UK正統派ギター・ロックの最高峰といえば、リトル・バーリーを置いて他にいないだろう。ヴォーカル/ギターのバーリー・カドガンはプライマル・スクリームのサポート・メンバーとしての活動も長く、エドウィン・コリンズやモリッシー、ポール・ウェラーら大御所アーティストからもラヴコールを送られるミュージシャンズ・ミュージシャン。これまでに何度も来日しており、日本でも人気は高い。
そんな彼らがニュー・アルバム『Death Express』を2月15日(水)に日本先行でリリースする。前作『Shadow』から3年ぶりとなる今作は、砂埃の舞うハイウェイを錆びついたヴァンでかっ飛ばしているような、ローファイでサイケデリック、そしてタイトル通り〈死〉の匂いが濃厚なサウンド。これまでのようにロックやソウル、ブルース、ファンクといったスタイルを内包しつつ、音響的なアプローチをも施した意欲作だ。来る2月26日(日)には、2013年以来2度目の〈Hostess Club Weekender〉(以下:HCW)への出演が決まっている彼ら。大の日本好きとしても知られるバーリー・カドガンに、新作のことや〈HCW〉への意気込みなどについて訊いてみた。
〈死〉だけではなくて、人生のすべてを歌っている
――あなたたちはデビュー以来、さまざまなスタイルを内包しつつもソング・オリエンテッドな楽曲を作り続けてきました。それが、前作あたりから音響的なアプローチが増え、今作でさらに突き詰めているように感じたのですが、そうした変化はどのような理由で起きたのでしょうか。
「自分たちでは特に意識していないから、具体的な理由はよくわからないんだけど、今回はビースティ・ボーイズやカンといったバンドにかなりインスパイアされているんだ。もちろん、相変わらずストゥージズやMC5のようなバンドにもスピリットの面ではものすごく影響を受けているけどね」
――例えば、ビースティ・ボーイズからはどんな影響を受けていますか?
「ヒップホップでありながら、サウンドの中にさまざまな音楽要素を混ぜ込んでいるところ。僕らもそういうバンドでありたいんだ。ギター、ベース、ドラムというロックの要素を基に、自分たちにしか作れないサウンドを作りたいんだよね」
――他に、今作における新たなトピックはありますか?
「今回、初めて自分たちだけでプロデュースとレコーディングをやったこと。そのおかげでサウンド・プロダクションから何から、心ゆくまで実験して、追求することができたんだ。あとは、他のバンドというよりは自分たちの周りの環境がやはり影響していると思うね」
――例えば?
「一つ例を挙げると、アルバムの制作中に自分の携帯に登録されている番号を見返していたら、そのうちの何人かはもう亡くなっていたんだ。それを見て、いろいろ考えさせられた。時の流れや変化、そして自分にとって意味のあるものは何かを考えるようになったんだ。僕たちは、若すぎもしないし歳を取りすぎてもいない。昔を振り返りつつも未来のことも考えて、そしてそのなかで自分にとって大切なもののことを考える。そういったことが曲の内容に繋がっているよ」
――『Death Express』というタイトルや、表題曲の〈生きているのは支配されるためだけ ヒッチハイクして死に向かってる〉という歌詞からも、〈死〉の匂いが濃厚です。
「すべてがネガティヴなテーマではないけど、やはりこの歳になって、いろいろ考えるようにはなったね。僕らはエドウィン・コリンズ※と長い間知り合いなんだけど、彼は12年か13年前に心臓発作を起こして活動が危ぶまれたことがあった。そこから見事に復活していまだに素晴らしいレコードを作り続けているけど、エドウィンが言っていた〈毎日、一日一日が貴重だ〉というのは、本当にそうだと思うんだ。自分たちがいかに恵まれた環境にあるかを気付かされるようにもなった。つまり〈死〉だけではなくて、そういった人生についてのすべてが歌われているんだよ」
※スコットランドのギター・バンド、オレンジ・ジュースの中心人物。プロデューサーとしてリトル・バーリーの諸作に携わっている
――ソング・オリエンテッドな作風から音響的なアプローチへと移行したことと、そうした死生観への言及は関係していますか?
