東京を拠点に活動する4人組ロック・バンド、カフカが通算6作目のアルバム『あいなきせかい』をリリースした。胸を締め付けるギター・サウンド、刹那の輝きを持ったメロディー、そしてソングライターのカネココウタによる歌詞の文学的な世界観――ともすれば、彼らはいわゆるJ-Rockシーンのバンドだというイメージを持たれてきたかもしれない。けれどもエレクトロニック・ミュージックの要素を導入した2014年作『Rebirth』や、その延長線上で自身の半径数メートルの生活を見つめ直した2015年作『Tokyo 9 Stories』を筆頭にカフカの歴史を振り返ると、そこにはいつもロックに留まらない、国内外のさまざまな音楽からの刺激を新たな挑戦に昇華する姿があった。
そして新作『あいなきせかい』では、Maison book girlの矢川葵を迎えた“City Boy City Girl”を筆頭に、80年代のシティー・ポップや国内外のR&B/ヒップホップにも接近。都市の風景に焦燥感いっぱいのギター・サウンドが鳴り響く新境地を切り拓いている。それはひとえに、彼らが従来の〈カフカらしさ〉から自由になっている昨今の活動ゆえだ。今回はカネココウタ(ヴォーカル/ギター)の音楽的な興味を紐解くことで、最高傑作をめざした『あいなきせかい』の制作過程と、さまざまな要素が混在する〈カフカの音楽が生まれる場所〉に迫った。
エレクトロを採り入れたのは必然だった
――『あいなきせかい』はこれまでのカフカが正面切っては歌ってこなかった、〈愛〉をテーマにした作品になっています。そうした主題に向かったきっかけは?
「今回は、これまででもっとも良い作品を作ろうということを話したんです。〈名盤を作る〉というハードルを自分たちに課して、それに適うテーマって何だろう?とずっと考えていて。そのとき、前作『Tokyo 9 Stories』の〈生活〉というテーマを踏まえなければ書けないものとして、今回の〈愛〉が出てきたんです。愛というと俗っぽいし、いままでだったら直接的にテーマにすることはなかったと思うんですよ。でも、みんながあたりまえのように持っているものだし、実は馬鹿にできないなと思って。やっぱりそこから目を背けちゃいけないし、リスナーにもそれに気付いてほしいと思ったんです」
――その〈愛〉が曲ごとに主人公が変わる群像劇のような形で表現されているのが、今回のアルバムの大きな魅力になっていると思いました。作品を通して同時代に生きるいろいろな人々の愛の形が浮かび上がってくるというか。
「人によって愛を感じるものはさまざまだと思うので、トータル・コンセプトとして〈愛〉というテーマがあって、11曲を通じていろんな角度からそれを書けたと思いますね。でも、全部自分の話でもあるんですよ。それをただ押し付けるんじゃなくて、時に俯瞰したり、時に直球で表現したりと、アルバムだからこそできる表現にしたかった。『あいなきせかい』というタイトルを付けたのは、〈いや、あるよ〉と思ってほしかったからなんです。愛がないと思えるのは、愛がどんなものか知っているからだと思う。自分自身でも、このアルバムを聴くたびにそのことを思い出せるものにしたかったんです」
――今回は『あいなきせかい』に影響を与えた音楽を掘り下げることで、いまのカフカの魅力を紐解いていきたいです。まず、今回の作品では『Rebirth』以降の特徴であるバンド・サウンドとエレクトロニクスとの融合がより自然になっていますね。例えば、1曲目の“Scab”は、イントロで柔らかな電子音と4つ打ちのビートが重なり、そこから自然にギター・サウンドが入ってきます。
「成長したというか、(エレクトロニックな要素が)バンド自体に馴染んできたんだと思いますね。『Rebirth』のときは見切り発車で、ただ生まれ変わりたいという気持ちで作ったから、メンバーが対応しきれなかった部分もあったんですよ。でも次の『Tokyo 9 Stories』では、その変化も踏まえつつバンド・サウンドを突き詰めたことで、エレクトロとの融合も強靭になっていった。“Scab”も、普通なら柔らかなサウンドのまま終わっていくと思うんですけど、俺たちにとって新しいものにするにはどうすればいいかを考えたというか。ギターの重いディストーションなどパンチを加えたいと思っていたので、“Scab”はエレクトロの部分と生のバンドの部分を自然に融合しようと苦心した曲ですね」
――ちなみに、カネコさんがいま聴いているエレクトロニック・ミュージックは?
