さて、いまやすっかり人気連載となった〈D.J.FulltonoのCrazy Tunes〉、第5回にしてついにゲストの登場です! D.J.Fulltono氏たっての希望で、ただでさえ多くの個性的なアーティストが存在する日本のジューク/フットワーク・シーンにあって異色のトラックを生み出し続けるトラックメイカー、食品まつり a.k.a foodman氏との対談が実現しました。Fulltono氏いわく〈食品さんの話はおもしろいから!〉とのことだったので、いったいどんな話が飛び出すのか、編集部スタッフも楽しみにしておりました。結果大いに盛り上がり、何やら壮大な話に発展してゆく……のですが、あまりにも盛り上がったためヴォリュームが凄いことになってしまったので、今回は前後編に分けて公開します。まずは前編をお楽しみください!

 

 

日本のジューク/フットワーク・シーンを形成したターニングポイント

――食品まつりさんには初めてご登場いただくので、まずは食品さんについて少しおうかがいしたいのですが、そもそもジューク/フットワークのトラックを作るようになったきっかけはなんだったんですか?

食品まつり a.k.a foodman「もともと僕がジュークを知ったのはFulltonoさんはじめBooty Tuneの方々が出てらっしゃった2011年のDOMMUNEのプログラム〈JUKE解体新書〉がきっかけだったんですね。それまでは(ジュークを)まったく知らなくて。それまではノイズ寄りのエレクトロニカというか、ノイズとかダブっぽいのとかが好きでトラックを作ってたんですけど、そのDOMMUNEを観て〈なんだこの音楽!?〉となったんです。それからいろいろ調べて……実際作るようになったのは、DOMMUNEを観て半年後くらいに、俺も作ってみようかという感じになったんですよね。そのきっかけが、FulltonoさんがDOMMUNEの後に名古屋でDJをされていたのを生で観た際、サウンドシステムが入っていたこともあって低音が凄くて。ジュークって生で聴いたらヤバイなと思ったんです」

――ジュークのどういうところが衝撃的に感じられたんですか?

食品まつり「規則正しい感じのサウンドではなく、ヘンなタイミングでヘンな音が入ってきたりっていうのが多いので、最初はヘンだなというか、これまでに聴いたことがない感じだなと思いましたね。この感じはなんだろうって引っ掛かったんです。で、いろいろ調べていくなかで、ラシャドの“Reverb”という曲を聴いて衝撃を喰らって。あの曲には〈シャカシャカション〉みたいな単純な音がちょこちょこ入ってて、それがひたすら謎にループしてるみたいな、得体の知れないものを感じたんですよね。こんなものがあるんだ!と」

※DJラシャドの2013年作『Double Cup』の日本盤ボーナス・トラックとして収録。同曲についてのエピソードはこちら

【参考音源】DJラシャドの2013年作『Double Cup』の日本盤ボートラ“Reverb”

 

――これまでになく異質なものとして捉えられてたんですね。

食品まつり「ジュークの速さに飛び付いたというよりは、構造がなんかヘンだなと。リッチー・ホウティンがやってるプラスティックマンの曲に“Circles”っていうキックを逆回転したような音をひたすらループさせているみたいなトラックがあって、それが好きでよく聴いてたんです。ローテンポの4つ打ちみたいな曲なんですが、自分としては〈こんな音楽があったんだ!〉と衝撃を受けて。それがラシャドの“Reverb”にそっくりなんですよ。それがいちジャンルとしていろんなパターンがあって、っていうのに興味を持ちましたね」

【参考音源】2005年のマイナスのコンピ『Minimize To Maximize』に収録された
プラスティックマン“Circles”

 

――〈これでいいのか!〉みたいな感じにヤラれる節はまずありますよね。

食品まつり「ジュークはジャンルっていうか、大袈裟かもしれませんが〈考え方〉みたいなものではないかと自分のなかではあって。ジュークって他のダンス・ミュージックと比べてリズム・パターンが決まってない気がするんですよ。ハウスにしてもヒップホップにしても、一応のフォーマットがあると思うんですけど、ジュークはいろんなパターンがあるから、他のダンス・ミュージックのように〈ジャンル〉として括れないなと。最近だとゴルジェもそうで、さまざまな音楽をゴルジェというキーワードと結び付けて出来ていたりする。ジュークもそういう感じがあると思って」

