心地良い春風の吹くうららかな日和のとある午後。ここはT大学キャンパスの外れに佇むロック史研究会、通称〈ロッ研〉の部室であります。新たな学期を迎え、〈ロッ研〉も新体制でスタートしているようですよ。

【今月のレポート盤】

JOSEF K The Only Fun In Town Postcard/Crepuscule/ディスクユニオン(1981)

 

梅屋敷由乃「会長、おはようございます!」

汐入まりあ「ユノちゃん、おはよう。う〜ん、いまだに〈会長〉って呼び名は馴れないな」

杉田俊助「ミーは堅苦しい仕事なんてノー・サンキューだから、会長の座をマリーアに譲って正解だったヨ!」

汐入「譲られた記憶はありません! それよりジョン君も少しは新入生勧誘のビラ配りを手伝ってください!」

杉田「Alright! ジョセフKの『The Only Fun In Town』を聴いたら出動しようと思っていたところさ、Ha! Ha! Ha!」

梅屋敷「絵本みたいな可愛いジャケットのCDですね。確かジョセフKって、カフカの小説に出てくる人物ではなかったでしょうか!?」

汐入「うん、名前はそこから拝借したみたい。81年にポストカードからこのアルバムを1枚だけ発表して解散しちゃったバンドで、かれこれ15年ほどCDも廃盤状態だったはず……」

杉田「フフン、ユーも聴きたくたなったでしょ!?」

汐入「へ〜、前回のCD化と同じく、81年当時はお蔵入りした幻の初作『Sorry For Laughing』が丸ごとカップリングされているんだ……って、もう! これを聴いたら絶対に勧誘しに行きますよ!」

梅屋敷「あら、ポストカードと言うとオレンジ・ジュースアズテック・カメラを輩出したネオアコの名門というイメージでしたけど、それとは印象の異なる尖ったサウンドですわ!」

杉田「ダークでメランコリックなテイストは、〈スコティッシュジョイ・ディヴィジョン〉って感じかな。シャープなギターとちょっぴりファンクなノリのリズムがSo Cool!」

梅屋敷テレヴィジョンのようなNYアート・パンクにも近い気がしますわ。ヴォーカルの方は若い頃のデヴィッド・バーンさんに声質が似ていますね」

杉田「そのフロントマンのポール・ヘイグは解散後も、ソロでユニークなエレポップ作品を出しているヨ、Ha! Ha! Ha!」

汐入「加えて、ギタリストのマルコム・ロスは後にオレンジ・ジュース入りしたり、アズテック・カメラのサポートをしたりして、ネオアコ・ファンには忘れ難い存在!」

梅屋敷「では、その2名が在籍していたことで、解散後に再評価されたバンドなのでしょうか?」

汐入「うん、ニューウェイヴポスト・パンク好きには以前からカルト的な人気があったと思うよ。確かフランツ・フェルディナンドも影響を公言していたし」

杉田「Oh! 言われてみればフランツのギターはマルコムっぽいかもネ! ちょっとビザールというか、ストレンジというか」

梅屋敷スコットランドの先輩後輩ということですね!」

汐入「そういえば、以前bounceのインタヴューで、キング・クルエルが好きなアーティストとしてジェイムズ・チャンスやジョイ・ディヴィジョンと並べてジョセフKを挙げていたっけ」

生麦 温「みんな、お茶を煎れたよ〜」

梅屋敷「あら、オン先輩! いらしたのですね」

生麦「もうあまり学校に来ないから、せめて授業のある日は部室に顔を出そうかなと思ってね。それよりジョセフKはいまの耳で聴いてもめちゃくちゃカッコイイね!」

杉田「流石はオンチャン! むしろいまこそトレンディーなサウンドだよネ!」

汐入「音は尖っているけど耳触りは意外とキャッチー。こういうタイプのバンドって最近多いですもんね」

生麦「うん。そういう意味ではミンクスダイヴホログラムスあたりのキャプチャード作品と並べて聴いてみるのもアリじゃないかな」

梅屋敷「あ、私、メモして全部買います! え〜っと、ミンクスに……」

汐入「ユノちゃんは真面目だね! でも確かに、現行インディー好きにブルックリン、またはマンチェスターの新人バンドって紹介したら、騙されるかも」

梅屋敷「私、喜んで騙されます!」

 まりあ会長による新体制の〈ロッ研〉は、思いのほか順調に活動をしているようです。オンちゃん、コヤス、データら4年生の来室が少なくなるのは寂しいですが、来月にはフレッシュな新入生が仲間入りしていることを期待して、今回はここまでに。【つづく】

 

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