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回を重ねるごとにアクセス数がうなぎ登りの連載〈starRoのLos Angeles云々〉。昨年末にstarRo氏がアジア・ツアーのために一時帰国していたということで、このタイミングで本連載のスピンアウト企画として、かねてよりstarRo氏が気になる存在であったというSeiho氏を招いて対談取材を実施! 互いの活動スタンスについてや、Seiho氏の2014年のUSツアーを通して感じたアメリカのクラブ・シーンのいまをstarRo氏の実感を交えて語ってもらったりなど、興味深い内容になっていると思います。両者とも待望の作品リリースが控えている……という情報もゲットしましたので、こちらも期待したいですね。それでは、どうぞ!
2015年は完全に止まったというよりかは、
みんなで1回考えなきゃいけない時期に入ったような(Seiho)
――お2人はいつ頃からお知り合いなんですか?
Seiho「難しいっすよね……」
starRo「僕は(Seihoを)SoundCloudで偶然見つけたんですよね」
Seiho「それはいつくらいですか?」
starRo「フェニックス・トロイ※との曲(“Evning”、Seihoの2013年作『ABSTRKTSEX』収録)がアップされたばかりの頃ですね」
※ロンドンのラッパー。フェニックス・アンド・ザ・フラワー・ガールとしても活動しており、昨年DE DE MOUSE主宰レーベル=notからEP『Nala』をリリースしている。Seiho『ABSTRKTSEX』のほか、Tomgggの2015年のEP『Butter Sugar Cream』にも参加
Seiho「じゃあちょうど3年半とか4年くらい前ですかね」
starRo「そうですね」
Seiho「僕がstarRoさんを見つけたのもそのくらいですね。コズモ※で紹介されていて」
※cosmopolyphonic radio。世界中から次世代のアーティストを発掘&紹介する日本発のポッドキャスト
starRo「コズモは結構早い段階から僕を見つけてくれていたんですよ」
――なるほど、そういう形で繋がっていたんですね。
Seiho「共通の知り合いが多かったりして」
starRo「Metomeくんとかね」
――それで、2014年のstarRoさんの日本ツアーの際に東京で初めてお会いになったと。
starRo「2014年の4月に初めて大阪でライヴをやることになって、その時に出てもらおうと思ったんだけど……」
Seiho「ちょうどアメリカ・ツアーに行っていて※」
※Seihoとマジカル・ミステイクス、And Vice Versaの3組で、シアトル、LA、サンディエゴ、ボルチモアなどを回った
――そうだったんですね。では、お互いの活動をどう見てるのかについて伺いたいのですが、starRoさんは以前インタヴューで、Seihoさんの活動スタイルがとても良いとおっしゃっているのを読んだのですが。
starRo「ソロで活動しつつ、Sugar’s Campaignもやっていたりとか、ポップな方面にも振れているところがいいなと思って。職人的にやる人と、そういうふうにいろんな方向に振れる人とで分かれると思うんですけど、僕もいろんな方向に振れるのが好きなので、それがしっかりやれているのがカッコイイなと思う。そういったバランスはどうやって取っているんですか?」
Seiho「どうやろなー。大阪人やからというわけじゃないんですけど、両面の照れ隠しなんですよね。照れを隠そうとするとああなっていくというか。ソロでやっていくとどうしてもカッコつけるスタイルになるんですよ。カッコつけるスタイルは個人的にも好きなんですけど、ふと振り返った時に、一面だけでおもしろくないなと。それの照れ隠しでSugar’s Campaignがある。リスナーから自分の立ち位置を俯瞰的にすべて見られる状態を作ることによって、両方の照れ隠しになるんですよね。僕のなかではそれがいちばん大きいかな。だからシュガーズのほうでポップなフィールドに行けば行くほど、僕はソロで好きなことができるし、ソロで好きなことをやればやるほど、その振り幅が効いておもしろくなっていく。そういうふうに常に両方持っておかないとバランスが取れないなと」
starRo「Sugar’s Campaignのほうは2人でやっているというのがいいんでしょうね」
Seiho「そうですね。1人だと独断ですべてやっていきますけど、シュガーズでは相談とか、信頼とか、1人でやっていたら絶対に生まれない要素が強く入ってくるので、双方を見直すことができるんです」
starRo「あー、なるほど。あと、(Seihoの)サンレコでのインタヴュー※を読んだんですよ、移動式のスタジオの話。僕自身もショウばっかり入っていると曲を作る時間が取れなくて悩んでいるので、そのアイデアはすごくいいなと思いましたね」
※サウンド&レコーディング・マガジンの2016年1月号の特集〈プライベート・スタジオ2016〉
――その〈移動式のスタジオ〉というのはどういうことなんですか?
