明けましておめでとうございます、starRoです! 昨年は皆さんに手厚いサポートを頂きながら、連載をなんとか形にすることができました。今年もエレクトロニック・ミュージック・シーンを中心に、アメリカの音楽事情的なことをできるだけ温度感を損なわずに書いていければと思いますので、よろしくお願いします!!!!!――と、言っておきながらアレですが、先月(2015年12月)は日本も含めたアジア・ツアーを敢行していたので、ちょっと話の軸がアジア中心になるかもです(笑)!
今回のアジア・ツアーはこれまでやったことがない場所をできるだけ回るという意識があり、マニラ、福岡、沖縄など前回も演った場所以外に、香港、上海、ジャカルタで初ギグをやらせてもらいました。僕はアメリカに住みはじめてかなり経つので、ツアーをするようになるまで最近の日本以外のアジアの音楽シーンなどはほぼ全く知らなかったし、なんなら正直10年以上前の印象で止まっており、テクノとかじゃないとクラブに人が集まらない、みたいな間違いだらけの認識を持っていました。
しかし実際に行ってみるとびっくり、簡単にいうと大体どこも〈LAのクラブみたいなノリの良さ〉と〈LAにはない多様な音楽への許容度の高さ〉が兼ね備わった、いいとこ取りのシーンが展開されていた、というわけでございます。
〈ノリのよさ〉に関しては、まああんまり説明の必要はないと思うのですが、強いて一つ挙げると、身体から滲み出てる感じのノリ方が多い印象でした。続いて〈多様な音楽への許容度の高さ〉についてですけど、DJも本当にいろんなジャンルの曲をかけるし、お客さんもどんなものをかけてもいい音楽なら偏見なくノッてくる、という感じ。国によってはもともと陽気な国民性であることが理由なこともありますが、どっちかというと、総じて〈ダンス・ミュージックが好き〉という共通項だけで街じゅうのミュージック・ヘッズが集まって、ベース・ミュージックやらハウスやらヒップホップやらソウルやらレゲエやらとジャンル関係なく、〈今夜はみんなで楽しめることを祝福しようぜ〉みたいな感じですかね。
で、このアジア諸国(福岡/沖縄あたりもそういう感じ)の素晴らしい雰囲気、なんかしばらく忘れていた感覚で胸がキュンとしてしまったんですが、なんでしばらく感じていなかったのかと考えると、そこからアメリカの大都市におけるジレンマみたいなものが浮かび上がってきます。
LAなんかだと、当然ダンス・ミュージックを聴く人口は莫大なわけですが、そうなると例えばフューチャー・ハウスなんていう超サブ・ジャンルだけでも結構な規模のシーンができちゃうわけですよね。そうすると普段から周りにフューチャー・ハウスを聴いてる奴もザラにいて、普段の会話もフューチャー・ハウス、最近始めたDJもプレイリストの9割がフューチャー・ハウス、SoundCloudのフィードもフューチャー・ハウスばっかり、みたいな状況になるわけですね。当然フューチャー・ハウスをかけるDJだけでもゴロゴロいるので、パーティーでも同じようなDJがブッキングされ、終始フューチャー・ハウスがかかる……な~んて皆さんもどっかで経験したことがありそうな状況になってくるわけですよ。
こうしてさまざまなサブ・ジャンルのシーンが細かく分かれ、各自不自由なく独立したコミュニティーを形成し、日常的にシーンを超えたクロスオーバーが発生することはほぼ皆無になるわけです。このような環境は、リスナーの立場としてもいろんな音楽体験ができなくなって本当にもったいないと思うんですが、それ以上にヤバイなと思うのはDJやプロデューサーのほうです。
例えば僕自身はDJでいろんな音楽をごった煮にしたセットをやるのが好きなんですが、LAのパーティーではそのシーン(パーティーのメインになっているジャンル)と違う曲をかけると面白いぐらい反応が悪いです。特にこっちは入場料も安いし、ゲストでタダで入れる枠が大きいので、お客さんは財布が痛まないぶん、つまらないなと思うとすぐさま他のイベントに流れたり、誰かの家でパーティーしたりで、分かりやすく人がいなくなります。そうするとDJさんたちは当然冒険しないで同じようなジャンルで(なんなら同じようなBPMで)セットをまとめてきます。さ・ら・に! お客さんもそのジャンルで流行っているヒット曲みたいものを期待してるし、そういう時は半端なく盛り上がるので、DJは流れもクソもなくヒット曲のオンパレードのようなセットをやりだします。しかも、同じ日に3人のDJが同じ曲をかけていても関係ありません。盛り上げたもの勝ちです。
