今に生きる人間としての意識から生まれる柔和な“ワビサビ音楽”
まずは、風情が良い。パっと見ただけで、このキラキラした女性は接する者を魅了する何かを表出できる人物だと、皮膚感覚で納得させるところがある。
「私は生まれも育ちもロンドン。5歳のころからアート関連の学校に通うようになり、歌やダンス、演劇の勉強を16歳までしたの。そのころ好きだったのは、レイジ・アゲインスト・ザ・マシーン、レッド・ホット・チリ・ペッパーズ、R&Bやヒップホップも当然好きだった」
ブラーのバック・シンガーとして、かつて来日したこともある。「20代頭の頃だったけど、あれはいい経験だった」と微笑む彼女にインタヴューした場所は、フランスの小都市ブールジュ。彼女は、昨年6月からパリに居住している。
「アルバムはロンドンで録音したけど、パリの方が私の音楽を分ってくれる人がより沢山いるように思えた。そして、実際に(フランスのレーベルの)ノー・フォーマ!との契約を得て、引っ越したの。今の環境には、本当に満足しているわね」
そんな彼女のデビュー作『You & I』は四季をテーマにした4枚のEPを元にしたもの。そこで、彼女は蜃気楼のような、柔和きわまりない“ワビサビ音楽”を作り上げている。
「たまに周りから私の音楽性はジャズっぽいと言われるけど、自分としてはそういう意図はまったくない。私は既存の音楽に縛られたような音楽を作ろうとはまったく思っておらず、自分の中から溢れ出てくる音楽を素直にやっているだけなの」
多分にノスタルジックで、余韻や奥行きに溢れた、漂うヴォーカル・ミュージック。”時間が止まった”ようなそれは成熟もしていて、とても彼女のような担い手が作るものとは思えない。
「まるで糸の上を歩くような、とても繊細なバランスを維持するような感じで音楽を作っていると思う。確かに私はヴィンテージなマイクを使い、アコースティックな表現を標榜している。でも、それと同時に私は今に生きている人間であるという意識を持ち、音楽を作っているつもりよ」
彼女は確かなイメージを喚起させるPV群を持つが、それらは一つをのぞいて、自ら作っている。
「もともと私は写真が好きで、アマチュアの写真家としても活動している。映像作りのいい所はすべてを自分でコントロールできること。音楽の制作は他のミュージシャンと一緒に協調していくので、その点が違っている。もちろん、現代においてイメージ作りは重要だと考えているわ」