Seiho「自宅のスタジオじゃなくて、スタジオを外で借りるというか。2014年にアメリカ・ツアーへ行く前、東京で1か月くらいウィークリー・マンションを借りていたんです。PCと機材、ミニマムなセットなんですけど、スピーカーを持っていけなかったのでヘッドフォンで作業をしていて。移動が多いこともあって、それをきっかけに機材を持ち運べるようにセットを小さくして、それを持っていろんな場所をスタジオにするんです。いま大阪でライヴハウスの上を間借りしていて、そこに機材を入れて作業したりとか。さっきのソロとシュガーズとでバランスを取っている話と考え方は似ていて、僕のなかでひとつの場所に留まることがむっちゃ苦手なんですよ、好きなものにしても。だから音楽を辞めないために常に趣味を変え続けたいというか(笑)」
starRo「あー、わかりますね」
Seiho「自分の音楽の嗜好は変わらないんですよ。でもその自分の音楽を変えないために食べ物を変えたり、食べる場所を変えたりしている。スタジオをコロコロ変えたりしたいのは、どんなスタジオで作っても作る音楽が変わらないことを証明したいからなんです。でもその場所に影響されて変わる部分はめちゃくちゃ大きいんですが、でもそうやって変わるところは〈変わってもいいところ〉で。変化を繰り返していくと、いつの間にか変わらないものが何なのかが必然的に炙り出される。だからスタジオを移動式に変えて、作る時間も変わるし、作り方も変わるけど、出来上がったものを聴くと変わらない。そういうことを確認したいというか(笑)」
starRo「なるほど、それはおもしろいですね」
Seiho「そういうこともあって、僕は拠点というものを作らないことにしました。拠点という考え方がもともと好きじゃなかったんですよ。大阪にいる時も大阪が拠点とはあんまり思ってなくて、いま自分がいる場所が拠点」
――starRoさんはそもそも音楽をするためにLAへ行かれたわけではないそうですが、LAに住んでいるからこそ音楽をやっているという感じなんですよね?
starRo「日本に住んでいる頃は四六時中音楽をやっているという生き方自体にまったく可能性が見えなかったんですね。時代性みたいなものもあるんでしょうけど、LAへ行ったことで〈本当の自分〉みたいなものに向き合う機会があって、それに忠実に生きていける方法が自然と見つけられた。そういう意味ではLAへ拠点を移したおかげ、というのはあると思います。でもLAといっても中心地から車で30分くらい離れた、何もない海の近くに住んでいて、そこにいるのが自分的には良いんですよね。やっぱりライヴや制作をしている場所とはまったく違うところに帰ることでバランスが取れているので。常に自分が属してるところに100%ハマりたくないんです。仕事をする場所で生活もしていたら、パーティーばっかりやっちゃうから。バランスを取るというのは、自分の生活のリズムを保つ意味も含めて大事に思っています」
Seiho「帰る⇔行くって大事ですよね」
starRo「そうなんですよ。でも、移動型スタジオのようにいろいろな場所で作業をしていると、リズムが崩れたりするじゃないですか。自分で制作に気持ちを持っていかなきゃいけないという感じなのか、それとも自然にできちゃったりするんですか?」
Seiho「アメリカ・ツアーの時は仲間と行ったのでアレなんですけど、その後にイギリスとフランスに行って、その時は向こうの作家の人とライティング・セッションをする機会があったんです。そうしたら、そういう時のほうが集中できるなと(笑)。新幹線の中のほうが仕事できたりするじゃないですか、そんな感じっす(笑)。〈2週間しかこのスタジオにいられなくて、しかもあんなに機材運ぶの大変やったからがんばろう〉みたいな(笑)、作らざるを得ない状況を作るというのが大きいですね。starRoさんはどうなんですか?」
starRo「僕はツアー中に制作できないんですよ。それこそアメリカのツアーだと機材車で10時間くらいかけて移動したりしていて、その間は特に何もすることがないじゃないですか。でも(曲作りが)できないんですよ。パソコンを開く気にもならなくって。下手すると音楽も聴かずにずっと外を眺めていたりするくらいで、ツアーに出ちゃうと曲が作れなくなっちゃうんです。自分が作らないのがいけないんですけど……だから悶々とする」
Seiho「それでもいいと思うんですけどね、インプットの時間としてなるべく溜めておく、みたいな」
starRo「確かにそういう面もあるんですよ。常に曲を作れるわけじゃないし。ただ、自分がイメージしているリリースのタイミングがあるじゃないですか。それが物理的に全然追いついてなくて」
Seiho「それは2015年やったからじゃないかという(笑)。ざっくりですけど、2015年ってどうでした?」
starRo「それはかなり深いですよ。僕は2015年、ちょっと遅い感じが……」
