目が集まったことで火が点いた感じですね」

――韓国ではどうだったんですか? フットワークってヤバイね、みたいなムードはCONG VUさんの周りでもありましたか?

CONG VU「音楽をやっている人のなかには知っている人がいたかもしれませんが、僕の周りには一人もいませんでした。ジューク/フットワークを作っているのは僕しかいなかったですね」

――いま韓国でジューク/フットワークのトラックを作っている人を私は3人くらいしか知らないんですが、実はもっといるんでしょうか?

CONG VU「その3人は誰ですか?」

――CONG VUさんとSATAMOOD SCHULAの3人。でもMOOD SCHULAはそもそもヒップホップの人なので、ちょっと違いますが。

CONG VU「あともう一人、最近SoundCloudでトラックをあげているtheoria.というクリエイターがいます」

theoria.の2016年の楽曲“Impulse Drive”
 

――へ~、初めて知った!

CONG VU「SATAも前はかなりトラックを作っていたんですが、もともと写真専攻なこともあり、いまは写真を撮るのに忙しくて音楽はあまりできてないみたいです。MOOD SCHULAは最近フットワークのトラックを作っているかはわからないですね」

SATAの2014年のEP『EP1』
 

MOOD SCHULAの2014年の楽曲“DNA Science”
 

――そうですよね。じゃあ実質CONG VUさんとその新鋭だけですか。

CONG VU「僕が知ってる限りではそうですね(笑)」

Fulltono「なんか10年くらい前の日本に似てる(笑)」

――10年前はFulltonoさんだけでしたか。

Fulltono「あと1人、2人くらい。だから韓国もこれから増えますよ。がんばらないといけませんね」

CONG VU「そうですね(笑)」

――ところで、CONG VUさんはFulltonoさんのことをどのように見ていますか?

CONG VU「ジューク/フットワークを知って間もない頃から、日本で精力的に活動してる方だということは知っていました。日本にはどんなアーティストがいるのかと調べてみたら、すぐに出てきたのがFulltonoさんで。イイ曲ばっかり出しているから、この人はなんなんだろうと思ってましたよ(笑)」

Fulltono「日本のトラックメイカーで好みの人はいますか?」

CONG VU「Fulltonoさんと、一緒にライヴもやったCRZKNYさん、最近気になっているのはDJ NHK Guyさん」

※福岡のレーベル/クルー、yesterday once more(YOM)の中心人物

CRZKNYの2016年の楽曲“HIROSHIMA SHITLIFE 2k16”
 

yesterday once moreの2016年のコンピ『YVEY TOUR COMPILATION』収録曲、DJ NHK Guy“LEVEL UP RAVE PUNK”
 

Fulltono「DJ NHK Guyがいるクルーがどんな感じなのかまだ把握してなくて、謎が多いんだけど、今度大阪にツアーで来る※から楽しみにしてたところです」

※去る5月28日にYOMのツアー〈YVEY 2016〉大阪公演が開催された

――日本はいま少しずつジューク/フットワークのシーンが広がってきているような……気がするのですが、CONG VUさんは日本の状況をどのように見ていますか?

CONG VU「ジューク/フットワークのような音楽はシカゴでしかウケないと思っていたけど、日本でフットワークを踊る人が多くてびっくりしました。習おうとしている人もいっぱいいるみたいだし。そういうレッスンもあるというのが不思議。このジャンルは踊る人がいないと進化できないと思うから、日本には踊る人がいて羨ましいです。韓国で音楽活動をしているなかで限界を感じるのが、韓国ではフットワークを踊る人がいないから音楽も発展しづらい。ダンサーのなかにも、シカゴ・フットワークとして踊っている人はいないので」

Fulltono「その気持ちはすごくわかりますよ。確かに日本にはフットワークのダンサーがいるけど、それは東京に限ってのことであって、僕の住んでる大阪やその他の地域にはシカゴ・フットワーク専門で踊っている人はいないんですよね」

――東京でも限られた人数ではあります。

Fulltono「日本において、僕が知っている限りではTAKUYAWEEZYの2人が最初にフットワークを踊りはじめたんですけど、その2人がやってなかったらいまのようなことにはなってなかったと思う。その2人のちょっと後にYAMATOが出てきて、彼がさらにこのカルチャーを大きくしようといまがんばってるんです」

★TAKUYA、WEEZY、YAMATOを紹介した本連載第4回はこちら

CONG VU「そうなんですね」

Cakeshopにて、CONG VU氏とのB2B時にはしゃぐFulltono氏
 

――韓国で一人でも始める人がいると違うかもしれませんね。そのきっかけとして日本のダンサーが韓国でもできるといいですよね!

Fulltono「自分がダンスを始めたらいいんじゃない? そうしたら〈俺のほうが上手いぜ!〉って声をあげるダンサーが現れるかもしれないし(笑)」

CONG VU「あ~(と首を振る)……無理です(笑)」

Fulltono「そういう僕もダンスは苦手なんですが(笑)。ダンサーが踊っても楽しいけど、僕はジューク/フットワークにダンスがなくても成立する何かがあると思ってやってます。CONG VUもそれは感じてるかもしれないけど」

CONG VU「そうですね」

――FulltonoさんはCONG VUさんの作品についてはどう思いましたか?

