皆さん、大変ご無沙汰してしまいました、starRoです。まだ覚えてますか、ぼ、ぼくのこと……。前回、アメリカに挑戦したい人へのアドヴァイス的なことを偉そうに書いたアイツです。その節は夢もロマンもない超現実的なことをいろいろ書いて出鼻をくじいてしまい、すみません……。でも、思い出してください、あのコラムの最後はいろいろ厳しいこともあるけど、それでも挑戦する価値あるよーって、笑顔で締め括りましたよね? そう、アメリカは音楽マーケットが日本より全然大きいし、インディーズっぽいことをやっていても結構食えたりする土壌はあるし、世界中から才能が集まっているから、そういうなかで挑戦する刺激もあるし、何よりもほら、〈アメリカン・ドリーム〉ってダサいけど、やっぱり追っかける価値はあるんですよ。

でも、僕が日本の皆さんにいまアメリカでぜひ挑戦してほしい最大の理由は他にあります。それは、アメリカにおいて僕らアジア系が歴史的な潮目の変化の時期に来てるということです。ということで、今回はアメリカの音楽マーケットにおけるアジア系の台頭をテーマにします。といっても、これを真剣に書いたら本1冊出来てしまうぐらいの壮大なテーマなので、本当に触りだけしか書けませんが……。

 

アメリカにおけるアジア人の存在――韓国系の凄まじい勢い

さて、まずですね、ここアメリカのエンターテイメントにおいて、アジア人の存在がどれぐらい透明人間状態なのかをわかっていただく必要があります。今年のアカデミー賞では司会者のクリス・ロックが、アフリカ系の俳優がいかに無視されているか、いかに白人系が優先的に選ばれているかを声高に訴えて話題になりました。グラミー賞でも、カニエ先生を筆頭に白人優位な選考が常に指摘されています。こういうのを見ていて、自分もマイノリティーとして〈そうだそうだ!〉と思う反面、心のどこかでちょっとテンションが低くて乗り切れない部分もあります。なぜなら、僕らアジア系は、アフリカ系やラティーノ系以下。存在さえしていないからです。人間ね、自分も対等に扱われるべき存在っていう自負があるから差別に対して意識が高まるのであって、アジア人みたいに存在さえ認識されていなかったらね、差別されてるっていう認識さえ芽生えないんですよ。

2016年アカデミー賞におけるクリス・ロックのオープニング・スピーチ
 

ハリウッド映画でアジア系男優がカンフー以外で主役になることなんてまずないし、アジア系のシンガーがビルボードで常にトップ・チャートに顔を出すようなスーパースターなど出現したことはありません。でも、それはある程度仕方ない部分もあるんですよ。なにせアメリカ全体のアジア系の人口比率は約5%しかないんですから。アメリカは人種のるつぼなんて言われますが、かなり人種によって分断されているものです。

いい音楽は国境も人種も越えるなんて言いますけど、僕の肌感覚ではそうでもありません。僕がいろんな人のツアーやコンサートの前座をやったりした経験では、白人ばかり集まるショウと黒人ばかり集まるショウで、結構はっきり分かれます。フェスでも世界中から人が集まるメガ・フェスは別ですが、中規模ぐらいのフェスだと、人種構成が多様なカリフォルニアでも、ほぼ白人しかいないフェスは結構あります。ラティーノはラティーノで独自のマーケットがあって、南米系のスターはビルボードには登場しないけど、コンサートはスタジアムが連日ソールドアウト、なんてことがあるみたいです。

つまりですね、音楽は民族性が深く絡んでいるんですよね。だからその人種の規模が大きければ大きいほど、ファン・ベースも構築しやすいということです(もちろんそのぶん競争も激しいですけど)。

さて、アジア系。アメリカの全人口の5%しかいないくせに、他の人種と違って出身国によって言葉も文化も違ったりするので、オール・アジア体制が出来ておらず、実際にはマーケットはさらに分断されます。なのでアジア系で音楽をやるのは結構厳しいんですよ。

ただですね、そんな苦境のなかにいる俺たちエイジアン・ピーポーでも、ちょっと光が見えはじめているんです。それは韓国系の躍進です。まず、2010年にアジア系にとって重要な出来事がありました。それはアジア系の4人組、ファー・イースト・ムーヴメントがアジア系として初めてビルボードで1位を取ったのです。ファー・イースト・ムーヴメントは実際には韓国系2人、日系/中国系ハーフが1人、フィリピン系1人という構成ですが、もともと活動はコリアン・タウンから始まっており、韓国系コミュニティーを代表する存在でした。