「なんでも聴きますよ。アンダーワールドやケミカル・ブラザーズのようなアンセミックなものも聴くし、フレンドリー・ファイヤーズやパッション・ピットみたいにバンド・サウンドと融合させているものも聴きます。自分の学生時代にくるりやスーパーカーがクラブ・ミュージックを採り入れているのを見て、そこへの憧れもあったし、カフカがエレクトロニクスを採り入れるのも必然的だと思えました」
気持ち悪さを感じつつ、ヴェイパーウェイヴには妙に惹かれて
――最近はヴェイパーウェイヴやチルウェイヴのような音楽も聴いているそうですね?
「音楽的にどうカフカに影響しているのかはわからないですけど、めちゃくちゃ聴いています。チルウェイヴは自然と入ってきたんですけど、ヴェイパーウェイヴはちょっと違和感のある音楽じゃないですか? だから最初に聴いたときは正直、気持ち悪いなという感じでしたね(笑)。ジャケットに日本語が書かれていたり、得体の知れない感じもあったり……。でも、妙に惹かれる部分もあったんです。最近はメンバーもスカイラー・スペンスとかポップ寄りのヴェイパーを聴くようになっていますけど、しばらくは誰とも共有できない趣味でした。もともとは(スカイラー・スペンスの改名前のプロジェクトである)セイント・ペプシをすごく聴いていて、彼の『Hit Vibes』(2013年)が好きだったんですよ。山下達郎をサンプリングしていたり、これが許されるんだと思ったりもして。そこから豊平区民TOYOHIRAKUMINやSubaerisあたりを聴くようになりました。バンドの影響源として聴いているわけではないけど、そういうものもいつか作れたら良いなとは思いますね」
――今回のアルバムでの大きな変化は、シティー・ポップや80年代風のアーバンな感覚が通奏低音になっていることですね。
「ヴェイパーウェイヴはよく80年代の日本の音楽やCMの曲をサンプリングしていますよね。たぶん、そういうものを通して良いなと思ったんじゃないかな。そこで、幼い頃に自分の脳裏に染みついていたものを素直に出せるようになったというか。杉山さんが担当していたスカイラー・スペンスとtofubeatsの相互インタヴューを読んでいても、スカイラーが菊池桃子のバンド、ラ・ムーを影響源に挙げていて、凄いなと思ったし(笑)。80年代の音楽では、キース・スウェットみたいなR&Bも好きです。エンジニアの采原史明さんからも前作の制作中に〈カネコくんの好きな要素をもっと採り入れていけばいいんじゃない?〉と言われたんです。とはいえ、バンド感を出すことも必要だったんで、バランスが重要でした。ウワモノをチープにしたらドラムはバキッとするとか、あくまでいまの音楽として仕上げることを意識しました」
――シティー・ポップ感と言えば、今回は“City Boy City Girl”という曲が収録されていますね。
「もともとそういう単語が好きなんですよね。俺自身もシティー・ボーイでいたいし、シティー・ガールが好きだし。そこに天邪鬼でいてもしょうがないというか。例えば渋谷を歩いていると、みんながキラキラしていて良いなと思うんですよ。いまは自分も東京に馴染んでいるつもりだけど、どこかでまだ憧れている部分もある。やっぱり自分にとってはイルミネーションなんかもあたりまえじゃないんですよね。ちょっとだけ夢のようというか」
――この曲にMaison book girlの矢川葵さんがコーラスで参加したのはどんな経緯だったんですか?
