全4回のコラムに加えて、菅野結以×小林祐介(THE NOVEMBERS)を迎えたスペシャル鼎談が大ヒットを記録、さらにフリーペーパー〈FEEDBACK AGAIN〉も絶賛配布中。そんな好評連載〈黒田隆憲のシューゲイザー講座〉のスピンオフ企画が早くも臨時開講! 今回のテーマは、シューゲイザーとは隣り合わせ、あるいはその大元と言うべき〈ドリーム・ポップ〉。8月19日(土)に開催される〈HOSTESS CLUB ALL-NIGHTER〉に出演が決まったシガレッツ・アフター・セックスが注目を集めるなか、この新鋭にも多大なる影響を与えたサウンドの系譜を、音楽ライターの黒田先生がわかりやすく解説します。 *Mikiki編集部
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米国はテキサス州エル・パッソにて結成された、シガレッツ・アフター・セックスによるセルフタイトルのデビュー・アルバムが6月9日(金)にリリースされます。今から遡ること5年前に発表したEP『I.』が、昨年になって突如インターネット上で話題になり、なかでも収録曲“Nothing's Gonna Hurt You Baby”は、本稿執筆時点でYouTubeでの再生回数560万回を記録。日本でも、CharaがTwitter上で彼らのことを紹介して話題になり、去る5月15日に原宿Astro Hallにて行われた来日ショーケース・ライヴでも、超満員のオーディエンスで溢れかえったりなど、ちょっとした〈シガレッツ現象〉が巻き起こっています。
人によってはドン引きしそうなバンド名ですが、実際にそのサウンドを聴いてみるとまさに〈セックスの後の一服〉のような、気怠くも甘美な雰囲気に満ちています。何より特徴的なのは、バンドの司令塔であるグレッグ・ゴンザレス(ヴォーカル/ギター)の、およそ男性とは思えないような中性的な歌声と、耽美的かつ退廃的なサウンド・プロダクション。それは、〈ドリーム・ポップ〉と呼ばれる音楽スタイルの集大成ともいえるものです。
ドリーム・ポップの発祥~今日まで
ドリーム・ポップとは何か。その代表格にして〈発祥〉と言われているのがコクトー・ツインズです。彼らはスコットランド出身のロビン・ガスリー(ギター)と、エリザベス・フレイザー(ヴォーカル)を中心に結成されたバンドで、サイモン・レイモンド(ベース)の加入&4ADへの移籍を経て、それまでのポスト・パンク的なサウンドを一新。エリザベスによる幽玄で宗教的な歌声と、コーラスやフェイザーといったモジュレーション系のエフェクターをふんだんに使ったロビンのギター・サウンドによって、当時のインディー・シーンに衝撃を与えました。
イギリスにおけるコクトー・ツインズの評価の高さ、影響力の大きさは、日本にいるとなかなか想像しづらいのですが、あらゆるミュージシャンから今なお深いリスペクトを受けている稀有な存在です。とりわけ大きな影響を受けたのがシューゲイザーと括られたバンドたちで、レーベルメイトのラッシュは初期シングルのプロデュースをロビンにオファーするほどでした。〈シューゲイザー講座〉の第1回でも述べましたが、シューゲイザーを〈ドリーム・ポップの一種〉とみなしたのはコクトー・ツインズのサイモン・レイモンドとされています。
現在はディアハンターやグライムス、セイント・ヴィンセントなど多種多様なアーティストが所属している4ADですが、80年代〜90年代半ばはピクシーズなど一部のバンドを除くと、かなりドリーム・ポップ色の強いレーベルでした。設立者の1人アイヴォ・ワッツ・ラッセルと、レーベルのアートワークを手がけた23エンベロップによって世界観は統一され、コクトー・ツインズはレーベルの〈顔〉的存在として大きく貢献します。ちなみにサイモンがコクトー・ツインズに加入したのは、アイヴォが発起人となった企画バンド、ディス・モータル・コイルでロビンと出会い、意気投合したのがきっかけだったそう。ディス・モータル・コイルはスコット・ウォーカーやティム・バックリィ、シド・バレットなどをカヴァーしており、ドリーム・ポップのルーツにはフォークやカントリー、サイケの要素があることを想像させます。
コクトー・ツインズら4AD所属バンドの他にも、〈ドアーズ以来最高のサイケデリック・バンド〉と評されたアメリカのバンド、マジー・スター(ヴォーカルのホープ・サンドヴァルは、後にマイブラのコルム・オコーサクとホープ・サンドヴァル&ザ・ウォーム・インヴェンションズを結成)、カズ・マキノと双子のパーチェ兄弟によって結成されたブロンド・レッドヘッドなどもドリーム・ポップにカテゴライズされますが、リヴァーブを多用した音像や気怠く囁くようなヴォーカルなど、彼らのサウンドにはシューゲイザー・サウンドとの共通点が窺えます。