――柔軟性というか懐の深さみたいなものがあると。

食品まつり「そうですね。ひとつにまとまらないというか、その人の解釈やバックグラウンドはバラバラでも形になるというか。国によっても違うと思いますけど、日本では人によって違う、テクノっぽい人やロックっぽい人、一方で生演奏の人とか、リズムの打ち方もみんなバラバラで、シカゴっぽい人もいればダブステップな感じの人、取っ散らかった感じの人とか、こんなにひとつのジャンルで幅広くなれるのは珍しいし、そこが他のジャンルと違うところですよね。おっしゃった通り懐の深さがあるなと」

――食品さんも他にはないエクスペリメンタルな感じというか、とても個性的なトラックを作っていらっしゃいますが、ご自身でトラックを作る時はどういうことを意識してますか?

食品まつり「無心でやるっていうのは大事かなと。ジュークを聴いた時に衝撃を受けたことに加えて、昔、友達の家に夜の12時くらいに酒持って集まって、朝までに10曲作ろうぜっていう宅録遊びみたいなのをやったりしてたんですけど(笑)、それは人に聴かせるというより自分たちで楽しむために作るみたいな感じで。そういう時の微笑ましさというか、〈音楽で遊ぶ〉みたいな自由な感じを思い出して。それまでもずっと音楽は作っていましたけど、マニアックというかそんな派手な音楽でもなかったからか、音源をリリースしたりライヴをたまにやったりしても、(リスナーからの)反応があまりなかったんですよね。だからこのまま音楽をやり続けるのもどうなんだろうと、ちょっと気持ち的に冷めちゃっていたんです。でもジュークを聴いてあの頃の自由な感じで作ってみようと思ったんですよね」

【参考音源】食品まつり a.k.a foodmanの2015年作『COULDWORK』収録曲“Hitou He Go (秘湯へGO)”
その頃に作られたという同曲を通じて、D.J.Fulltonoは食品まつりを知ることとなる

 

――単純に新しい音楽に出会ったという以上のものをもたらしたんですね。

食品まつり「俺のなかではジューク以前/以降で気持ちの持ちようがガラッと変わりました。音楽をやりながらこうしていこう、ああしていこうといろいろ意識しすぎちゃってたんでしょうね。だからジュークにすごく助けられたというか、沈んでいた気持ちを上げてもらったというか。Fulltonoさんが連載中でも書かれていたように、シカゴのジュークは本当はちゃんと計算されている音楽なんですけど、パッと聴きはめちゃくちゃに聴こえるんです。だから俺ももっとむちゃくちゃにしたろ、みたいな気持ちになったんですよね(笑)。自分的に小さくまとまってたかもしれないと思って、そこから気持ちを入れ替えてやりはじめたらめちゃめちゃおもしろくなってきて。DOMMUNEを観てからジュークを作りはじめた人って結構いて、その人たちが同時期にジュークのトラックを作ったり、DJしはじめた。そうしたら〈俺もトラック作ったから聴いてくれ〉みたいな感じで広まっていったのが2012年くらいにあって」

D.J.Fulltono「ありましたね」

食品まつり「北海道にジューク作ってる奴いるぞ!とか、広島にいるぞ!……これはCRZKNYさんなんですけど、そういう感じで話題になったんですよね。そういう熱気がいま以上にあって」

D.J.Fulltono「なんかいろいろ思い出してきました(笑)。ラシャドが来日するっていうんで、DOMMUNEで番組を組んでもらったんですよ。でも結局ギリギリで来日がキャンセルになっちゃったんで、僕らは何したらいいねん、てなって(笑)。それで一から(ジュークを)説明しようって3時間くらいかけてシカゴ・ハウスの古い時代からこれまでを紹介していったら、視聴者が結構いて、レスポンスもかなりあったんです。いきなりTwitterのフォロワー数が増えるみたいな、そんな感じでした。で、そのDOMMUNEの次の日に、ラシャド不在のまま行われるパーティーまで時間があったんでマンガ喫茶で寝てたんですよ。そしたら〈作りました!〉ってある人から曲が送られてきて……それがCRZKNYやったんですよ」

――へぇ~!

食品まつり「ケニーさんは僕とは違うきっかけでジュークを知ったとインタヴューでおっしゃってましたよね」

D.J.Fulltono「そうそう、僕が一人でやってたゲットー・テックとかジュークを紹介するブログを前から見ていてくれたらしいんですよ。あと誰やろな……Paisley ParksSatanicpornocultshopもすでにジュークをやっていました」

――そういった、いまや日本の第一線でジュークを作っている方々のバックグラウンドは皆さんバラバラなんですかね?

