川端康成の異色作、衝撃のオペラ化! 2009年にベルギー・モネ劇場で初演。
その後ヨーロッパ各地で上演され、高い評価を得たオペラがいよいよ日本上陸!
先頃、東京ステーションギャラリーで開催された〈川端康成コレクション 伝統とモダニズム〉展は、タイトルそのままに、伝統的な日本美術からモダニズムやアヴァンギャルドに至るまで、文豪のアートに対する(幅広い分野に及ぶ)審美眼の確かさと造詣の深さを物語るものであった。尤も会場でひときわ注目を集めていたのは、若き川端とカフェの女給・伊藤初代との間で交わされた書簡を展示した〈初恋コーナー〉で、来場者たちは(2014年7月に発見された)初代からの手紙10通と川端本人の未投函の手紙1通から伝わる生々しい恋の息づかいに足を止めて見入っていた。折しもこの手酷い失恋事件の顛末を描いた水原園博(川端康成紀念会理事)による新刊エッセイ「川端康成と伊藤初代 初恋の真実を追って」(求龍堂)や、この時の体験を糧として書かれ、後の「伊豆の踊子」や「雪国」ら川端文学の母体となる短編「非常」などを収録した「川端康成 初恋小説集」(新潮文庫)も書店に並び、文芸愛好家の間では、ちょっとした〈川端ブーム〉が巻き起こっていた。そこに飛び込んできたのが、今回の東京文化会館開館55周年を記念する12月の公演、すなわち2009年にベルギー王立モネ劇場で世界初演された「眠れる美女」を原作とする現代オペラの日本初演のニュースである。
小説「眠れる美女」は雑誌「新潮」に1960(昭和35)年1月から1961(昭和36)年11月まで断続的に連載された川端の後期(60~62歳)を代表する中編。先述の「非常」を始め、「篝火」や「彼女の盛装」「南方の火」などの20代初期短編で繰り返し書かれている(失った)永遠の少女の面影というテーマが、50代の異色長編「みづうみ」の魔界を経て、老人の前に横たわる「完璧な処女(ヴァージン)」というイメージで見事に昇華された傑作だ。作品の舞台は、すでに性的能力がないと見なされ(身元の確かな)安心できる客が、薬の力で深く眠らされた裸の娘たちと添い寝する趣向の、秘密クラブというべき海辺近くの館。友人の紹介でその場所を訪れる老人・江口が(それぞれ別の)もの言わぬ女たちと過ごす5夜(全5章)からなる物語が、オペラでは3夜(1幕3場)に再構築されて上演されるという。
オペラ「眠れる美女~House of the Sleeping Beauties~」は、ベルギーのゲント市を拠点に舞台作品を手掛ける団体LODとモネ劇場とToneelhuis(アントワープ)の共同制作。作曲をそのLODでレジデンスコンポーザーを務めるクリス・デフォートが、演出をベルリン国立歌劇場とミラノ・スカラ座の共同制作による「ニーベルングの指環」チクルス(2010~)で知られるギー・カシアスが担当し、台本もこの二人が共同で執筆している。