CALI IZ STILL ACTIVE
[緊急ワイド]風は西から吹いている
各世代の猛犬たちが刺激的な作品を休みなく投下中。西から熱い空気が吹き込んで、昨年からの猛暑はまだまだ続くでしょう……
SNOOP DOGG
コンプトン勢を中心とする西海岸の隆盛に、ロングビーチのヴェテランは何を思う? 〈ギャングスタ回帰〉を掲げた噂のニュー・アルバム『Coolaid』がリリース!
現実と地続きのギャングスタ・ラップ
DG「いや、五輪は素晴らしいな」
ダレ「この本が出る頃には閉会式を迎えてるけどな。始まる前はそこまで夢中になる予定でもなかったけど、困ったもんだな。校了日が危うくズレ込むところだったわ」
DG「まあオレらはスポーツとミュージックをアッセンブルしていきたい人たちだからさ……」
ダレ「やめろ」
DG「ま、オレらにとってのリオデジャネイロといえば、スヌープが“Beautiful”のMVを撮影した場所ってことになるけどな」
ダレ「そうそう。で、そのスヌープの新作『Coolaid』の話だぜ」
DG「ぶっちゃけセレモニー感はないよな。ほぼ途切れることなく音源的な動きを見せてきてる意味ではドクター・ドレー師匠とは真逆だし、決してイマっぽい売り方じゃないね。もう本人がそこで何かを証明しようというスタンスじゃないのは明らかだけど」
ダレ「カニエやドレイクを筆頭に、大物の皆さんはうまくアルバムを祭りにしてるからな。ただ、時流を見計らいすぎて作品が出ないパターンも最近は多いから、思った時にすぐ出してくるフットワークの身軽さには頭が下がるわ」
DG「その意味で言うなら、今回は映画『ストレイト・アウタ・コンプトン』や師匠の『Compton』からの太い流れに触発されて作ったってことになるのか」
ダレ「だろうね。わざわざ〈ギャングスタへの回帰〉をテーマに掲げてるからな」
DG「あと、もちろんケンドリック・ラマーの存在もデカいだろうし、そこに触発されたゲームやYG、スクールボーイQとかのコンプトン勢が昔のギャングスタ・ラップを意識した作品を仕上げてきてる動きともシンクロしてるよ。去年はLBCムーヴメントってプロジェクトでミックステープ『Beach City』も出してたし、コンプトン勢の盛り上がりに何かを感じたのは確かだな。ケンドリックのようなコンシャスな目線がNWAみたいな表現と地続きだってことが、例の映画によってやっと文化的な人たちにも認められたのはデカいんじゃないかな」
ダレ「〈ギャングスタ・ラップ〉と呼ぶか〈リアリティ・ラップ〉と呼ぶかだけの違い……ってことは20年前からクーリオ先生が言ってたぜ。あと、サウンドでいうと、YGの初作ぐらいから、ちょっとしたGファンク、デス・ロウ的な音像への回帰現象はひっそり始まってた感じはするね」
DG「こないだもフェティ・ワップがまさにスヌープを迎えたウェッサイ・メロウな新曲“Westside”を出してたよな。そういうG代なら、まさにGを世界に広げた当G者の出番ってわけだ」
ダレ「というか、この10年ぐらいのスヌープは一本の流れに集中して何かをやる感じじゃなかったからね。がっちりファレルのモードに入った昨年の『Bush』もそうだし、ダブステップもレゲエも興味がいろいろ向いてて、コラボ相手の世界で自由に使われることを楽しんでるフシもあったというか」
DG「そうなったのはケイティ・ペリーの“California Gurls”(2010年)ぐらいからだろうな。ケイティいわくアリシアとジェイZの“Empire State Of Mind”に対抗する意味で〈西のシンボル〉を招いたらしいけど、それぐらいの大きいアイコンではあるよね」
ダレ「海外のダンス曲に声を入れたり、けっこうな頻度でやってるからな……」
DG「あと去年は映画『ピッチ・パーフェクト2』にも出て……気さくすぎるって!」
ダレ「冠番組があるのに、クイズ回答者とか食レポもホイホイやる芸人みたいな感じだよな。まあ、そこが愛くるしいとこだが」
DG「だから今回はある種のファン・サーヴィスではあるんだろう。みんな忘れてるけど、スヌープは〈原点回帰〉とか〈今回はギャングスタ・モードだ〉とかわりと口走ってる人だから……」
