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【starRoのLos Angeles云々】Vol.10 And the Grammy goes to...グラミー賞候補になって見えた、世界的な音楽の祭典の光と影

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授賞式会場入口
 

さて、その授賞式ですが、実は〈プレミアム・セレモニー〉と〈メイン・セレモニー〉の2つあります。グラミーのカテゴリーはなんと84部門にも上りますから、当然全部TV放映するわけにはいきません。なので、〈メイン・セレモニー〉にあたる主要4部門以外はTV放映のない〈プレミアム・セレモニー〉で授賞式が行われるんです。僕の入っているリミックス部門はもちろん〈プレミアム・セレモニー〉になり、メインより先に行われるので、お昼12時からのスタート。初めての授賞式のため、服装も相当気合いを入れてしまい、朝早くに起きてその準備だけで何時間もかけてしまった結果、会場オープンの時間ギリギリに到着してしまいました……。

参加者を迎え入れるレセプション・コーナー(いわゆるレッド・カーペット)はプレミアム&メイン共通なんですが、到着するとすでにものすごい人数の正装した方々がグラミー像の前で記念撮影をしており、いよいよTVでしか観たことのない〈あの世界〉に突入していきます。そこでも結構気持ちが高まるんですが、そこを過ぎるとプレス用の通路へ。世界各国のTV局のブースがズラーッと並んでいて、インタヴューを受けたりします。あちこちでミュージック・ビデオでしか観たことのなかったアーティストがインタヴューを受けていて、キョロキョロせざるを得ません……と他人事のように見ていると、これは取材者側からインタヴューの依頼が来るわけじゃなく、アーティストみずから各ブースに〈俺に話を訊け〉みたいな感じで志願する仕組みみたいで、人気のあるメディアにはインタヴューされたいアーティストが行列をなしているという、なんとも言えない光景(笑)。僕は並ぶのが苦手なので、4つほどからインタヴューを受けておしまいにしましたが、それでも結構時間を取られました。

プレス・エリア
 
プレス・エリアで知り合いの候補者、キングとばったり
 

で、そうこうしているうちに、プレス・エリアはまだ人でごった返しているにもかかわらず、なんと式は始まっていました! プレス・エリアを抜けると、例のグラミーの蓄音機マークのバックグラウンドで写真を撮る場所があり、そこで急ぎ足で写真を撮った後、やっと式のある会場に辿り着きます。すると先回りしていた僕のマネージャーが焦った顔で〈リミックス部門の発表は次の次らしい!〉と伝えてきました(というか式のプログラムを先にくれよって感じ)。リミックス部門の発表は式の最初のほうだったみたいなんです……。

インタヴュー中
 
WOWOWのインタヴュー、放送してくれなかったけど(笑)
 

実は僕、受賞した時のために読み上げる人たちの名前リストを作っていたんですが、そういえばあの人入れてない、みたいなのがまだあったので、席についてから焦ってiPhoneにぽちぽちリストを入れはじめました(もう受賞する気満々!)。本当はトイレにも行きたかったし、でも名前のリストは完成していないし、まだ心の準備が出来ていないし、えっ、えっ、となっているうちに、〈さて次はリミックス部門の発表です〉というアナウンスが……。そして候補者の名前が読み上げられます。僕の名前も読み上げられ、会場の誰かが〈starRo!〉と叫んでくれたりして、一気に緊張がMAXに。〈And the Grammy goes to...(そしてグラミーの受賞者は)〉と……。

その後に読み上げられた名前を、僕は聞き取れませんでした。
でも僕じゃないことはわかった。

その瞬間、異常に冷静になりました。受賞を逃した悔しさよりも、まずレセプションに着いてからのドタバタと目まぐるしい展開が一気に止まって、興奮が突如冷めた感じです。〈あれ、終わっちゃった?〉と思いました。受賞したRACの壇上スピーチが終わると、とにかく〈疲れた〉ということだけが頭をよぎります。その後の部門発表は、もう上の空です。本当は知り合いのアーティストが多く候補に入っている後半のR&Bやラップ部門の発表を見たい気持ちもあったんですが、もう疲労がどっときてしまい〈帰りたい〉と思いました。それで、何部門か発表を見て、会場を出ました。もちろんその時にはもう悔しさしかないです。一旦会場近くに取っていたホテルへ戻り、部屋でストリーミング配信を観戦していたスタッフや友人のみんなと再会。本当は〈おめでとう!〉って祝杯をあげられるはずだったのになあ、なんておセンチになったりして(笑)。

そこで次の〈メイン・セレモニー〉が始まるまで1時間ほど休憩。気持ちがちょっと落ち着いたところで、また会場に戻りました。会場に戻ると、 流石に夢にまで見たグラミーのメイン授賞式。すぐそこにビヨンセアデルとかがいるし、またちょっとだけ興奮が甦ります。