D.J.Fulltono食品まつり「バラバラですね」

食品まつり「それがおもしろいですよね。バラバラだけど、みんな思うところがあったんでしょうね、ジュークを聴いて。それって結構珍しいですよね」

D.J.Fulltono「いろんなバックグラウンドを持つ人が参入しやすかった理由のひとつとして、食品さんとケニーがコンピを作ろうっていって、トラックを募集したんですよね。送られてきたトラックは全部収録されるっていうので、めちゃくちゃ来たと」

食品まつり「そうなんです。2012年の春頃にちょうどTwitterでケニーさんとBooty TuneのAKIOCAMさんとで日本版の〈Bangs & Works〉みたいなのがあったらいいねという話をしたら、〈だったら作りましょうよ〉となって」

※2011年にプラネット・ミューからリリースされたシカゴ・フットワークのコンピ(同年に2作発表されている)

【参考音源】コンピ『Bangs & Works Vol.1』のダイジェスト音源

 

――それがBandcampでリリースされた『Japanese Juke & Footwork Compilation』なんですね。

食品まつり「そうです。そういう話の後にすぐに動き出して、トラックを募集したら50人くらいから送られてきたんです。SatanicpornocultshopとかPaisley Parksからも来たし、エレクトロニカとかロックとかテクノの人からも来た」

【参考音源】コンピ『Japanese Juke & Footwork Compilation』

 

D.J.Fulltono「全然ジュークじゃないのもあったり」

食品まつり「そうなんですよ。本当にいろんな解釈があるんだなと思って。〈テクノのコンピを作りましょう〉となったら、どれもある程度カチッとした感じのが集まると思うんですけど、ジュークだと……みんな(イメージが)フワフワしてるから、それぞれの思い描いたものがいっぱい送られてきて。全部リリースすることが前提だったんで、みんなモチヴェーションも上がりますよね。だから、〈ジュークはヘンテコでおもしろいから盛り上げていこう〉みたいな、入りやすい雰囲気になったのかもしれません」

D.J.Fulltono「あのコンピで、日本でジュークが盛り上がってるというイメージを持った海外のアーティストが多いんですよ」

――へぇ~そうなんですか!

食品まつり「Twitterを通じて知り合ったBO NINGENTaigenさんが、日本のジュークを初めて聴いたのがそのコンピだったそうなんです。で、そのコンピのことを誰から聞いたかっていうと、マウス・オン・マーズの方が〈日本のジュークはヤバイよ〉って車で聴かせてくれたらしくて。そんなところにまで届いていたのか!とびっくりしました」

D.J.Fulltono「その当時は〈作ってみた〉みたいな感じの人が、いまも継続的にジュークを作ってたりしますね」

食品まつり「このコンピが海外の音楽サイトで取り上げられたりしたから、そこでまたモチヴェーションが上がったんですよね。僕らが作ったコンピが知らない国に届いて聴かれているっていうので、もっとジューク作ろうかな、みたいな気持ちになったりして。そういうワクワク感みたいなのがありました。普通に生きているなかで、何かのジャンルの黎明期に立ち会えることってそうないじゃないですか。最初はBooty Tuneの人たちが広く知られる前からずっとやってきていらっしゃいますが、DOMMUNEの〈JUKE解体新書〉でバッと広がって、〈俺もジューク作ってみよう〉と思った人たちのなかにいられるっていうのが嬉しくて」

D.J.Fulltono「DOMMUNEを通していろんな出会いがありましたね」

――まさに日本のジューク・シーンのターニングポイントだったんですね。

食品まつり「その〈解体新書〉の視聴者数が平均800~900くらいだったと記憶していて、そのなかにトラックを作ろうと思った人が何人かいたというのに熱くなりますよね」

D.J.Fulltono「ジュークを初めて聴いて、〈こんなんでいいんかな〉みたいな気持ちだったのが、〈よっしゃトラック作ってみよう〉という気持ちになって、それが最終的にアルバムという形になるまでに成長したというのは夢がありますよね」

 

ジュークの未来の姿は……〈ピー〉?