「アイドルなのにすごく暗い歌詞を歌っていたり、もともとMaison book girlが好きだったんですよ。だからCDを買って、ライヴを観に行ったんです。そのときに挨拶して、それから対バンもしました。“City Boy City Girl”を録っているときに、コーラスで女の子の声が入っていたら最高だよねという話になって、じゃあ葵ちゃんに歌ってもらいたいとお願いしたんです。彼女にはシティー・ガール代表として出てきてもらいました。とはいえ、シティー・ガールでいることに不安な部分もきっとあると思うんですよ。これは俺の勝手なイメージですけど、葵ちゃんも東京に憧れて上京してきて、街を歩いていても〈可愛いね〉〈綺麗だね〉と思われているだろうけど、当の本人は自分がその場所にいることに疑問を感じているんじゃないかなって。そういう人たちが世の中にはたくさんいるかもしれないと思って、この曲を作ったんです」

ギター・ロックを譲らなければ、何をやっても大丈夫
――最終曲の“あいなきせかい”の後に登場するシークレット・トラックには驚きました。ファンキーな曲に乗せて突然ラップしていて。
「あれは悪ノリです(笑)。完成したとき、すごく良いアルバムだと思ったんですけど、通して聴いたときに良くも悪くもズッシリきちゃったんですよ。アルバムを聴いたときに〈あとはそれぞれ勝手に考えてくれ〉というニュアンスを残したかったし、俺たちが音楽を楽しんでいることもわかってほしかった。メンバーの間でも、入れるかどうかで揉めましたね」
――揉めたんですか(笑)。
「反対意見としては、作品としての完成度が下がると。でも、そのボーナス・トラック感やちゃちい感じは、俺は名盤に必要な要素だと思っていて。真面目に良いアルバムを作っても、それが名盤になるとは限らないと思うんですよ。最後に〈なんちゃって〉と言えることで、すごく腑に落ちるというか。今回はその軽さをあえて入れたかったんです」
――ヒップホップに顕著だと思いますが、音楽には〈軽い題材を真剣にやる〉という向き合い方もありますよね。
「そうですね。俺とベースの(ヨシミ)ナオヤはヒップホップも好きなんですよ。ナオヤはポップ寄りのものやミクスチャーなんかを聴いていて、俺は5lackやPUNPEEが好き。THA BLUE HERBやLoop Junktionも聴いています。ミクスチャー的なサウンドをカフカとして出したことはなかったけど、今回シークレット・トラックでやってみたら、普通に良いと思えました。〈ダサイよね〉〈でも良いよね〉という感覚でレコーディング中もみんなずっと笑っていたし、アウトとセーフのギリギリに位置する魅力的なものになったと思うんですよ。このトラックがあるものとないものを聴き比べたんですけど、作品の聴こえ方や最後の印象も全然違うし、2周目を聴いているときの感じ方もだいぶ変わった。それに『あいなきせかい』というタイトルで〈愛〉を歌っているからこそ、重すぎないことが重要だった。〈俺の愛はこうだけど、みんなはどう?〉ぐらいの問いかけにしたかったんです」
――こんな種類の曲は昔のカフカでは絶対にできなかったですよね?
「絶対に無理でしたね(笑)。でも、もはや恐れるものはないんですよ。俺らにはギター・ロックというベースがあって、それを譲らなければ、何をやっても大丈夫なんだなと思えるようになった」
――さまざまな要素を加えていくことで、ギター・ロック自体を客観的に見ることもできるようになったと思うんですが、いかがですか?
「どうでしょうね? ギター・ロックに関しては、少なくともいまは聴いてないです。もう自分の血みたいなものだし、このバンドをやる以上はギター・ロックをやっていきたいという気持ちは間違いないけど、ギター・ロックでカッコイイと思えるバンドが、いまはいないんですよ。リバティーンズやストロークスはずっと聴いていますけど、普通のロックでは物足りない。あと、最近はジャズも聴きますね。ターンテーブルをもらったときに、ジャズの名盤をいっぱい買ってきて、いろいろ聴いているうちに、〈なるほど〉とわかってきたことが多かった。最近は、ジャズの要素が強いバッドバッドノットグッドや、ジャズとソウルを混ぜているジ・インターネットも好きです」
踊れる音だからこそ、言っちゃいけないことまで言える
――カネコさんが自分の好きな要素を持ち込めるようになってきたように、いまのカフカはメンバー全員が自分の好きなものを持ち寄れる環境になっているんでしょうか?
「そうだと思います。次第にメンバーの持ってくるネタがファンキーになり、バンドとしてもヒップホップっぽい、トラックっぽいものを作るようになってきて。今回の“heartbreak”は、あえて延々とループするトラックで作ってみたし、“Ice Candy”にはシューゲイザーのノイジーな美しさを入れました。あれはギター・サウンドがクリーンなものだったら全然印象が違ったと思う」
――あのギター・サウンドはインパクトがありました。ニルヴァーナの“Bleach”に音響的な要素を加えてぐちゃぐちゃにした感じというか。
「ギター・ロックは根本にありつつ、それ以外のエッセンスを加えることで新しい喜びが生まれるんです」
――昔といまとでは音楽性も変化していますし、バンドをやる感覚自体も変わっていますか?
