チェリスト、エリック=マリア・クテュリエに近況をきく
現代音楽集団アンサンブル・アンテルコンタンポラン(以下、EIC)のチェロ奏者、エリック=マリア・クテュリエ。AI研究の重鎮を父親に持ち、巨匠ブーレーズにも認められた世界最高レベルの演奏家。現代音楽における技巧は当然のことながら、クラシックの即興やインド音楽にまで造詣が深い。
いま、演奏家としての視点から語る、EICの公演の魅力とはなんだろう。また今回共演する能声楽家、青木涼子との、同時期発表の新作についてもきく――。
――まず2021年8月22日(日)に、サントリーホールで日本初演される細川俊夫作品オペラ『二人静』~海から来た少女~について教えてください。
「細川作品には、演奏家を落ち着かせ楽しませる要素があり、個人的にも好きです。この作品は以前演奏しましたが(注:2017年、パリにて世界初演)、記憶に残るのは青木涼子の存在感です。音楽との強い相互作用のなか、彼女の服装、彼女から放たれる光は輝き、恍惚感を覚えました。私の担当するチェロパートの技術的難易度は高くないにせよ、時間に意味をもたらすピンチャーの指揮を通して、音のエネルギーをコントロールし、ホールで音色の質感を確認する作業が重要になるでしょう」
――EICの音楽監督、マティアス・ピンチャーは指揮も作曲も行います。8月25日に日本初演される彼の作品、「光の諸相」について、また、本人がよく語る他分野の芸術からの影響について何かあれば。
「チェロ独奏の第2部“いまII”には、彼の作品に典型的な特徴があります。複数のドローンの中、特別なテクスチャーを生成させ、自由を生み出します。これが聴衆に対しても類まれな関係性をもたらし、ピンチャー作品をオリジナルなものにしています。またアンビエンスや浮遊といった要素だけでなく、予期できない雷鳴のような垂直的、暴力的で鋭利な要素。この2つのコントラストも魅力です。ピンチャーとは、スイスのルツェルン・アカデミーで教えていた頃(注:2002年から2000年代半ば)に出会いました。当時から彼は、(薄い布である)ベールの浮遊性や透明性や儀式性をテーマにした作品を作り、私も練習に参加しました。全体に対する視点を変化させるほどの、ディテールに対する徹底があります。透明性とテクスチャーの重要性についてはよく指摘しますね」
――EICでの公演が非常に多いですね。
「EICは、今回の来日で9つのプログラムを(注:水戸芸術館や神奈川県立音楽堂の公演を含め)行います。大変な挑戦ですが、どれも充実しています。とりわけ24日は傑作が並ぶ瞠目すべきラインナップで私も全曲演奏に参加します。リゲティのピアノ協奏曲では、我らのソリスト永野英樹が登場します。ポリリズムが多く登場し、単純なメロディの背後に、驚くべき機械的な変化が起こります。『メモリアル(…爆発的・固定的…オリジネル)』はフルートのソロが美しい、呪文のような作品です。『動き(硬直の前の)』は、音のパイオニアであるラッヘンマンによる強力でダイナミックな曲です。『裂け目[リス]1』は、ピンチャーのみが起こせるマジックがあり、パリからの素晴らしい土産になるでしょう。『初めに[ベレシート]』は、私たちが大好きな作品で、ほとんど調性的、ロマン主義的に終わります」
――リモート録音なのに、それを感じさせない自然な演奏が話題を集めている、能声楽家の青木涼子とのアルバム『夜の詞 Yoru no Kotoba』について教えてください。
「まず、リモートのディレイを感じさせなかったヤマハの技術に感謝します。演奏は、時間をどのように感じ、認識するかが重要となりますが、青木涼子は素晴らしい音楽家/アーティストで、互いの持つ異なる時間感覚を、理解し合いながら演奏ができました。彼女の歌に導かれ、感覚が開かれ、研ぎ澄まされた、通常の録音では体験できないような、五感を超えたテレパシーのようなものを感じ取っていただきたいです。5人の作曲家たちの作品もどれも素晴らしいものでしたね」
――最後に一言お願いします。
「EICの一員として来日し、伝説的な会場であるサントリーホールで演奏できること、とても光栄に感じており大変楽しみにしています」
LIVE INFORMATION
サントリーホール サマーフェスティバル 2021
東洋―西洋のスパーク
2021年8月22日(日)東京・赤坂 サントリーホール 大ホール
開場/開演:17:20/18:00
■曲目
細川俊夫:オペラ「二人静」~海から来た少女~ 日本初演*
原作(日本語):平田オリザ 能「二人静」による(1幕1場/英語上演・日本語字幕付/演奏会形式)
グスタフ・マーラー/コーティーズ編曲:「大地の歌」(声楽と室内オーケストラ用編曲)**
■出演
シェシュティン・アヴェモ*(ソプラノ)/青木涼子*(能声楽)/藤村実穂子**(メゾ・ソプラノ)/ベンヤミン・ブルンス**(テノール)/マティアス・ピンチャー(指揮)/アンサンブル・アンテルコンタンポラン/アンサンブルCMA ほか
EICアンサンブル
2021年8月23日(月)東京・赤坂 サントリーホール ブルーローズ(小ホール)