また、ドリーム・ポップ特有のささやくような歌い方や高音ヴォイス、官能的なムードはセルジュ・ゲンスブールや、彼のペンによる一連の作品(ジェーン・バーキン、ブリジッド・バルドー、シャルロット・ゲンスブールなど)、あるいはシガレッツ・アフター・セックスもフェイヴァリットに挙げるフランソワーズ・アルディなど、フレンチ・ポップからの影響も見て取れます。
その官能性は、デヴィッド・リンチ監督の映画「ブルー・ヴェルヴェット」や「ツイン・ピークス」で、アンジェロ・パダラメンティが作曲した耽美な楽曲を歌い話題となったジュリー・クルーズから、シガレッツ・ファンにも支持を集めるシンガー、ラナ・デル・レイにまで通じるものと言えるのではないでしょうか。興味深いことに、リンチ監督は「ブルー・ヴェルヴェット」で当初、ディス・モータル・コイルによるティム・バックリィのカヴァー曲を使いたがっていたのですが、予算の関係で断念。そこでジュリー・クルーズにお鉢が回ってきたということらしいです。
現代を代表するドリーム・ポップ・バンドといえば、USボルティモア出身のビーチ・ハウス。「シェルブールの雨傘」や「ロシュフォールの恋人たち」などで知られる映画音楽の巨匠、ミシェル・ルグランを叔父に持つヴィクトリア・ルグランの中性的な歌声に、アレックス・スカリーによるコクトー・ツインズ直系のギター・サウンドなど、彼らもシガレッツと多くの共通点を持ち合わせています。ほかにも最近では、LAを拠点とする女性4人組アート・ロック・バンドのウォーペイントや、4ADの新時代を牽引しているドーターなどもドリーム・ポップの要素を多分に持ったバンドたち。
また、スロウダイヴが新作での影響を公言しているXXや、コクトー・ツインズの遺伝子を受け継ぐハンドレット・ウォーターズ、ひいては数年前にブームとなったチルウェイヴや、最近のアンビエントR&Bにも、ドリーム・ポップとの共通点を見いだすことは可能でしょう。
スロウコア〜サッドコアの歴史
シガレッツのサウンドには、ドリーム・ポップとともに〈スロウコア〜サッドコア〉の要素も含まれています。スロウコアは、グランジへの反動として90年代の初めに生まれた音楽スタイルの一つ。抑制の効いたスローテンポのリズム、音数を削ぎ落としたギターとベースのアンサンブル、マイナー・コードを多用する殺伐としたメロディーが特徴で、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドらに影響を受けたギャラクシー500やロウ、レッド・ハウス・ペインターズ、イーダ、ダーティ・スリーといった面々がその代表格と言われています。
なかでもシガレッツに影響を与えているのが、マーク・コゼレック率いるレッド・ハウス・ペインターズです。彼らはカリフォルニア州サンフランシスコで結成され、デビュー作からのアルバム4枚を4ADよりリリースしています。引きずるようなスローテンポに、深いリヴァーブのかかったサウンドスケープが特徴で、まさに〈スロウコア〜サッドコア〉の代名詞的存在でした(2001年に解散、マークはサン・キル・ムーンとして現在も活躍中)。
〈スロウコア〜サッドコア〉はブルーズやカントリー、フォークなどアメリカのルーツ音楽も核に宿しているのですが、実はコクトー・ツインズ解散後のロビン・ガスリーも、やがてフォークやカントリーに傾倒したのでした。ガイ・チャドウィック(ハウス・オブ・ラヴ)のソロ・アルバムをプロデュースする際、フォーキーなサウンドに仕立て上げたのは非常に興味深いものがあります。それにスロウダイヴの主要メンバーも、解散後にモハーヴェ3というフォークやカントリーに影響を受けたバンドで活動していました。ドリーム・ポップとサッドコア〜スロウコアは、きっと深いところで繋がっているのでしょう。それを体現してみせたのがシガレッツ・アフター・セックスなのです。
さて、そんなシガレッツが早くも〈Hostess Club All-Nighter〉で再来日を果たします。ショーケース・ライヴでは、イングマール・ベルイマン監督の「不良少女モニカ」(1953年公開)をコラージュした映像をバックスクリーンに投影するなど、まるで夢の続きを見ているような幻想的な世界観を作り上げていた彼ら。アルバムの全貌が明らかになる今、それを引っさげてのステージがどんなものになるのか。今から楽しみでなりません。
今回のドリーム・ポップ講座をまとめてチェック
夜のお供にもぴったりなナンバーをプレイリストで復習しよう!
Live Information
HOSTESS CLUB ALL-NIGHTER(SUMMER SONIC 2017)
日時:2017年8月19日(土)
会場:千葉・幕張メッセ
共演:モグワイ/ホラーズ/ライド/ビーク>/シガレッツ・アフター・セックス/ブランク・マス/マシュー・ハーバート(DJ)ほか
開場/開演:22:30/23:30
料金:一般/9,500円、サマソニ・ソニックマニアチケット購入者限定割引チケット:5,000円
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