ヨーロッパを魅了した川端康成原作のオペラが、いよいよ本邦初演!
1961年(昭和36年)4月、日本を代表するホールの一つ、東京文化会館がオープン。時期を同じくして川端康成の中編小説『眠れる美女』が、昭和35年1月から昭和36年11月にかけて雑誌『新潮』に連載された。三島由紀夫が「熟れ過ぎた果実の腐臭に似た芳香を放つデカダンス文学の逸品」と評したこの作品は海外でも広く読まれ、国内外で映画化もされてきた。
2009年には、ベルギー王立モネ劇場でこの小説を原作としたオペラ『眠れる美女~House of the Sleeping Beauties~』が世界初演された。このオペラは高い評価を得つつヨーロッパ各都市を巡回。日本でも上演が鶴首されていたが、東京文化会館開館55周年・日本ベルギー友好150周年記念企画として、さらに『眠れる美女』単行本初版刊行55周年という節目も加わり、いよいよ今年2016年12月に実現することとなった。念願のオペラ『眠れる美女』の本邦初演だ。
原作の舞台は「すでに男ではなくなった安心できる男」が、全裸で眠らされた若い娘と一晩の添い寝を許される海辺近くの秘密の宿。友人の紹介でこの宿を訪れる老人江口、彼が体験する6人の「眠れる美女」との添い寝の情景を全5章の形で描く。眠る相手との、愛を介在しない男の純粋性欲。それを裸体の克明な描写と共に観念的に描き、裸体の女を通して、江口の過去の女たちを回想する。眠り、夢、若さ、老い、死…。宿の女は「この家には悪はありません」と言うが。
オペラの台本では、原作の5章目「その五」を第3場に描きつつ、他の章を1場2場にまとめ、全3場構成を取るという。形式美も持つ小説が、どう脚色され形式化されるのか。
配役もユニーク。主人公の江口の現在や宿の女を俳優が演じ、長塚京三と原田美枝子が配される。江口の回想はバリトン(数々の現代オペラに出演するオマール・エイブライム)が、眠れる美女は初演から踊るダンサー伊藤郁女(ベルギーを本拠に世界的に活躍するコンテンポラリーダンサー)が表現。彼女らの容姿や寝姿は4人の日本の若手歌手によるコーラスが描写。さらにソプラノ(近・現代音楽を得意とするカトリン・バルツ)が現在と過去のト書き的説明や江口が回想する過去の女たちの役を担う。
作曲家クリス・デフォートの革新的音楽を演奏するのは、ピエール・ブーレーズやペーテル・エトヴェシュに師事したパトリック・ダヴィン指揮による東京藝大シンフォニエッタ。演出は大注目のギー・カシアス、振付はシディ・ラルピ・シェルカウイ。彼らは現代のデカダンスをどう私達に感応/官能させるのか。非常に待たれる公演だ。
LIVE INFORMATION
東京文化会館開館55周年・日本ベルギー友好150周年記念
オペラ『眠れる美女~House of the Sleeping Beauties~』【日本初演】
○12/10(土)・11(日)15:00開演
会場:東京文化会館 大ホール
原作:川端康成 作曲:クリス・デフォート
台本:ギー・カシアス/クリス・デフォート/マリアンヌ・フォン・ケルホーフェン
出演:老人:オマール・エイブライム(Br) 女:カトリン・バルツ(S) 老人(俳優):長塚京三 館の女主人(俳優):原田美枝子
眠れる美女(ダンサー):伊藤郁女
眠れる美女たち(コーラス):原千裕 林よう子 吉村 恵 塩崎めぐみ
演奏:パトリック・ダヴァン(指揮) 東京藝大シンフォニエッタ
演出:ギー・カシアス
振付:シディ・ラルビ・シェルカウイ
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