もっと大胆に、もっとソウルフルに、もっと自分らしく……環境の変化も踏まえてすべてを新しくしたアレン・ストーン。その本質はどこにある?
「スティーヴィー・ワンダーっていうパンドラの箱を開けてしまって……」。これはアレン・ストーンが前作『Allen Stone』のインタヴュー時に自身のリスニング遍歴を語った言葉だ。敬虔なクリスチャンの家庭に生まれ育った少年は、15歳で『Innervisions』と出会って衝撃を受け、60~70年代のソウルにのめり込むようになった。こんなエピソードが音楽に目覚めたきっかけなのだから、スティーヴィー・ワンダーへの思い入れは人一倍強いだろう。このたび日本盤化されたセカンド・アルバム『Radius』での彼は、スティーヴィーさながらの力強い疾走感と、ファンキーでゴージャスになったアレンジを新たに纏って、自身のイメージを鮮やかに更新している。
マネージメントや配給などを一新して臨んだ今作のパートナーはスウェーデンのソングライター、マグナス・ティングセック。2012年のライヴ・ツアーを共に回ったことで意気投合したそうで、アルバムのほとんどを共作しているキーパーソンだ。なかでも新しい制作環境による変化が如実に感じられる楽曲は、ファンキーでディスコ・タッチな爽快ナンバー“Fake Future”か。このドライヴ感はいままでになかったもので、全編にポップな味付けが施された聴き味は、例えばブルーノ・マーズやマルーン5らのメインストリーム・ヒットと並べても違和感がないほど。
また、初顔合わせとなる制作陣とのコラボが生む新味も聴きどころで、気鋭のベニー・カセットによる“Freedom”はシンガロングできるポップ・ソウルだし、フランク・オーシャンやゼインを手掛けるマレイが関わった“Perfect World”も同様に印象的なフックを持つ。アンダーソン・パックとのコラボで知られる、シカゴのブレンデッド・ベイビーズが手掛けたヒップホップ・ビートの上で歌う“Guardian Angel”もフレッシュだ。
ただし、これまでのアレンらしいワンダーなメロディーはメロウ・ソウル“Love”やフォーキーなスロウ“The Wire”をはじめ、随所で感じられるし、インプレッションズ“People Get Ready”を思わせるバラード“Where You're At”は、本作でも屈指の美しさを誇る一曲に。前述した“Fake Future”では、作曲・アレンジ用の音楽ソフトの名を挙げてデジタルで画一的な音楽を皮肉り、〈ノートパソコンを捨てろ〉とまで歌う。そんな昔気質な楽曲制作へのこだわりと、ライヴ感のあるサウンドも彼の変わらない美点だろう。歌が乗る器はどうあれ、青さと熱さを伴ったヴォーカルに込められたものは揺るがない。
ソウルから得たマナーを自己流に昇華したメイヤー・ホーソーンや、スウィート・ソウル作法をストリート経由の感性で披露したジャック・ムーヴスなど、レトロなヴァイブを纏いつつ現代のモダン・ソウルとして提示した逸品が続く昨今。『Radius』もそんなアルバムたちと並ぶブルーアイド・ソウルの快作だが、アレン・ストーンの楽曲はオールド・ソウルへの執着をさほど感じさせない。過去の再生や再現ではなく、どっぷりと浸かって身に染み込んだソウルのエッセンスを温かく心地良い音像に変えて差し出すようなこの音楽は、だからこそ聴き手を限定しないし、ポップ・シーンへと突き抜ける可能性も秘めている。