食品まつり「ジュークを聴けば聴くほど、この音楽の可能性は凄すぎるなと思うんです。これからもどんどん形が変わっていく気がするんですよ。いずれとんでもない領域に入っていくんじゃないかなって。〈なにこれ? こんなんでいいんですか?〉みたいなトラックがぼんぼん作られるような、そんな最高の時代が来たらいいですよね。ラシャドもシカゴの後輩に、〈ちゃんと訳のわからない曲作ってるか?〉みたいなことを言っていたらしいじゃないですか。そういうのがいいなと思って(笑)」

D.J.Fulltono「そうそうそう。〈型にハマるな〉って(笑)。意識してああいうトラックを作ってるんですよね」

食品まつり「そうなんですよね。シカゴの人たちは意識してやってるんですよね、〈やべえトラック作ってやろう〉と計算していたという。ただの天然かと思いきや、すごく考えられていたというのを知って、さらに好きになりました。現代音楽をやっている人が音楽の極限をめざして作っているのと同じように、シカゴの人たちはゲットーで極限をめざしているというのがめちゃくちゃ熱いなと思って。Fulltonoさんとも前に話してたんですけど、いずれ〈ピー〉だけになっちゃうんじゃないかなと」

D.J.Fulltono「そうそうそう。BOREDOMSEYヨさんに自分のイヴェントにご出演いただいた際、話してくれたんですが、100年後のダンス・ミュージックはどうなるのかと考えた時に、ずっと〈ピー〉っていう音で踊りまくってるんじゃないかと思っていたんだけど、ジュークを初めて聴いた時に〈やっと始まった〉と思ったとおっしゃっていて」

食品まつり「ハハハハ、『AKIRA』の〈もう、始まっているからね〉みたいな(笑)。世紀末感ありますね」

――終わりに向かって始まった(笑)。

D.J.Fulltono「それを聞いて興奮して、食品さんに教えなきゃと思ったんですよ」

食品まつり「そういうの聞くと興奮しちゃいますよね(笑)。みんなジュークを聴くとそういうことを思うんだなと、嬉しくなっちゃって。僕も最近思ったんですけど、ジュークが世界中に知られるようになってから、音楽の形がおかしくなっているような気がしているんです。ジューク以前/以降で。〈ノストラダムスの大予言〉は結局当たらなかったけど、実は人の心には何かが降りてきていたんじゃないかと言っている人がいて、それと同じように、ジュークを知ってからみんなの作る音楽がおかしくなってるんじゃないかと。これは僕の勝手な妄想ですが……。最近〈なにこれ?〉みたいなヘンテコな音楽がいっぱい出てきてる気がしているのは、ジュークを聴いてキマっちゃったんじゃないかなと(笑)」

――おもしろい考察ですね、それは(笑)。

食品まつり「もちろんジュークが登場する前にも(ヘンテコな音楽は)ありましたけど、最近は〈ヘンなのがイイ〉みたいな風潮がある気がしてて。それっておもしろいし、いいと思うんですよ」

D.J.Fulltono「ジュークがちょっとハメ外したから、クラス全員賑やかになった、みたいな(笑)」

―――ハハハハ! ムードメイカー的な(笑)。

食品まつり「ジュークは本来あるべきはずの音がないとか、そういう〈ない〉のがいいんですよね。〈ない〉ことに〈ないー!〉ってアガる(笑)」

D.J.Fulltono「食品さんもベースのないジュークを作ってみようとか、おもしろいトラックメイクをしていますけど、僕はいったんめちゃくちゃある状態にするんですよ。そこから引いていくっていう作業が楽しくて。めちゃくちゃベタなビートをまず作ってからとか」

食品まつり「ああ、それおもしろそうですね。Fulltonoさんのそのプロセス、見てみたい」

――それいいですね。Fulltonoさんのトラックメイクの仕方を見る企画とか、おもしろそう。

食品まつり「いいですよね。Fulltonoさんがどうやってトラックメイクしているのかいつも不思議に思ってて。使ってる機材とか……最近はパソコンを使ってるんでしたっけ?」

D.J.Fulltono「使うようになりましたね。前は高校の頃から使ってるドラム・マシーンを使ってたんです。だからシンプルなものしか作れないんですよね」

食品まつり「ああ、そうなんですね。最近のソフトって高機能で、簡単に曲が作れる環境はありますけど、やることも限られている古い機材で最新の音楽を作るってカッコ良くないですか?」