ファー・イースト・ムーヴメントの2010年作『Free Wired』収録曲“Like A G6”
 

その後、韓国出身のPSYによる“Gangnam Style”(2012年)が全米を圧巻したり、同じく韓国出身のラッパー・KEITH APEが韓国語のガンガン入っている曲“It G Ma”(2015年)で、アメリカのラップ・ミュージックの歴史のなかで超異例となる大ヒットをマークしたり、とにかくこれまでアジア系にはなかったことがここ5年ぐらいで次々と起こっています。そして、その中心にいるのが韓国系なのです。

で、なぜ韓国系が成功しているんでしょうか。別に僕はその経緯を研究している博士でもなんでもないので、はっきりしたことは書けないんですけど、自論を語らせていただきますと、日系人も中国系も100年以上の移民の歴史があり、いまはもう5〜6世代目になっていて、そもそも日本人とか中国人としてのアイデンティティーは稀薄です。一方、韓国系は比較的歴史が浅く、いまの20代ぐらいはまだ2世代目ぐらいですかね。言語、音楽的な素養など完全にアメリカ人として育っている一方、韓国人としてのアイデンティティーも強く持っています。なので韓国系のアーティスト同士で助け合ったり、韓国系のアーティストを応援する基盤があったりという環境が、他のアジア系と比べても格段にいいんです。

こういった韓国系の躍進を背景に、トキモンスタなどのスター・プロデューサーが登場しているし、CLはアメリカではもはやそこいらのアメリカのヒップホップ/R&Bアーティストを凌駕する存在感だし、DEANという韓国出身の新星R&Bシンガーもいまアメリカで大躍進しています。

トキモンスタの2016年の楽曲“Put It Down”
 
CLの2015年のシングル“Hello Bitches”
 
DEANの2015年のシングル“I'm Not Sorry”
 

また、LAでいま一番盛り上がりを見せているレギュラー・パーティーのひとつ〈Spam N Eggs〉は、これまたファー・イースト・ムーヴメント、トキモンスタ、ダムファウンデッド(Dumbfoundead、韓国系の人気ラッパー)が主催。会場も韓国系経営のクラブと、完全にコリアンによるオペレーションですが、もはや人気はアジア系の枠を超えています。

LAの名物パーティーになりつつあるマンスリー・パーティー〈Spam N Eggs〉
 
韓国系アメリカンを代表するラッパー、ダムファウンデッドの最新シングル“Safe”。本稿でも触れている白人至上主義なエンターテイメント業界に一石を投じる問題作。ビデオ最高です
 

あ、もうひとつ忘れちゃいけないのが、いま破竹の勢いでスターダム街道まっしぐらのアンダーソン・パックも、お母さんが韓国人ですね。最近ではもうアジア系をレペゼンしているイメージはありませんが、ブレイクする直前までは結構韓国系のイヴェントでライヴをやったりしていたし、韓国系の仲間とよくつるんでいました。

アンダーソン・パックの2016年作『Malibu』収録曲“The Season/Carry Me““The Waters”
 

 

アメリカで日本人がサヴァイヴしていくには?

ということで、えらいコリアン推しになっていますが、それぐらいコリアンの勢いは本当にすごいし、とにかくコミュニティーの規模と力強さが半端ないんです。そしてそもそも韓国本国で流行っている音楽コンテンツ自体がアメリカンテイストなのと、アメリカでも通用する実力が揃っているので、この躍進は本物な感じがすごくします。

韓国の大御所ヒップホップ・ユニット、DYNAMIC DUOのLA公演。ラッパーのワンマン・ライヴでLAのこれくらいの規模の会場で、韓国系だけで超満員になっちゃうって……残念ながら日本人にはあり得ないですね……
 

あれ、この話、日本人と関係ないじゃねーかって話ですよね? 大丈夫です、〈コリアンに比べてジャパニーズときたら〉みたいなクダを巻くためにこれを書いてるわけじゃないですから(笑)。