「少しはあるかもしれない。新作は前回と比べてサウンド的に少し影があるしね。でも実は、リズム的には今回のほうがアップビートなんだ。リヴァーブで作り出されるようなダークな部分と、アップビートなリズムを組み合わせたサウンドが作りたかったからね。ドラムは『Death Express』で一つのカギになっているよ。そのおかげで典型的なロック・バンドのサウンドではない、それを超えたサウンドが作り出せたと思う」
――“(Nothing Will) Eliminate”の歌詞に、〈人生が終わって墓に入るとき 思い返すのは自分が作り上げてきたもの〉とあります。
「この曲はすごくシンプルで、ただ愛について歌っているんだ。いまは自分にとって苦手だったり嫌いだったりする人でさえ、最終的には愛する人になっているかもしれない、というのがこの曲のアイデア。それはさっきも言ったように、自分にとって本当に意味があるものとは何かについて考えることと、きっと繋がっているんだよ」
――とても素敵な考え方です。“Vulture Swarm”には、〈心を解き放ち 魂を自由にしたいか? それなら連中を遮断しろ 切り捨てろ〉という一節があります。ここでいう〈連中〉とは?
「これは金銭欲についての曲だ。人をお金のために利用したり、その人の良さにつけ込むような様子を見ていて不快な気持ちになったことを歌っている。人はミスを犯すし、それが理解できる時もある。でも、なかには自分の良心を乱用して、気持ちを乱す奴がいるんだよね。例えば、素晴らしい人の周りに群がる嫌な奴っているだろう? 愛されたくて常に愛想良く振る舞い、その人から離れずにいる奴。その人にとっては〈自分に良くしてくれる人〉かもしれないけど、その人自身の良ささえ蝕むようなさ。そういう連中を、時には切り捨てる必要もある。そういうことを歌っているんだ。うーん、曲の内容を説明するのって本当に難しいな(笑)」
――ハハハ(笑)。それと、“Molotov Cop”の歌詞を読むと、2011年のイギリス暴動から昨年のEU離脱、そして今年のトランプ新政権誕生といった一連の政治的なトピックスに対する、あなたの諦観や失望などが歌われているように思ったのですが。
「いや、そうではないね。曲はすべてそういったことが起こる前に書いたから。ただトランプは大嫌いだな。彼が何をしたいのかさっぱり理解できないね。EU離脱については、僕は経済のことは全然わからないけど、ミステイクだとは思う。経済だけではなく、もっと大きな部分で人々に影響が出てくると思うし、その時にみんなが決断の愚かさに気付かされるだろうね」
デモっぽさを残しつつビッグなサウンドにしたかった
――サウンド面では、アメリカの西海岸沿いを縦断するタイトなツアー時に感じた 、カオスと美の混在を表現したそうですね。
「東京からLAに着いて、ツアーはそこから始まったんだけど、東京からのフライトで疲れているなかヴァンを借りて、まず9時間くらいドライヴしたんだ。かなりキツかったけど、なんだか普通では味わえないような素晴らしい体験をしているっていう興奮はあってさ。つまり、子どもの頃にテレビで観ていた大自然やショッピングモールがあったかと思えば、ただただ真っ直ぐの道と見えるものがどんどん変わり、そして夜になると何もなくなって街灯しか見えなくなる。その普通では感じられないようなフィーリングをすべて捉えたかったんだ」
――まさしくカオスと美の混在ですね。僕も以前、車でアメリカ西海岸を走らせていた時、砂漠とショッピングモールが交互に続くループにある種のサイケデリアを感じました。本作の延々と車窓の景色がループしているような感覚も、そういった光景にインスパイアされているのかなと。
「確かにそれもあると思うよ。あと、今回はミニマルなサウンドを意識したんだ。例えばビースティ・ボーイズやベックはサンプルを駆使しているけど、それはつまり、あるレコードのベストな部分を使って曲を作っているということ。僕らの場合、自分たちのセッションのなかから良い部分を抜き出して、それをループさせてみようと思ったんだ。さっき話したように、今回は自分たちでレコーディングとプロデュースを手掛けているから、それがやりやすい環境でもあったんだよね」
――自分たちで楽器の前にマイクを立てて、それでレコーディングしたんですか?
「うん。すべて自分たちだけでやった。これまでもデモまでは自分たちでレコーディングしていたけど、本格的に自分たちでレコーディングしたのは初めてだね。しかも特別な機材はまったく使っていないんだ。予算の都合もあって、長い間、もしくは頻繁にスタジオを借りられるわけでもなかったし、限られた環境のなかでどうやったらベストなサウンドを作り出すことができるか考えた結果、本当にベーシックなものしか使わないことにした。マイクだけはちょっと高いものを使ったけどね」
――どんなマイクを使ったのですか?