「もうバンドをやっているという感覚ではないですね。ライフワークであり、自分にとってはこれがないと生きていけないもの。それにメンバー同士の仲も良いから、友達と遊ぶ感覚もある。いまは良い意味でラフになっていて、ガチガチに考え込まなくなったし、全員の良いところを意識せずともわかるようになったと思います。こいつはいま腑に落ちてねえなってことは言われなくてもわかるし、だからこそキワドイところまで行ってみたくなるんですよ。メンバーが〈行きすぎ〉とか、〈ここまで行くともう分からない〉となるポイントを探したくなる。たまに行きすぎてボツになることもあるんです。今回もヴェイパーウェイヴっぽい曲があったんですけど、それはボツになり……というか、“Ice Candy”に変わったんです。最初はサンプリングのコラージュみたいなものだったんです。ダークで冬っぽい曲を作りたくて」
――なるほど。最終的には真逆の、夏の曲になったんですね。
「そうなんです(笑)。“LOVESICK”も、一歩間違えるとジャニーズだよねという意見も出ていて、俺はおもしろいと思ったけど、最終的にはギリギリセーフのところに持って行った。そうやってバンド全員が音楽好きのままで、その気持ちを投げ合いながら曲を作っていけば、これからもたぶん大丈夫だと思うんです。自分が良いと思うものを日々探して、メンバーやリスナーともわかり合えたら楽しいですよね。最近のライヴも、こっちは人生をかけてやっているから、重さを出したくなっちゃうけど、リスナーはそこに囚われないで楽しんでくれている感じがあってすごく嬉しい。俺には俺の人生があり、お客さん一人一人にはそれぞれの人生があるけど、それを踏まえたうえで楽しんでいるのは健全。それができるのは、〈俺はこうだけど、お前はどう?〉と自分の意見をしっかり言ったからだと思う。だから、このアルバムを全然気に入らないと言ってくれてもいいし、私の愛はこうじゃないと言ってくれてもいい。見せるべきものは提示したよ、という感覚です。ライヴでは盛り上がってくれても、泣いてくれてもいいし、踊ってくれてもいい。気に入らなかったら来なくてもいいし(笑)」
――昔のカネコさんは〈ライヴが嫌い〉と言っていましたよね。いまはどうですか?
「いまは楽しいです。前はもっと硬い雰囲気だったから、いまさらですけど、お客さんの笑顔を見て自分たちも笑顔になれるというのは新しい経験なんですよ。もちろん、根本はいまも変わってなくて、自分の嫌な部分もさらけ出したうえで向き合っていますけど、踊れることで風通しが良くなると思うんです。踊れるサウンドだからこそ、言っちゃいけないことまで言える。その言葉に反応してお客さんが笑ってくれて、音楽に合わせて踊ってくれたら、それがいちばんのコミュニケーションだと思う」
カフカ『あいなきせかい』Release Tour〈KFKの逆襲がはじまるぞツアー〉
2016年11月4日(金)札幌COLONY
共演:Ancient youth club/限りなく透明な果実/Vianka
2016年11月10日(木)高松DIME
共演:ユビキタス/THE BOY MEETS GIRLS
2016年11月11日(金)広島CAVE BE
共演:ユビキタス/THE BOY MEETS GIRLS
2016年11月13日(日)福岡LIVE HOUSE Queblick
共演:ユビキタス/Suck a Stew Dry
2016年11月18日(金)大阪LIVE SQUARE 2nd LINE
ワンマン・ライヴ
2016年11月25日(金)名古屋ell SIZE
ワンマン・ライヴ
2016年12月1日(木)仙台enn 2nd
共演:ジョゼ/バンドごっこ/Over The Dogs
2016年12月2日(金)松本ALECX
共演:ジョゼ/ハンドごっこ/TRY TRY NIICHE
2016年12月3日(土)新潟GOLDEN PIGS BLACK
共演:ジョゼ/ハンドごっこ/TRY TRY NIICHE
2016年12月7日(水)恵比寿LIQUIDROOM
ワンマン・ライヴ/ツアー・ファイナル
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