Fulltono「Bandcampで2作品(2014年のEP『Blame.』『Cong Vu CDR II』)出してますよね。“Suffering”と“Blame.”という曲が特に良くて、いまでも自分がDJで使うセットに入ってます」

CONG VUの2014年のEP『Blame.』収録曲(上から)“Suffering”“Blame.”
 

CONG VU「ありがとうございます」

Fulltono「ミニマルな感じの曲がすごい好きで」

CONG VU「だったら初EP『Blame.』の曲がいいですね」

――私は結構2枚目のEP『Cong Vu CDR II』が好きですね(笑)。

CONG VU「そうですか。『Blame.』はジュークというものが何たるかがよくわからないままだったけど、自分が楽しくて作っていたものです。『Cong Vu CDR II』は、いろいろ聴いてきたものをデータベース的に使いながら作った曲だから、たぶん初作のほうが楽しんで作れたかもしれません」

――あー、そうなんですね。確かに2作目のほうが洗練されてる感じがあります。この間発表された、テピョンソの音を狂った感じで使った“Taepyeongso Tek VIP”は最高に良かったですね。ご当地感も含めてイイ感じでしたよ(笑)。

※韓国の伝統楽器。木管楽器でチャルメラのような音が鳴る

CONG VU「ありがとうございます。トラックを作る時は、まず自分が楽しむことがいちばん大事だから、いろんな要素を加えて作ってみたりするんですけど、韓国的な要素を入れて作るのはとても楽しいです」

韓国と日本が〈FAR EAST〉という括りで世界に認知されればいいな

――Fulltonoさんは、シカゴ・ハウスから始まるシカゴの歴史を踏まえてジューク/フットワークのトラックを作っていると思いますが、CONG VUのようにまったく別の文脈で入っているクリエイターが作るものとでは、解釈というか感覚みたいなものは違いますか?

Fulltono「日本にいるジュークのクリエイターのほとんどが、これまで聴いてきた音楽性を活かした思い思いのトラックを作っている。そのほうが偶然に新しいものが生まれたりするからおもしろいですよね」

CONG VU「いろんな畑から来た人たちがいろんなトライをして作るトラックもおもしろいけど、Fulltonoさんのようにシカゴの歴史を踏まえている人はミニマルなトラックを作りますよね。僕はそのミニマルさが好きです」

Fulltono「僕もシカゴ・ハウスばかり聴いてたわけじゃなくて、初めはテクノ、ミニマル・テクノから入りました。だから個性を出そうとすればするほど、最初の頃にインスパイアされた感覚に返って、どんどんミニマルになっていっちゃうんです。初体験って身体にすり込まれてるんだと思うんですよね」

――なるほど。ちなみに、CONG VUさんはそもそもどういう音楽を聴いていたんですか?

CONG VU「最初はロックが好きでした。ジョイ・ディヴィジョンニュー・オーダーといったポスト・パンクニューウェイヴのバンドですね。演奏は完璧じゃないけど……むしろ楽器が上手いかどうかに興味はなくて、多少演奏が下手でもメンバーが集まった時に出るエネルギーに惹かれたというか。例えばシンガー・ソングライターなら歌が上手くないと人に感動を与えられないけど、バンドだったらたとえ上手くなくてもみんなで良い曲が出来ればOKというところが好きで(笑)。だから僕もやってみようと思って、バンドを組んだんです」

――ハハハ。演奏のクォリティーよりもヴァイブス重視ってことですね(笑)。

CONG VU「だからフットワークが好き(笑)。下手というのとは違うけど、フットワークはそんなに完璧ではないところを集めて音楽にしているようなところがあるから。だからハマりました」

Fulltono「CONG VUはもっと完璧主義者だと思っていたから意外ですよ。なぜなら来日時のDJプレイではめちゃくちゃ繊細で技巧派だったから。でもいまの話を聞いて、僕がCONG VUの曲に惹かれる理由がわかったような気がする。自分が気持ち良いと思ったところを曲にしている、というところで」

CONG VU「バンドをやっているなかで、これからどうしようかと悩んでいた時にジューク/フットワークに出会って、開放感を感じたんです。自由にやれる!と。バンドとは違う感性で音楽を作れるところに魅力を感じました。バンドの前からエレクトロニックな音楽も作っていたけど、いろんなジャンルがあるなかでジューク/フットワークがいちばん自分にいちばん合う音楽だと思ったんです」

Fulltono「バンドでフットワークのドラム・パターンをやってみようと思わなかったんですか?」

CONG VU「一緒にやってるドラマーから、〈叩けないから無理〉と言われました(笑)」

Fulltono「あー、確かに。日本にはそういうことに挑戦しているバンドがいるから聴いてみてほしいな。DALLJUB STEP CLUBとか」

DALLJUB STEP CLUBの2015年作『We Love You』収録曲“Future Step”
 