D.J.FulltonoRPブーがその象徴ですよね。ドラム・マシーンで作ってるんですが、RPブーが使ってる機材がフットワークの基本になっているんですよ、入ってる音とか。〈フットワーク=RPブー〉の音みたいな」

【参考音源】RPブーの2015年作『Fingers, Bank Pads & Shoe Prints』試聴音源

 

食品まつり「創造主みたいな、〈RPブー神〉と呼んでいいくらいの存在ですよね。雰囲気もいいですし、なんか……」

D.J.Fulltono「神っぽい感じ(笑)」

――アハハ。

D.J.Fulltono「プラネット・ミュー(RPブーが近作をリリースしている)っていうと最新の音楽をリリースしてるイメージですけど、そんなレーベルがしょぼいドラム・マシーンを使って作ったのを……(笑)。いろいろ考えさせられる」

食品まつり「シカゴの人たちの機材環境って、いま若い世代だと何が主流なんですかね?」

D.J.Fulltono「どうなってるんですかね。安いからFL Studio(音楽制作ソフト)を使ってるけど、でもMPCが欲しいと思ってるというのは聞きました」

食品まつり「へぇ~やっぱそうなんだ。ハードだと高いし、いまの若い世代にとってはPCのほうが安いからそっちから入るけど、やっぱりハードに憧れるんですね。カッコイイですもんね、ハードのほうが」

 

ジュークのこだわり

食品まつり「ジュークから飛んじゃいますけど、シャンガーン・エレクトロとか、ジュークに近いと思うんですよね」

――確実に通じるものはありますよね、なんか!

食品まつり「音にユーモア感があって、カワイイけど怖いみたいな。ワープから出た、シャンガーン・エレクトロのノジンジャのトラックをRPブーがミックスしたときは神と神が合体した!と思って」

※シャンガーン・エレクトロの先駆者と言われる南アフリカのプロデューサー。最新作はワープからリリース

【参考音源】ノジンジャの未公開トラックなどを使ったRPブーによるエクスクルーシヴ・ミックス

 

食品まつり「シャンガーン・エレクトロにはヘンなこだわりがあって、インタヴューを読んでたら、いちばん大事なのはマリンバを入れることらしいんですよ。マリンバが入ってることそのものが重要らしくて(笑)」

――そうだったんですか(笑)!?

食品まつり「そのこだわりが訳わかんないけどイイなと思って(笑)。〈マリンバ、入ってるか?〉みたいな」

――それ和みますね~(笑)。ジューク/フットワークにはそういった〈これがあれば〉みたいなこだわりってあるんでしょうか?

D.J.Fulltono「……キーワードとしては〈160BPM〉っていうことかな。160っていうのが他のジャンルにはあんまりないんですよね」

食品まつり「ドラムンベースだとBPM170とか180なんですよね。だから160ってすごく不思議なテンポで。速いんだけどむちゃくちゃ速いわけでもなく……どうして160にしたんですかね?」

D.J.Fulltono「最初はBPM120~130くらいから始まってるんですけど、それがだんだん上がっていって、ターンテーブルのピッチを上げてかけて、その上げたくらいの速さの曲がまた出来てくるんですよ。それを繰り返して160まで上がってきて、これ以上速くなったら速い音楽に限定されちゃうから、その次の進化はポリリズムってことになったと思うんです。だから160以上はあんまり存在しないのかなと」

食品まつり「進化論みたいな話になってきましたね」

D.J.Fulltono「実際160ですけど、いまや80もあって、いま僕が実験してるのが120なんですけど、そうやって展開していきやすいんですよね、160って」

食品まつり「不思議な音楽ですよね。形もちゃんと決まってないし、一応BPM160っていうのはあるもののBPMも変化していってるっていう。僕はジュークのポコポコ音が好きなんですよね、あれは入れたい」

――ポコポコはジュークの音って感じですよね。

食品まつり「可愛いですよね、マヌケな感じの音が入ってくるといいなと思って」

――あとあれ、ピシって音。

D.J.Fulltono「スネアですよね。アレがフットワークのダンスを作ってるっていうか、あれを指針にダンサーはたぶん踊ってると思うんですよ、目印というか。その目印が(曲中の)いろんなところで出てくるもんだから、だからこそあの足の速さになるんじゃないかなと思って」

