伝統芸能から新時代を切り開く ~海外から日本を見る作曲家が日本の美を語る~

 注目を集めている演奏家と作曲家のコラボレーションに出会えるコンサートが、今年も開催される。横浜みなとみらいホールでの「Just Composed in Yokohama 現代作曲家シリーズ」である。ホール館長の池辺晋一郎、音楽学者の白石美雪に加え、能アーティストの青木涼子が、コーディネーターとして迎えられた。

 近年の青木の活躍は目覚ましい。古典から新風が……という穏やかな表現よりも、古典から現代に鋭い切り込みを入れるような、目の覚める鋭敏なセンスが国内外のクリエイターたちの創作魂に火を点けている。今回、新作を発表する作曲家の馬場法子も、青木に触発された創作をし続けている一人である。

 フランスを拠点にし、日本を離れて20年あまり経つ馬場にとって、能や日本の文化はどのようなものなのだろうか。馬場に問うと、「日本にいた時は意識しなかった“仏教的無常観” “もののあはれ”など日本独特の美的理念が、最も尊く大切なものに思え、年々愛おしさが強くなっています。憂鬱と未完成と曖昧さの概念の中に美が存するという美学と、西洋音楽の持つ多声的な側面とを突き合わせて音を紡ぐ、これが創作時の一番の関心であり拠り所です」と、とてもリアルな言葉が返ってきた。

 馬場の現実的な切実さは、青木と共鳴するところがあるのかもしれない。青木も日本に留まらず、グローバルな視野を持ち活動をしている人だからだ。「青木さんの広い視野と、常に新しいことを探し求めクリエイターの要求に限界まで応えるプロフェッショナリズムを尊敬しています」と、馬場は言う。

 海外から日本を見る作曲家と、時空を超えて古典から現代を見る能アーティストのコラボレーションが始まったのは2012年。身体性も取り入れた謡と二人の奏者の為の《共命之鳥》が最初のコラボで、2015年には舞台作品である《Nopera AOI葵》が作られた。それは不思議と近未来を感じさせるものだった。二人の抱く真実が結実したかのような、時代の先端を行くアーティストによる表現だった。そして、2017年。新作は、「10分で観られる『羽衣』」がコンセプトだという。編成は、謡と弦楽四重奏。「天女の謡いはワルツと融合し、天女の纏う衣は弦楽四重奏によってその質感がオーケストレーションされる」という。

 今回で3回目となるコラボレーション。しなやかに妥協を許さない彼女たちだ。さらに深化しているに違いない。それは間違いなく、私たちの未来につながる“いま”を教えてくれる、生まれたばかりの芸術になるだろう。

 


LIVE INFORMATION

Just Composed 2017 in Yokohama ~現代作曲家シリーズ~
能・謡×弦楽四重奏

○3/12(日)17:00開演
出演:青木涼子(能)
成田達輝(ヴァイオリン)
百留敬雄(ヴァイオリン)
安達真理(ヴィオラ)
上村文乃(チェロ)
プログラム:ベートーヴェン/大フーガ 変ロ長調 Op.133
ジェルヴァゾーニ/「夜の響き、山の中より」(謡と弦楽四重奏のための)
斉木由美/ 新作(Just Composed 1999 委嘱作品「Deux sillages」を基にした弦楽四重奏曲)
馬場法子/謡と弦楽四重奏のための新作(Just Composed 2017 委嘱作品)
会場:横浜みなとみらいホール 小ホール
www.yaf.or.jp/mmh/