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ビッグOを華やかな舞台へ連れ戻した伝説の夜、そこでは何が起きていたのか?

 不死鳥の如く復活を果たそうとしていたロイ・オービソンは、〈ロックの殿堂〉入りした直後の87年9月に一夜限りのライヴを行った。T・ボーン・バーネットが旗振り役となり、ロイを慕うミュージシャンも多く集ったこの伝説のステージ。当日の模様をパッケージ化した『Black And Night』は、ロイ自身が許した唯一のライヴ作品だ。あれから約30年、その音源と映像が『Black And Night 30』として再登場することに。今回のリイシュー盤には実際のセットリストの曲順が反映されているのも喜ばしい。

ROY ORBISON Black & White Night 30 Legacy/ソニー(2017)

 やはり目を引くのは、〈スペシャル・フレンズ〉の豪華さだろう。例えば、〈ロックの殿堂〉の式典でロイの功績を称えたブルース・スプリングスティーンは、終始、少年のような面持ちでギターを掻き鳴らしている。『Born To Run』(75年)の頃から〈ロイのように歌いたい〉と公言してきたブルースが、“Dream Baby(How Long Must I Dream)”などで照れ臭そうに師匠とマイクを分け合う姿を観ていると、こちらまで胸が熱くなってしょうがない。そのほか、シングル“You're Only Lonely”(79年)でロイに熱いオマージュを捧げたJD・サウザーだって、『Mystery Girl』(89年)に“The Comedians”を提供することとなるエルヴィス・コステロだって、〈ビッグOが大好きでたまらないんだ〉という表情をしているじゃないか。〈シャララ~〉と華麗なコーラスを添えるジャクソン・ブラウンや、軽やかに鍵盤を叩くトム・ウェイツ(彼ひとりだけ酔いどれ気分)も含め、御大を囲みながら颯爽とショウを盛り上げる彼らは、さながら〈夜を盗む男たち〉といった風情だ。そうそう、KD・ラング、ボニー・レイットらプリティー・ウーマンの存在も忘れちゃいけない。彼女たちのカッコイイ姿もまたこの宴の華である。

 それにしても、ロイの端正な佇まいの味わい深さといったら! トレードマークのサングラスがモノクロ画面のなかで妖しい光を放ち、静かな迫力を醸している。派手さなど微塵も感じさせないのに、銀幕スターのような雰囲気があって、惚れ惚れしてしまうばかり。そんな主役の魅力を引き立てる、原曲に忠実なアレンジを施したヒットソング群は華麗にして優雅で、どれも美しい。揺るぎない古典の素晴らしさをストレートに伝えようとするプレイヤーたちの強い意志も感じ取れ、深く頷いてしまう。ロックンロール・パーティーの醍醐味をたっぷり堪能させてくれるのだ。〈ミスター・テレキャスター〉ことジェイムズ・バートンの達者な演奏を中心に、賑やかなギター・セッション大会の様相を呈するエンディング“Oh, Pretty Woman”なんて本当に最高である。

 最後に、『Black And Night 30』で日の目を見た未発表音源や未発表フッテージについても触れておかねば。リハーサル風景やインタヴューといった貴重な映像もさることながら、観客が掃けた後、ロイをはじめとする出演者がステージに戻って繰り広げた〈The Secret Post Show〉の5曲は、オリジナル版をこよなく愛する者にとっても大変ありがたいプレゼント。伝説の夜を贅沢に振り返ることができるこの30周年記念盤、もうただただ酔いしれるしかない。