アデルによる流石のオープニング・パフォーマンス
 

そしてアデルのパフォーマンスから式典はスタートしました。圧巻の歌唱力、幸先いいスタートです。でも会場内では一切お酒を売っていないし、だんだん冷静になってきちゃいまして。そして気付いてしまったんですが、メインの授賞式はTV放送が主な目的で、会場にいる僕らはその撮影のエクストラみたいな感じになっていることです。CMの時間になると〈はい、CM入りまーす〉みたいな放送が流れるし、CMが終わると〈あと10秒で席に着いてください〉というアナウンスが。で、またパフォーマンスが始まるんですが、ステージの半分をそのパフォーマンスのセットに使って、もう半分は次のパフォーマンスのセット準備で舞台スタッフが目まぐるしく動き回っています。後ろでサウンドチェックしているのも見えちゃってますし。TVではそのパフォーマンスだけが映っているので、ものすごい壮大に見えるんですけど、会場にいるとそのパフォーマンスはどデカイ舞台セットの一部みたいな感じで生々しく、ちょっと冷めてしまう感じが……(笑)。

授賞式会場
 
 
場内は超満員
 

おもしろかったのは、会場で鑑賞するといわゆる壮大なセットで魅せるタイプのパフォーマンスはあんまり見応えがないのですが、一方でよりライヴ感のあるステージではすごくグッとくる。とにかくその差がはっきりしていたんです。今回のパフォーマンスで圧巻だったのはブルーノ・マーズでした。変にヴィジュアル的な細工は施さず、あくまでライヴ・パフォーマンスで魅せる彼の圧倒的な存在感。この人はすごいなと思いました。また、アンダーソン・パックア・トライブ・コールド・クエストバスタ・ライムズのコラボ・パフォーマンスもいちファンとして興奮しましたけどね。

アンダーソン・パック&ア・トライブ・コールド・クエスト&バスタ・ライムズのパフォーマンス
 

パフォーマンス以外で言うと、とにかくチャンス・ザ・ラッパーの複数受賞は本当に感動しました。僕らと同じSoundCloudで育ったインディーズ・アーティストがグラミーを獲っちゃったんですよ。個人的にはその歴史的な瞬間を生で観ることができたことが授賞式最大の収穫でした。

チャンス・ザ・ラッパーの受賞スピーチ(英語)
 

ということで、僕の〈メイン・セレモニー〉の所感は、もう感動しっぱなしとかではまったくなくて、要所要所に見どころがあったという、どちらかというとサッカー観戦みたいな感じでした。でも楽しかったです!

さて、メインの授賞式も終わり、いろんなところでレコード会社主催のアフター・パーティーが開催されます。よくメディアにも取り上げられているので、知ってる方もたくさんいると思います。でも、なんか行く気分になりませんでした。その頃には受賞を逃した悔しさを引きずってはいなかったんですが、もう薄っぺらい社交場はお腹いっぱいで。授賞式自体もそうですけど、メディアで一般の人に伝えられるのは表面のキラキラした部分だけ(グラミー受賞式が完全にTVのセット化しているのがその象徴)。本来は良い音楽を作ったアーティスト、そして音楽というアートをお祝いするイヴェントのはずですが、実際はそれとは全然関係ない人々が群がって、浮かれてドンチャン騒ぎをしている――それがグラミーの本当の姿なんだなと思いました。

だから最後は、支えてくれた家族、内輪の人たち、そして仲間のアーティストとだけと静かに祝いたかった。なので僕らはThe Residentという行きつけのバー・ラウンジで、真のグラミー祝賀会をシッポリやりました。そこでやっと、グラミーを心からお祝いできた気がしましたね。その会には今回いくつもグラミーを獲得したアーティストの受賞曲を作曲した友達のプロデューサーも参加していました。彼が書かなかったら、そのアーティストも受賞していなかったであろう真の立役者です。その友人は楽曲を提供したアーティストの受賞祝いアフター・パーティーに招待されませんでした。パーティー会場には一応行ったらしいのですが、リストに入っていないからと門前払いされたらしい……。そんな彼と、閉店後も店を開けておいてくれたThe Residentで静かに祝杯をあげ、いろいろと語り合いました。僕のグラミー体験は、まさにグラミーの世界の裏側を象徴するような形で幕を閉じたのです。

今回の経験で、僕は真の意味で支えてくれている皆さんのありがたみを痛感しました。これからも、音楽家としてやってくうえでたくさんのドロドロとしたものが付きまとってきますが、応援してくれる皆さんがいなかったらすぐに潰れています。だから最後は感謝の言葉でこの回を締めたいと思います。

皆さん本当に本当に、いつもサポートありがとうございます。もっともっといいもの作って、恩返しさせてください。今後ともよろしくお願いします。Much Love from LA!

 

PROFILE:starRo


LAを拠点に活動するプロデューサー。いま注目を集めるかの地のレーベル/コレクティヴ・Soulectionに所属し、オリジナル曲の制作に加えてフランク・オーシャンアウトキャストリアーナアッシャーなどのリミックスを自身のSoundCloudで多数公開するほか、滴草由実ら他アーティストへの楽曲提供なども行う。2015年2月に初EP『Emotion』をリリース。コンスタントに現地でライヴ/ツアーも行っている。昨年にはファースト・フル・アルバム『Monday』(MIYA TERRACE/トイズファクトリー)をリリース。そのほか最新情報はこちらでチェックを! 

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