〈東京〉への憧れと挫折、改めてそこで生きていく覚悟の気持ちを バンド史上最高にポップなサウンドで綴った、9篇(+1)の物語集!

 2013年にミウラウチュウ(ギター)が加入、2014年にはエレクトロニクスを導入した快作『Rebirth』を完成させた4人組ロック・バンドのカフカ。しかしながら、新章モードの彼らに人知れず激震が走っていた。

 「自分でもびっくりで、『Rebirth』のツアー後に何も出てこなくなっちゃったんですよ。気付いたらキャパオーヴァーで、音楽を楽しむ余裕もなく、人間関係もゴタつくし、メンバーにも〈バンド辞める〉と伝えて。そんななかで事務所の社長が〈曲作りはいいから、生活をしてほしい〉って言ってくれて、少し救われたんですよね。僕の価値は曲を作ることだと思ってたんで」(カネココウタ、ヴォーカル/ギター:以下同)。

 その生活で思うこと、見えてきたものがふたたび創作意欲を呼び起こし、結果的にニュー・アルバム『Tokyo 9 Stories』へと繋がった。今作のテーマは〈東京〉。

 「例えば、自動販売機でジュースが当たったみたいな。曲のテーマと歌詞はそういう些細なことでいいって思いました。それがいまの自分にとって大切だから。“サンカショウ”なんてまさにそんな感じ。以前は崇高さや幻想、理想に重点を置いてたんですけど、1回壊したくなった。あと、90年代のキラキラしたイメージが好きで、歌詞に(当時の)TVゲームとかドラマのネタとかを入れて、東京への憧れと挫折に織り交ぜてますね。カフカなりのアーバン感です(笑)」。

カフカ Tokyo 9 Stories UKプロジェクト(2015)

 這い上がった彼が「次へ向かうために必要な出来事だったのかも」と笑う通り、本作はカフカ史上最高にポップな仕上がりとなった。

 「“She's like Sofia Coppola”なんかは、8ビートやギターを弾くことの楽しさが思い出せて一気に出来た。そこを大事にしたくて、今作は基本バンド・サウンド。そのうえで曲ごとの最良な形を探しました。初期衝動と音楽的な知識がうまく混ざってる。“ニンゲンフシン”は4つ打ちでファンキーな色も入ったし、“月の裏側”も冷たいテイストが合うからギリギリで打ち込みに変えたんです。“Night Circus”は自分が抱える闇を許して一緒に踊れるものが作りたくて、ダンサブルなエレクトロ(調の曲)になりましたね」。

 アルバムを締め括るのは、エピローグと位置付けられた“東京”だ。

 「そこまでの9曲を受けた僕なりの結論ですね、本のあとがき的な。東京が居場所と言えるようになって、ここで生きていく覚悟が見えました。自分を許してあげられる人って少ないけど、生きてることが素晴らしいんだから、〈それでいいんだよ〉って伝えたいです」。