今年の3月から連載をスタートさせていただき、早いもので2015年も残り数日ということで、今年のジューク/フットワーク界隈の動きを簡潔に振り返ってみます。

テックライフの勢いは今年も順当。一昨年のDJラシャドの死から立ち直れるのか心配していましたが、今年は完全復活。UKの音楽シーンへすっかり馴染んできたテックライフですが、一番のトピックは、今夏に来日も果たしたDJペイパルLAのフライング・ロータス主宰レーベル=ブレインフィーダーからEP『Sold Out』をリリースしたということでしょうか。

DJペイパルの2015年のEP『Sold Out』収録曲“Awakening”

 

近年はシカゴのアーティストがLAのパーティーで活躍する機会が増えてきていましたが、その鍵を握っているのが、LAを拠点に活動するクルー〈ジューク・バウンス・ワーク〉の存在です。このレーベルはテックライフと親交が深く、さらに同じくLAに拠点を置くシカゴ・フットワークのダンス・チーム〈クリエイション〉と共に地元のシーンを盛り上げているので、2016年は西海岸からのジューク熱がいっそう高まりそうです。

DJテイの2015年のEP『Break It Down』収録曲“That Love”

 

DJスピンの2015年のEP『Off The Loud』収録曲、ダニー・ブラウンをフィーチャーしたDJラシャドとの“Dubby”

 

そして、RPブージェリンの評価が高まったことも2015年のトピックの一つと言えるでしょう。RP・ブーに関しては、彼が動いたというより時代がRPに追いついたという印象。本人はマイペースに自分の音楽を作り続けており、彼がいる限りジュークがいくら進化しようと逸脱することはないでしょう。

RPブーの2015年作『Fingers, Bank Pads & Shoe Prints』収録曲“Bangin' On King Drive”

 

また今年になって一気に注目された、RPブーのクルーに所属する女性プロデューサー、ジェリン。それまでのダンス・ミュージックには存在しなかった、ほぼ3連符のみで構成されるビートがインパクト大でした。それに加え、彼女が作る音には独特の間があり、まるで映画音楽を聴いているかのようです。もはやこの音楽は、ジュークはおろかダンス・ミュージックの枠をも軽く超えています。しかし、斬新なものに早耳のリスナーが飛びつくのはもはやあたりまえ。その先にあるものは、果たしておもしろいのか、おもしろくないのか。今後はそんな根本的なことが問われるような気がします。

ジェリンの2015年作『Dark Energy』収録曲“Unknown Tongue”

 

一方の日本はというと、今年もたくさんのトラックが作られ(名前を挙げたらきりがないですが)、各々がSoundCloudなどで発表したりなど盛り上がっていました。しかし正規リリースは少なかったと思います。リリースで言えば、むしろ意外な場所から生み出されるケースが目立ちました。ジュークやダブステップを採り入れた人気急上昇中のバンド、DALLJUB STEP CLUBがフットワークのグルーヴを完全に理解したアルバム『We Love You』をリリースしたり、七尾旅人さんとBoogie Mannがスッと耳に入ってくるポップソングでいて実はフットワークとの調和が絶妙なバランスで保たれた“Future Running”を発表したりと、日本独自の進化が楽しかったです。

DALLJUB STEP CLUBの2015年作『We Love You』収録曲“redbull”

 

Boogie Mann running through wit Tavito Nanaoの2015年のシングル“Future Running”

 

しかしまあ、思い返せば数年前まで異色と捉えられていたジュークの160BPMのビートが普通に聴かれるようになってきていることが、実はなにげに凄いことだなあと感じています。

そんななか、この年末に海外の有名な音楽メディアで発表された、いま注目すべき音楽シーンの一つとしてジャパニーズ・フットワーク・シーンがクローズアップされ、日本のシーンのヴォルテージは2016年に向けて一気に上昇中なのですが、素直に嬉しい反面、喜んでもいられないなという思いもあります。

D.J.Fulltonoの2015年のEP『My Mind Beats Vol.02』収録曲“Freaky Fall”

 

海外から評価された理由のひとつに、シカゴのジューク/フットワークを日本人が忠実に再現しようとした結果生まれた新しい音楽というのが挙げられるのですが、他の国に当てはめてみれば、例えばUKベースのオム・ユニットを中心としたシカゴのフットワークとベース・ミュージックの融合はそれを意図的に具現化しているし、オリジナリティーという観点で言えば日本のそれよりもさらに先を行っていることは間違いありません。日本のジュークは海外から背中を押してもらい、やっとスタートラインに立っている段階かなと。決してひがみではなく、うーん、まだまだ追求が足りないなあと。

オム・ユニットの2014年作『Inversion』収録曲“Touching Down”

 

前向きにそう捉え、気合いを入れ直しつつ、大晦日に満足いくプレイをして新しい年を迎えようと思います。来年もヨロシクお願します。

 

Juke/Footwork 2015 Top 5 by D.J.Fulltono

1. DJ CLENT - The Wickedness(Duck N' Cover)

2. DJ ROC - Wack Wack(Beatdown House)

3. DJ SEVEN SIX - Low Gravity (Juke Underground)

4. TRAXMAN × DJ ROME FEAT. RASHAD - Who's #1 (Juke Bounce Werk)

5. THEATER 1 – Romeo(Theater 1)

 

PROFILE:D.J.Fulltono


 

関西を拠点に活動するDJ/トラックメイカー。ジューク/フットワークを軸に ゲットー・テック、エレクトロ、シカゴ・ハウスなどをスピンする一方、自身のレーベル=Booty Tuneを運営。パーティー〈SOMETHINN〉も主催する。また、プラネット・ミューやハイパーダブでリリースされたジューク・関連作品の日本盤特典ミックスCDを手掛けるほか、国内外の音楽メディアへジューク関連記事を多数執筆。最近ではCRZKNYとのユニット=THEATER 1で連続して音源を発表する一方、ソロでも新EP『My Mind Beats Vol​.​02』をリリースした。12月31日には大阪CIRCUSにて〈CIRCUS COUNTDOWN 2015 to 2016〉へ出演!

 THEATER 1の2015年の最新作『6/12』