開場/開演:18:20/19:00
■曲目
クレール゠メラニー・シニュベール:「ハナツリフネソウ」ヴィオラ、ハープのための
バスチアン・ダヴィッド:ピアノのためのソロ
武満徹:「そして、それが風であることを知った」フルート、ヴィオラとハープのための
坂田直樹:「月の影を掬う」クラリネットとピアノのための
マティアス・ピンチャー:「ビヨンドII(『明日に架ける橋』)」フルート、ヴィオラ、ハープのための 日本初演
ジェラール・グリゼイ:『時の渦[ヴォルテクス・テンポルム]』ピアノと5つの楽器のための
■出演
エマニュエル・オフェール(フルート)/ソフィー・シェリエ(フルート)/アラン・ビヤール(クラリネット)/マーティン・アダメク(クラリネット)/ヴァレリア・カフェルニコフ(ハープ)/ディエゴ・トージ(ヴァイオリン)/ジョン・スタルフ(ヴィオラ)/オディール・オーボワン(ヴィオラ)/エリック=マリア・クテュリエ(チェロ)/セバスチャン・ヴィシャール(ピアノ)
コンテンポラリー・クラシックス
2021年8月24日(火)東京・赤坂 サントリーホール 大ホール
開場/開演:18:20/19:00
出演:ソフィー・シェリエ*(フルート)/永野英樹**(ピアノ)/アンサンブル・アンテルコンタンポラン
指揮:マティアス・ピンチャー
■曲目
ヘルムート・ラッヘンマン:「動き(硬直の前の)」アンサンブルのための
マーク・アンドレ:「裂け目[リス]1」アンサンブルのための 日本初演
ピエール・ブーレーズ:「メモリアル(…爆発的・固定的…オリジネル)」ソロ・フルートと8つの楽器のための*
ジェルジュ・リゲティ:ピアノ協奏曲**
マティアス・ピンチャー:「初めに[ベレシート]」大アンサンブルのための 日本初演
テーマ作曲家 マティアス・ピンチャー
サントリーホール国際作曲委嘱シリーズNo. 43 (監修:細川俊夫)
ブーレーズを少々
2021年8月25日(水)東京・赤坂 サントリーホール ブルーローズ(小ホール)
開場/開演:17:20/18:00
出演:ディミトリ・ヴァシラキス(ピアノ)/永野英樹*(ピアノ)
曲目:ピエール・ブーレーズ:2台ピアノのためのピアノ・ソナタ第2番/「構造[ストリュクチュール]」第2巻*
室内楽ポートレート(室内楽作品集)
2021年8月25日(水)東京・赤坂 サントリーホール 大ホール
開演/開演:18:50/19:30
曲目:マティアス・ピンチャー:「光の諸相」チェロとピアノのための* 日本初演/「音蝕」ソロ・トランペット、ソロ・ホルン、アンサンブルのための ** 日本初演
■出演
ディミトリ・ヴァシラキス(ピアノ)/永野英樹*(ピアノ)/エリック=マリア・クテュリエ*(チェロ)/クレマン・ソーニエ**(ソロ・トランペット)/ジャン=クリストフ・ヴェルヴォワット*(ソロ・ホルン)
指揮:マスティアス・ピンチャー
アンサンブル・メンバー:上野由恵(フルート)/池田昭子(イングリッシュ・ホルン/オーボエ)/田中香織(クラリネット)/山根孝司(バス・クラリネット/クラリネット)/中川日出鷹(ファゴット)/ジュール・ボワティン(トロンボーン)/神田佳子(パーカッション)/稲野珠緒(パーカッション)/篠﨑和子(ハープ)/秋山友貴(ピアノ)/成田達輝(ヴァイオリン)/大江馨(ヴァイオリン)/安達真理(ヴィオラ)/山澤慧(チェロ)/加藤雄太(コントラバス)
作曲ワークショップ(日本語通訳付)
2021年8月26日(木)東京・赤坂 サントリーホール ブルーローズ(小ホール)
開場/開始:18:20/19:00
レクチャー:マティアス・ピンチャー/細川俊夫
出演:辺見康孝(ヴァイオリン)/北嶋愛季(チェロ)/菊地秀夫(クラリネット)
オーケストラ・ポートレート(委嘱新作初演演奏会)
2021年8月27日(金)東京・赤坂 サントリーホール 大ホール
開場/開演:18:20/19:00
出演:岡本侑也*(チェロ)/東京交響楽団
指揮:マティアス・ピンチャー
■曲目
マシュー・シュルタイス:「コロンビア、年老いて」
マティアス・ピンチャー:「目覚め[ウン・デスペルタール]」チェロとオーケストラのための *
マティアス・ピンチャー:「河[ネハロート]」オーケストラのための
モーリス・ラヴェル:「スペイン狂詩曲」
https://www.suntory.co.jp/suntoryhall/feature/summer2021/
音楽堂ヘリテージ・コンサート
2021年8月29日(日)神奈川県立音楽堂
開場/開演:14:30/15:00
■曲目
ジェラール・グリゼイ:2つのバスドラムのための「石碑」
アンナ・ソルヴァルズドッティル:Hrím(霜)
ジェルジ・リゲティ:13人の器楽奏者のための室内協奏曲
ピエール・ブーレーズ:アンセム1(無伴奏ヴァイオリンのための)
一柳慧:室内交響曲「タイム・カレント」
ミケル・ウルキーザ:さえずる鳥たちとふりかえるフクロウ
■出演
アンサンブル・アンテルコンタンポラン
※公演内容、曲目は変更されることがあります。あらかじめご了承ください