コラム

ゲームが世に問う、さまざまな起源としての92年―思い出深い節目の年をコンセプトに、西海岸愛の強さ示した新作『1992』

ゲームが世に問う、さまざまな起源としての92年―思い出深い節目の年をコンセプトに、西海岸愛の強さ示した新作『1992』

年3枚目のニュー・アルバムで世に問う、さまざまな起源としての92年

 92年といえば、かの〈ロドニー・キング事件〉を発端としてLA暴動が勃発した年である。音楽シーンに目を向ければドクター・ドレーの『The Chronic』が登場したのもその年の最重要トピックだ。スポーツ界では、バルセロナ五輪に参加したバスケットボール米国代表チームが話題を呼んだ年。そして、そのドリームチームのユニフォームを着てNBAスターに憧れていたジェイシオン・テイラー少年がストリート・ギャングの世界に足を踏み入れたのも、まさにその92年だったという。現在はゲームと名乗っている彼が、そんな思い出深い節目の年をコンセプトに掲げ、表題にも冠したのがニュー・アルバムの『1992』というわけだ。

THE GAME 1992 Blood Money/eOne/ビクター(2016)

 ブラッド・マネーを立ち上げて以降のゲームは、メジャー時代の大作主義的なノリから離れ、思うがままのフットワークの軽さで動いているという印象を受ける。2015年には『The Documentary 2』発表の1週間後に『The Documentary 2.5』を投下するという荒技に出ていたが、2016年も同名ドキュメンタリーのサントラという体裁で6月に『Streets Of Compton』を発表し、翌月にはアプリゲームのサントラとして『Block Wars』を発表……と勢いは止まらず。いずれも本線のオリジナル・アルバムではないものの、純然たる新曲集として楽しめる内容であった。今回紹介する『1992』は、それに続く2016年で3枚目の新作ということになる。

ゲームの2016年作『Streets Of Compton』収録曲“Roped Off”
 

 コンプトンというマッド・シティーでの少年時代を描いたという背景はケンドリック・ラマーのアレを思わせるし、LA暴動を今日的な〈Black Lives Matter〉の意識に結び付けるという視点から映画「ストレイト・アウタ・コンプトン」を思い出すという人も多いだろう。また、往時のさまざまなシチュエーションを描いたジャケのアートワークは、スヌープ・ドッグのデビュー作『Doggystyle』(93年)や最新作『Coolaid』のジャケを手掛けたジョー・クールによるもの。そこで意識的に鳴らされるサウンドも、少年時代のゲームが親しんでいた音楽からインスピレーションを手繰り寄せているのが実におもしろい。

 冒頭の“Savage Freestyle”でマーヴィン・ゲイ“Inner City Blues(Make Me Wanna Holler)”が流れ込んできただけで、いきなり興奮はピークに達してしまう。言うまでもなく同ネタ使いによるDOCの西海岸クラシック“The Formula”(89年)を連想させずにおかないわけで、こうしたさまざまな古典の引用がアルバムに〈92年のサントラ〉的な風情をもたらすべく機能しているのだ。続く“True Colors / It's On”ではアイス・Tの“Colors”とブラッズ&クリップス“Piru Love”を、そして“Bompton”ではこれまたDOCの“It's Funky Enough”をネタ使い。さらに“Fuck Orange Juice”はグランドマスター・フラッシュ&ザ・フュリアス・ファイヴ“The Message”というかアイス・キューブの“Check Yo Self”を連想させるものだろう。ひときわウェストコースト愛の強いゲームらしい展開だ。

 一方では西海岸クラシックだけでなく、当時のウータン・クランへの憧れを率直に発した“I Grew Up On Wu-Tang”ではウータンの代表曲“C.R.E.A.M.”を引用していたりもする。もちろんネタ使いとストーリーテリングの相互関係だけじゃなく、ミーク・ミルとのビーフを引き起こす原因になった“92 Bars”のように、常套手段のネームドロップを駆使したスリリングで好戦的なラップは今回も絶好調だ。作品の性質上ラッパーのゲストは皆無で、目立つ客演の名前も前に押し出してはいない(ジェレマイをフィーチャーした“All Eyez”は、輸入盤ではわざわざ別ディスクに分けられている)。

 結果的にはミックステープ的な軽さも発しながら、実力の程を改めて見せつけたゲーム。“92 Bars”でもシャウトを送るYGニプシー・ハッスル、ケンドリックら若手の活躍によって西海岸シーンのフレッシュネスはまた更新されつつあるが、この意気がある限り、彼が後続の面々に席を譲るような機会はまだまだ訪れないだろう。

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