「友人がヴィンテージ・マイクを使って組み直した、ハンドメイドのオリジナル・マイクなんだ。プロトタイプなんだけど、俺たちのレコーディングで試しに使ってみてほしいと言われてね。あのマイクは結構サウンドに影響したと思う。他に高価な機材は一切使用していない。その代わり、音に誤魔化しが効かなくなるので高い演奏技術が必要になる。僕らはみんなプレイヤーとしてもお互いを刺激し、影響し合いながら進化しているんだ。それが新作にも表れていると思うよ」
――全体的に荒削りで、いい意味でのデモっぽさもあります。
「そう。デモの要素を大切にしたいというのもあった。デモってすごくパーソナルなものだと思うんだけど、その要素を捉えたかったんだ。デモっぽくありながらもビッグなサウンドというかね。そこで、知り合いからトミー・フォレストを紹介されたんだ。彼はスコットランドのエジンバラに住んでいて、ヒップホップやエレクトロニックのサウンドに詳しいし、カンのようなサウンドも好きだし、僕たちがビースティ・ボーイズのようにいろいろなサウンドを混ぜ合わせたものを作りたいということもすぐに理解してくれたから、バッチリだった。まず、僕らで軽くミックスしたものを彼に送り、手を加えて送り返してもらった。そんなやり取りを電話とメールで数回行ってアルバムは完成したんだ。なので直接会ったことは一度もないんだけど(笑)。それでもすごく上手くいったし勉強にもなったよ」
自分たちにとって日本は第2の故郷なんだ
――今作のジャケット写真は、2015年の来日公演の時に日本人のファンが撮ったものなんですよね。
「さまざまな要素を捉えたすごく良い写真だと思って、彼女にコンタクトを取って使わせてくれないかと頼んだんだ。使っていいと言ってもらえて本当にラッキーだったよ」
――プライマル・スクリームのメンバーとしての来日も含めると、もう何度も来日していますよね。日本の印象は変わらないですか?
「決してリップサーヴィスではなく、自分たちにとって日本は第2の故郷なんだ。来日のたびに温かく歓迎してもらっているし、国も人々も本当に大好きだよ。新作を出すたびに〈で、日本にはいつ行くの?〉ってマネージャーに訊いている(笑)。自分の憧れのバンドが日本で演奏している写真や映像を子どもの頃からよく見ていたし、いまは自分たちが演奏しに行く立場になっていることが本当に嬉くて光栄に思うよ。いまだに行くと決まれば興奮するしさ。確か前回は(2015年5月の)渋谷 duo music exchangeだったよね? あれは最高だった。これまでのショーのなかでも僕のお気に入りの一つだ」
――よく行く場所やお気に入りスポットはあります?
「大抵は東京に滞在して原宿へ行ったり、服屋や楽器屋、レコード屋を回ったりしてる。とにかくストリートを歩いてエナジーを感じるのが好きなんだ。またそれがやりたいね。今回は2、3日休みもあるし」
――今回は〈HCW〉へ出演するための来日です。2013年以来2度目の〈HCW〉ですが、イヴェントの印象は?
「すごく良かったよ。サウンドシステムもいいし、前回はオーディエンスも含めてすべてが最高だった。あと、オーガナイズが本当にしっかりしているんだよね。日本ってそこが本当に素晴らしいと思う。今回のラインナップだと、キルズは知り合いだよ。彼らのライヴを観るのは楽しみ。共通の友達もいるんだ。彼らは本当に良い人たちだし、パフォーマー、ミュージシャンとしても素晴らしい。もちろんレコードも最高だ」
――ちなみに、ここ最近で注目しているバンドは?
「おもしろいなと思うのはスキゾフォニックス。サンディエゴの3ピースなんだけど、そのバンドのフロントマンはもっともエキサイティングなミュージシャンの一人だと思う。素晴らしいギター・プレイヤーで、何かを持っていると思うね」
――では最後に、今後の抱負を聞かせてください。
「バンドとしてただただ成長し続けたい。新しいアルバムの曲もできるだけ多くの場所で、たくさんの人々の前で演奏したいと思ってる。進化し続けてエナジーをキープしつつ、もっとオリジナルでダイレクトなサウンドを追求していきたいね。本当に、ただベターになることだけを考えているよ。もっと頻繁にレコードが出せたらと思うけど、そう簡単にはいかないんだよな(笑)」
Hostess Club Weekender
日時/会場:2017年2月25日(土)、26日(日) 東京・新木場STUDIO COAST
開場/開演:12:30/13:30
出演:〈25日(土)〉ピクシーズ/MONO/ガール・バンド/ピューマローザ
〈26日(日)〉キルズ/リトル・バーリー/レモン・ツイッグス/コミュニオンズ
料金:通常2日通し券/13,900円、通常1日券/8,500円(いずれも税込/両日1D別)
★公演詳細はこちら
★2月13日追記
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