ポスト・ロックを代表するバンドとして国際的な地位を確立したMONOが、昨年10月にリリースした最新作『Requiem For Hell』に伴うワールド・ツアーの一環で、今年2月に日本公演を行う。2月12日(日)は東京・代官山UNITで、進境著しいKlan Aileenをオープニング・アクトに迎えての登場。2月25日(土)、26日(日)に開催される〈Hostess Club Weekender〉では、初日の25日に同イヴェント初の日本人アクトとして、ピクシーズら3組と共に出演する。

バンド史上最大規模である今回のツアーは、全世界で10万人以上の動員が見込まれているという。それほどの成功を収めるMONOが海外に渡ったのは、かつて日本で抱いた怒りと孤独感がきっかけだった。彼らはなぜワールドワイドな成功を収めることができたのか? そして、いまの日本に思うこととは?――バンドの中心人物であるTAKA GOTOに、音楽評論家の小野島大氏が直撃。現在の心境を語ってもらった。 *Mikiki編集部

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MONO Requiem For Hell MAGNIPH/HOSTESS(2016)

 

僕らは日本人というより、アジアの代表として受け入れられている 

――昨年に『Requiem For Hell』という素晴らしいアルバムを発表されて、秋のツアーは中国から始まりヨーロッパ、今年に入ってアジアと、世界各地を回ってこられましたね。

「そうですね。いまはちょうどツアーの真ん中です」

――ここまでいかがでしたか。

「素晴らしかったですね。ヨーロッパでは今回、全部で3万人ぐらい動員があって、中国だけで1万人ぐらい。今年が結成18年目で、アルバムが今回で9作目なんですけど、ずっと(動員が)伸びているんですよ。1回も落ちていなくて、少しずつスロウに伸びているという感覚。だから、やり甲斐があっていいのかなと。中国ではもう5~6回やってます。最初は北京と上海だけだったんですけど、細かいところも回るようになって、今回は北京2デイズを含めた8公演です。中国は海外の音楽に対して、特にこの2~3年で門戸を大きく開くようになったんですが、僕らは最初のタイミングでその扉の中に入っていったんです。そう、アメリカやイギリスのバンドと同じように。アメリカでは一からの出発で苦労しましたけど、中国は最初からスムースでしたね。ロシアと中国はこの10年でがらりと変わったように思います」

MONOの2016年作『Requiem For Hell』収録曲“Requiem For Hell”
 

――門戸が開かれ、アメリカやイギリスのバンドと同じように、MONOも受け入れてくれた。

「中国で一番大きな音楽雑誌の表紙を僕らが飾っているんですよ。アジアのロック・バンドであるにもかかわらず世界で成功している。アジア全域でそういう認識だから。日本人のバンドとしてというより、世界で成功したアジアのバンドの代表として受け入れられている」

――歌がないインストというのも大きいかもしれませんね。中国では歌詞のチェックがあるそうですし。

「そうなんですよ。僕の友達のバンドもそれでライヴが中止になったりしていますから。中国にはFacebookはないんですが、それに匹敵するSNSがあって、そこに書き込まれたライヴの感想を読むと、(文章が)すごく詩的でスピリチュアルなんです。僕らの音楽にはそういうところがありますけど、それがちゃんと伝わっている。僕らの音楽がきちんとアートとして受け止められている。僕らはロック・エンターテイメントじゃないので。中国には、僕らの音楽の背景にあるものをきちんと言葉にできる国民性があるのかなと」

――いろんな解釈を受け入れる幅があるということでもありますよね。

「そうですねえ。村上春樹さんや宮崎駿さんとか、僕が知る限りその2人は世界のどこに行っても知られている。それ以外にはほとんどいないんですよ。でも、もし音楽でそれがあるとすればMONOなんじゃないかな」

2015年のライヴ映像
 

――MONOの音楽は想像力を刺激する音楽で、同じようにMONOの音楽に感動していても、中国の人が聴いているポイントと、われわれ日本人が聴いているポイントが違う可能性がある。そのへんは実際にプレイされて感じることはありますか。

「そうですね……例えば韓国や台湾などでは日本の企業が進出することで、いろいろなカルチャー、いいものも悪いものもぐちゃぐちゃになっている状況がある。MONOも好きだけどヴィジュアル系のこれもいいよね、AKB48みたいなアイドルも好き、みたいなマーケットが多少なりとも存在しているんです。でも日本のカルチャーが好き、という理由でコンサートに来るお客さんは長続きしないんですよ」

――ああ、そうですか。

「日本のカルチャーが好きなお客さんの前で演奏しても、何の発展性もない」

――へえ……。

「例えばインドネシアで初めてライヴをやった時は1,500人入ったけど、次にやるときには1,000人に減っていたとかね。それには理由があるはずじゃないですか。1回観ただけで満足しちゃったという」

――日本のカルチャーという曖昧なものに物珍しさ半分で接しているだけで、バンドの音楽を深く理解してのことではない。

「日本のバンドならなんでも良かったってことですよね。それでは長い目で見ると決して成功しない。きちんと音楽が伝わってないから」

――なるほど。

「なので中国も主要都市以外の細かい所も回って、きちんとライヴを通して僕らの音楽がどういうものか理解してほしかったんです。僕たちなりのコミュニケーションの仕方できちんと伝えて、基礎を固めていくことが大事だと思ったから」

――曖昧な〈日本のカルチャー〉の代表としてではなく……。

「過剰な情報操作の結果ではなく、ステージに立つ僕らと客席の人たちの間に強い共有感が生まれて、一生忘れられないような音楽体験をすればきっと繋がっていくだろう、という思いですね。その結果、動員が増えたし手応えも得られています」

――ヨーロッパはいかがでした?

「素晴らしかったです。18年間も回り続けているので、もう行ったことのない国はないぐらいなんですけど、いままでで一番手応えがあった。とにかくファンが熱くて。必ず来てくれるお客さんも各地にいる。10回観たとか言って子供を連れてきたり」

――バンドと共にファンも成長している。

「お互い大人になったというかね(笑)」

ベルギーでの2015年のライヴ映像