食品まつり「あ~なるほど、そうなんですね。目印をここか、ここかと模索してるうちにあの足の速さになるみたいな(笑)」

D.J.Fulltonoキング・チャールズっていうフットワークのトップ・ダンサーが恵比寿のKATAに来たときにDJさせてもらったんですけど、キング・チャールズが踊り出したところでちょうど僕の曲がかかって。そこでびっくりしたのが、彼はその曲を初めて聴くはずなのにスネアと身体の動きがぴったり合ってるんですよ。音を瞬時に予測してるんです。あれはちょっと鳥肌立ちましたね。あの曲は僕がシカゴのトラックを聴いて踊ってみながら、1週間くらいかけて自分がいちばん気持ち良いところにスネアをはめていって完成させた曲だから、それが伝わって嬉しかったんです。その動画、見てみましょうか」

【参考動画】2014年の〈Battle Train Tokyo〉、キング・チャールズ登場回の模様

 

D.J.Fulltono「これは僕にとったら奇跡的な瞬間で、〈もしかしてチャールズも入ってくるんじゃないか……〉と思ってたらホントに入った(笑)。それが、たまたま自分の曲をかけたときに入ってきたんですよ(嬉しそう)」

――(上掲映像の1分20秒くらいからキング・チャールズが入る)速いですよね~、これ。

D.J.Fulltono「〈ドラゴンボール〉で言ったら宇宙から最強の戦士がやってきて、それに立ち向かう地球人みたいな感じですね(笑)」

――実際、日本にフットワークする人が現れたのはいつ頃なんですかね。

D.J.Fulltono「シカゴ・フットワークを採り入れているという話は結構前から何人かいたんですが、専門的に始めたというのはTAKUYAが最初です。2011年くらいかな。TAKUYAが自分の部屋で〈Bangs & Works〉に入ってる曲で踊ってる動画をYouTubeにアップしているのを見つけて、すぐにコンタクトを取ったんです。それで東京へ行った時に彼にインタヴューして、そこから付き合いが始まりました。でもEXILEUSAさんは2009年くらいにはすでに知ってるんですよ、フットワークを。行ってるんです、シカゴに(USAが実際にシカゴへ渡ったのは2010年)」

――ホントですか!?

D.J.Fulltono「世界中のおもしろいダンスを旅して紹介するみたいな企画(〈DANCE EARTH〉)をやっていて、そのなかでシカゴに行っているんですそれはDVDにもなってると思います

※USAはその後2013年にEXILEのTETSUYAと共に再度シカゴへ赴き、改めてキング・チャールズをフィーチャーしつつフットワークに挑戦する模様を収めた番組がNHKで放送されている

【後編へ続く】

 

PROFILE:食品まつり a.k.a foodman


名古屋出身のDJ/トラックメイカー/絵描き。2012年にNYのオレンジ・ミルクから初作『Shokuhin』をリリースして注目を集め、ナカコー主宰のSound Of Romancesから2014年に発表した『DOGUU EP』をはじめ、コンスタントに作品を残す一方、七尾旅人や禁断の多数決などのリミックスをこなす。また、2013年のジューク×ラップのコンピ『160OR80』や、2014年のLEF!!!CREW!!!の公式ミックスCD『THIS IS HARDCORE』に参加したほか、各種コンピに楽曲提供。今年3月には初のCD作品となる『COULDWORK』をリリース。同作はオレンジ・ミルクよりカセットテープでも発表されている。

 【参考音源】食品まつり a.k.a foodmanの2015年作『COULDWORK』ダイジェスト音源

 

PROFILE:D.J.Fulltono


関西を拠点に活動するDJ/トラックメイカー。ジューク/フットワークを軸に ゲットー・テックエレクトロシカゴ・ハウスなどをスピンする一方、自身のレーベル=Booty Tuneを運営。パーティー〈SOMETHINN〉も主催する。また、プラネット・ミューやハイパーダブでリリースされたジューク・関連作品の日本盤特典ミックスCDを手掛けるほか、国内外の音楽メディアへジューク関連記事を多数執筆。2014年に5作目のEP『My Mind Beats Vol.01』をリリース。8月1日(土)にはBooty Tuneの10時間パーティー〈Booty Tune 10hours Fes〉を東京・恵比寿BATICAで開催。また、8月2日(日)にはリミックスで参加したDALLJUB STEP CLUBの初アルバム『We Love You』を引っ提げた京都METROで行われるライヴに出演。