えっとですね、まず現実的なことを言うと、韓国系のように日系コミュニティーだけでシーンを盛り上げてアーティストを育てるというのは、たぶんもう難しいと思います。さっき言ったように、日系アメリカ人はもう5~6世代に渡っているため日本人意識みたいなものはまったくないし、〈リトル・トーキョー〉なんて名ばかりで、日系人が住んでいるわけではなく、みんなバラバラに散っていますから。逆に、新しい日本人移住者はまあほぼいないに等しい。で、アメリカの大都市だと、それでも日本国籍の人はそこそこの人数は住んでいますが、学生さんか駐在員なんで、こっちで日系アーティストを育てようなんていう意識はもちろんありません。なので日本人だけの自給自足状態は残念ながらないんですよねー。

でも! 韓国系コミュニティーが作り上げてくれた音楽マーケットにおけるアジア系の存在感は、われわれ日系人も十分に恩恵を受けています。そもそも韓国系2世、3世などの若い世代は韓国系としての誇りはありつつも他のアジア系を別扱いしてるわけではなく、オール・アジア系でがんばっていこうぜ!という意識があります 。

いまインフラが万全なのは韓国系なので、リードしていくのは当然韓国系が中心なんですけど、オール・アジアンで日系もどんどん一緒に盛り上げていけばいいんです。いま一番わかりやすい例だとKOHH氏とか。アメリカ進出のきっかけはKEITH APEですけど、彼の世界的な大ヒット曲“It G Ma”に客演したことで、日本人のKOHH氏にも注目が集まっています。そういうパターンがこれからどんどん増えてくればいいのかと。

KOHHの2016年作『DIRT II』収録曲“Business and Art”
 

僕自身もいま、ファー・イースト・ムーヴメントをはじめ、アジア系のパイオニアの方々にいろいろお世話になっており、数年前までは人種なんて関係ねーとか思っていましたが、いまはそういう繋がりも重要なんだなと痛感しています。

ファー・イースト・ムーヴメントのプログレス&ケヴ・ニッシュと。アーティストとしてはもちろん、アジア系アーティストを中心としたマネージメント会社や、ショウのプロダクション、レーベルなど、新しいアーティストのサポートにも尽力しています
 

エンターテイメント業界におけるアジアンの存在感はそれでもまだゼロに等しいです。アジア系俳優がハリウッド映画の正統派モテ役でヒット映画に出る日は、僕が生きてるうちには来ないかもしれないし、アジア人がグラミー賞で〈Album of the year〉を獲れる気配はいまのところありません 。それでもいま、確実にアジア・コミュニティーがマーケットとして音楽業界で無視できない存在になってきています。まさに自分たちはいま歴史的な時期にいるわけです。 僕らはもっともっと仲間が必要なので、われこそはという人は、ドシドシこの動きに参加してほしいです!

また、日本人も一応がんばってるんだぞっていうことで、ネット・ラジオの最大手でAppleが運営するラジオ局Beats 1の特別企画で、日本の音楽を特集する番組〈Takeover〉が立ち上がり、僭越ながら僕がその番組のホストをさせていただきました。Beats1も日本をはじめとしてアジア系のリスナーの開拓に力を入れていきたいということで、こういう企画が立ち上がったわけですが、こういうことがもっと増えていけばと切に思います。ちなみに番組のアーカイヴはApple Musicのアカウントを持っていると聴けるので、ぜひ聴いてみてください!

ということで、僕自身もグラミー賞を狙うべく、アルバム『Monday』制作が佳境に入っています。リリースは10月26日! 日本盤には、CharaやNIPPS & METEOR & Jinmenusagiといった日本のアーティストを客演に迎えてのボーナス・トラックが入るのでお楽しみに!

starRo Monday MIYA TERRACE/トイズファクトリー(2016)

あと、9月10日(土)は 東京・渋谷のSound Museum Visionのレギュラー・イヴェント〈Trap Soul〉に出演、日本の他の都市も回る予定なので、宜しくお願いします!

★9月10日〈Trap Soul〉の詳細はこちら

ではまた次回までー!

 

PROFILE:starRo


LAを拠点に活動するプロデューサー。いま注目を集めるかの地のレーベル/コレクティヴ・Soulectionに所属し、オリジナル曲の制作に加えてフランク・オーシャンやアウトキャスト、リアーナ、アッシャーなどのリミックスを自身のSoundCloudで多数公開するほか、滴草由実ら他アーティストへの楽曲提供なども行う。2015年2月に初EP『Emotion』をリリース。コンスタントに現地でライヴ/ツアーも行っている。また、本文中にもある通り、10月26日にファースト・フル・アルバム『Monday』(MIYA TERRACE/トイズファクトリー)をリリース! そのほか最新情報はこちらでチェックを! 

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