ダレ「まあな。とはいえ、Gの象徴的なデビュー作『Doggystyle』から組んできたダリル“ジョー・クール”がジャケのイラストを担当してるってことで、それなりのアレだと思うぜ」
地元メイドな感じ
DG「そうだな。で、肝心の『Coolaid』だけど、オマエはどう聴いた?」
ダレ「先行で披露された“Super Crip”からガツンときたよな! スクールボーイQの“Ride Out”とかにも通じる太さとかさ」
DG「“Murder Was The Case”も思い出すというか、ユルいけど濃密な感じはまさにGなスヌープ節だぜ。これを手掛けたジャスト・ブレイズとは丸ごと一枚作る噂もあったけど、今後はそっちにも期待だな」
ダレ「ちなみに〈Super Crip〉ってのは〈スーパーマン〉的な意味合いというか、もうブラッズ対クリップスのどうこうじゃないことは付け加えておこうか」
DG「ジャケ内のカートゥーンを見りゃわかるね。その意味でいうと今回もまたGなキャラクターを演じてるとも言えるが、役者ぶりは別格なのさ」
ダレ「あと、“Murder Was The Case”から言うと、今回はイントロの“Legend”で本人の裁判の件にも触れてる。この曲はドレイクの“Legend”をヒントにしたような作りなのもおもしろいね」
DG「そこでドラッギーなビートを提供してるのは、最近すっかりゲームのお気に入りになってるボンゴだな。コイツはジェレマイの歌う“Point Seen Money Gone”もやってて、注目しとくべき名前だね」
ダレ「“Ten Toes Down”を作ったロスも、ウィズ・カリファとのドロドロな“Kush Ups”を手掛けるKJ・コンテーも、新進というか西のローカル連中っぽい。リル・ハーフ・デッドやテラス・マーティンがちょいちょい入ってたり、ほとんどのミックスを盟友スーパフライがやってたり、今回は身近な犬たちと作った地元メイドな色を強く感じるよ」
DG「ダズ・ディリンジャーの人脈も多いしな、そういうホーミーたちとやる感じが本人にとってのGなんじゃねえかな。そのダズもダズミンと一緒に“Oh Na Na”を手掛けてる」
ダレ「ダズミンって?」
DG「ダズのInstagramによると娘さんのようで、大学を出たばっかみたいだ。顔は親父似だったぜ!」
ダレ「それはいいだろ。あとは毎回組んでるノッツか。意外にもスウィズ・ビーツが4曲もやってたり、他にもティンバランドとかヴェテランのロックワイルダー、ジャジー・フェイ、と過去に絡みのあった面々が参加してるけど、全体のトーンを損ねてはねえな。あと、久々にニガラッチ名義でセルフ・プロデュースしたディスコ・ファンク“Two Or More”も毎度の替え歌ノリでいいよな」
DG「ジノ・ソッチョ“Try It Out”ネタな。こういう曲を唐突に入れてしまう感じはいつものスヌープらしくもあるけどさ。ネタものではゲイリー・ニューマン“Cars”使いのJ・ディラ製ビートを貰った“My Carz”もあるけど、これはディラの『The Diary』に入ってた“Trucks”にまんま乗せたものだわ。マ・デュークスも流石のGだね」
ダレ「やめろや。“Don't Stop”でトゥー・ショート先輩を招いてたり、スムースな“What If”にDJクイック……じゃなくシュガ・フリーを招いたり、そう多くないゲスト選びもいいね。フィナーレの“Revolution”では新人のオクトーバー・ロンドンが盛り上げてくれる。そんなわけで、今回もなかなかのモンじゃねえかな?」
DG「言うまでもないぜ! 一方で本人はアメフトのコーチを務めるリアリティー番組『Coach Snoop』も始めてるみたいね」
ダレ「まあ、アメフトに関しては10年以上もガチなバックアップをしてきたっぽいからな。恵まれないキッズも受け入れる少年リーグからNFL選手が出てきてたりさ」
DG「その意味ではやはりスヌープも、スポーツと音楽をアッセンブルしてるのさ」
ダレ「何にせよ、本人が冒頭でフカしてる通りのリヴィング・レジェンドだぜ!」