自分はそこに埋もれないように常に気をつけていますが、日本を含めアジアに来ると、DJの引き出しの多さと、いろんなものをかけるが故のフロウ作りの妙だとか、繋ぎのアート性の高さにいつも感心します。
USの主要都市のこういう安易な感じは、結局DJ/アーティスト生命の長さにも影響してくるのではないでしょうか。DJとしての腕よりも、ネームバリューやルックスといった分かりやすさで昇りつめていく世界。一つのジャンル内で似たような曲をリリースし続けて、インスタント・サクセスをつかむアーティスト。そういった人々がものすごい勢いで売れては消えていくというサイクルが、年々加速度的に短くなってきている気がします。
自分は、音楽のためではなかったとはいえ、アメリカに移住し根を下ろしてしまったのでここで活動するしかないんですが、アジアを見て毎回ちょっと微妙な気持ちになります(笑)。
実は12月の日本滞在中にSeihoさんと対談をする機会を頂き(近日中にこの連載の番外編として掲載されます)、そこでも触れたのですが、2015年はスピード感がなんか遅いなあと感じ続けた1年でした。僕は2~3年前にR&Bインスパイヤーなベース・ミュージックが盛り上がりはじめた時にそれっぽい曲をSoundCloudに載せたのが運良く注目され、そのジャンルを代表するレーベル・Soulectionに拾ってもらい、そこから面白いように物事が進んでいったわけですが、ある意味僕も前述のアメリカの分かりやすさのマジックのなかで音楽家のキャリアを築いていったような気がします(決して意図的ではなかったんですが)。
日本ではSoulection周りのシーンは正直まだこれからという感じなんですが、アメリカではこのジャンル/シーンはもはや円熟期なんじゃねーか?っていうぐらいの勢いで拡大していまして、そんな勢いのなかで僕自身は2013年から2年ほど〈分かりやすさ〉という名のステロイドで走ってきました。そしてそのステロイドによるスピードに麻痺して、それが普通になってしまってたんですねー。怖いですねー。でも、加速度的に速まるスピードにも限界があるんです。車はギアを5速に入れるまではその加速感で興奮状態になりますが、一度5速に入ってしまうと、加速してないだけで前に進んでる感じがしなくなってくるものです。2015年はまさにその失速感を感じた1年でした。冷静に見れば達成したことがたくさんあったのに。
なんか最近話題のA●KAさんのブログみたいな文章になってしまいましたが、とにかく植物同様、不自然に成長を早めると枯れるのも早いもの。アジアのように環境が良すぎないところで育まれた音楽文化を見習って、自分もオーガニックな成長をめざしたいです。
アーティスト、プロデューサー、DJの皆さん、これからも音楽のクォリティーを第一に、自然体で良いものを発信していきたいですね! リスナーの皆さんはネットの影響力に惑わされず、これからも厳しい目で音楽発信側をサポートしてもらいたいです。
今年はライブやDJは控えめに、音楽制作に焦点をシフトします。自分のソロのフル・アルバムやら、Fool’s Gold所属シンガー・BoscoちゃんとのコラボEPやら、リリースも目白押しの予定ですので応援宜しくお願いします!
ではまた次回まで! Peace!
PROFILE:starRo
LAを拠点に活動するプロデューサー。いま注目を集めるかの地のレーベル/コレクティヴ・Soulectionに所属し、オリジナル曲の制作に加えてフランク・オーシャンやアウトキャスト、リアーナ、アッシャーなどのリミックスを自身のSoundCloudで多数公開するほか、滴草由実ら他アーティストへの楽曲提供なども行う。2015年2月に初EP『Emotion』をリリース。コンスタントに現地でライヴ/ツアーも行っている。最新情報はこちらでチェックを!