CONG VU「名前は覚えてないけど、大阪で共演したバンドがいましたね」

Fulltono「そういえばORRORINZが出てたんだ! ORRORINZは破壊的な感じで、元はオルタナティヴ・ロックとかをやっていた人たちです。DALLJUB STEP CLUBとはまた解釈が異なっていて、おもしろいんですよ」

ORRORINZの2013年のライヴ映像
 

CONG VU「あともう一人おもしろかったのが、サンプラーを付けたギターを弾きながら踊ってた……」

Fulltono「あー、佐伯誠之助だ! あの時出てましたね」

CONG VU「一度観たら2度と忘れられない感じでした(笑)。ある意味ではそれが日本っぽい、ちょっとゲームっぽい感じに見えるところがおもしろい。日本のバンドとも何回か共演しましたけど、そういうファニーでユニークなパフォーマンスは日本人にしかできないと思う」

佐伯誠之助の2014年のライヴ映像
 

――どうしてそう思います?

CONG VU「知り合いとライヴハウスをやっていて、そこでは海外のバンドも呼んだりしていたんですけど、OORUTAICHIのライヴを観ると特有の雰囲気があるんです。韓国でもユニークなことをやってる人はいるけど、それともまた違う。特に大阪の人の狂ったところとか……」

――いまおっしゃったような特徴は、主に大阪特有のノリですよね。

Fulltono「大阪の場合はきっとBOREDOMSの影響が根底にあるんだと思うんです。彼らが音楽的に一線を越えたから、そこからみんながダーッと狂いはじめて、直接的に影響を受けてない人にまで及んでるという」

CONG VU「あー、なるほど」

Fulltono「僕も韓国の狂った人たちを見てみたいな(笑)。もしかしたら逆に衝撃を受けそう」

CONG VU「韓国でそういう感じなのはハードコア・パンクの人たちが多くて、他はそんなにいないんですよ」

――では、CONG VUさんはFulltonoさんに訊いてみたいことはありますか?

CONG VU「Fulltonoさんのトラックでいちばん印象的なのはそのミニマルさで、リリースしているトラックもどんどんミニマルになっていますが、どうしてそんなにミニマルさを求めてるんですか?」

D.J.Fulltonoの2015年のEP『My Mind Beats Vol.02』
 

Fulltono「なぜミニマルにするかというと、ミニマルにしたほうがDJする時に楽しいし、DJの個性が出しやすいんです。僕がDJする時は、曲を流すというよりはドラム・パターンをDJが自由に組み合わせて演奏しているような感覚でやっているんです。お客さんもライヴ感を感じてくれると思うし」

CONG VU「最初は、機能性を重視してよりシンプルなものを求めているのかと思っていました」

Fulltono「あー、そうですね。決してシンプルな曲が好きというのではなくて、DJのなかでいろんな曲を自由に組み合わせて表現するスタイルが好きだから、必然的にシンプルになるんです。シンセが入ってきたり、ヴォーカルが入ってくるトラックはすでに存在するから、自分で作る必要があまりないっていう。言ってみれば、自分が好きな曲を最高のシチュエーションでスピンしたいから、その曲に持っていく前段階となるシンプルなトラックを作ってる感じ。例えば、普通にかけても盛り上がらない曲があったら、ミニマルな曲で徐々にハメていった後にそれをプレイすることで、曲の良さを最大限に引き出すようなことがやりたいんです。つまり自分のDJのなかで足りないものを埋めるために曲を作ってる。それが自分の曲作りのスタンス」

――なるほど!……ということでそろそろお時間ですが、初めてじっくりお話してみていかがでしたか?

Fulltono「今回は韓国と日本のそれぞれの特徴について話をしたけど、その距離がどんどん縮まって、〈FAR EAST〉という括りで世界に認知さればいいなと思いました。近くの国だし一緒におもしろいことができたらいいですね」

CONG VU「そうできたら自分も嬉しいです」

2016年のコンピ『Juke World Order Vol.3』に収録されたCONG VU“160 YS”
 

――CONG VUさんはしばらく作品としてはリリースされてませんが、今後予定はないんですか?

CONG VU「曲は作ってるんですけど、いまは仕事が忙しくて……。でも年内には何かリリースしたいと思っています」

――楽しみにしてます! では最後に恒例の質問ですが、今後の目標を聞かせてください。

Fulltono「ちなみに、この質問に対してトラックスマンは〈バッド・ミュージックから世界を救う〉、RPブーは〈誰もが楽しめる音楽を絶え間なく響かせる〉と答えていましたよ」

CONG VU「んー、おもしろい答えではないかもしれないけど(笑)、音楽を続けていきたい。どんな音楽でもいろいろやってみたら、いつかは良い面が出てくると思うから、自分としてはできるところまでやってみたいと思います」