Seiho「ほんまにそう!」
starRo「マジっすか(笑)? やっぱ2015年だからかな……」
Seiho「これそうなんだと思うんですよ。2010年くらいに芽生えた僕らがやっている音楽のジャンルが、2013年に1回止まったんじゃないかと。で、2014年、2015年と時間は進んでいくから惰性で動いてはいくんですけど、2015年は完全に止まったというよりかは、みんなで1回考えなきゃいけない時期に入ったような。だから曲を作っても作っても納得できない時期やったんですよ。どんだけ作っても、これはあれと一緒やな、これは別にいまやることじゃないな、とか自分の作りたいものは明確にあるのに、それと世間との折り合いがつかなかったんです」
starRo「あー、それわかりますわ」
Seiho「で、ようやく2016年に入る頃になってポンポンポンポンって、何かが始まったなという印象が」
starRo「あー、僕もまったく一緒ですね。僕は逆に、それこそ3年くらい前はすごいスピード感で、自分も良い波に乗れている感じがあったんですよ。でもそのスピード感に慣れちゃったから、2015年もこれくらいのスピードだろうと思いきや、意外と遅く感じて。それは自分が慣れちゃっただけなのかもしれないけど、アウトプットも3年前だったらどんどん出てくる感じがあったのに、それが2015年の前半はなくて、ちょっと焦ったりもしました。ここ2か月くらいはまた作れそうな感じではあるんだけど、まだポンポンって感じじゃないですね(笑)」
Seiho「でも何か始まりましたよね?」
――具体的に何かが起こったわけではないんですよね?
starRo「まあそういう周期だったんでしょうね」
Seiho「例えばライヴの数が増えたり、普通の生活の営みに則したことだと思うんですよ。バイオリズムとか運命ではなく、東京に来ることが多くなったりとか、そういったことの積み重ねでこういう状況になったんじゃないかと。でも2015年に入ってスピードがガクッと落ちた。2014年くらいにはそういう状態になっていることに気付いてはいたんですけど、ここまで落ちるんやなと。だから僕のなかで2015年は〈なるべく人と喋る〉ということを優先したんですよね」
starRo「なるほど、音楽以外のところで」
――それもいわゆるインプットという意味なんですか?
Seiho「インプットもそうなんですけど、確認作業というか。2016年から始まることも見えていたから、2016年からどの道に行くか、みたいな感じですね。これまでは、2010年にそれまでバラバラで活動していたMetomeくんやMadeggといった大阪の連中とかと出会った、ということが大きかった。でもこれからどの道に進むかを考えた時に――さっきstarRoさんと一緒に曲作りしましょう、みたいな話をしていたじゃないですか、それは僕のなかでは2016年はコラボ年かなというのがあったからなんです」
starRo「あー、コラボというのは僕もそうですね。(他の人とやることで)自分を箱から出したいというのがあるんです。さっきも言ったように、自分のアイデアが一巡しちゃった感じがあるので、それを打開するにはコラボかなと。なので最近ちょろちょろとコラボしはじめているんです。最初は嫌だったんですけど」
――嫌だったんですか!?
starRo「これまでずっと1人で曲を作ってきたので、やっぱりちょっと抵抗感はありましたね」
Seiho「ありますよね。僕もめっちゃありました」
――Sugar’s Campaignはいわばコラボ・ユニット的なものなのかなと思っていたのですが。
Seiho「シュガーズは〈コラボ〉って感じじゃないんですよ。どちらかというと〈運命共同体〉みたいな感じなので、何も言わなくても(Avec Avecには)ほとんど伝わっているし、相手がダメやと思ったものは僕もダメやと感じられるからまったく抵抗感はないんです。でもそれ以外の人とやると……自分のなかには確固たるヴィジョンがあるけど、人とやることによってそのヴィジョンがどんどん目減りしていくようなイメージなんですよ」
starRo「そうそう、まさにそう」
Seiho「他人が入ることによってどんどん自分が理想とする形から変わっていっちゃう、みたいな。それが2015年はいろいろとコラボをさせてもらう機会があって、例えば海外でライティング・セッションに参加したり、矢野顕子さんと一緒に作った※時に、自分より大きい存在と作業をしたことで、〈コラボってこういうことか〉と思わされたんです。ということは、もっといろんな人と一緒にやったほうがおもしろいんじゃないかと。人とやればやるほど、自分が作りたい核が明確になるはずなんです。だから2016年はよりそういうことがやりたいですね」
――ではstarRoさんともぜひ……。
Seiho「やりましょう!」
starRo「やらせてもらいたいですね~」