〈SUMMER SONIC TOKYO〉の深夜に開催される〈HOSTESS CLUB ALL-NIGHTER〉(以下、〈HCAN〉)。3回目となる今年は、21年ぶりの新作『Weather Diaries』をリリースしたばかりのライドをはじめ、先日のショーケースも大きな話題となったシガレッツ・アフター・セックス、日本初上陸を果たすビーク>、さらにはモグワイ、セイント・ヴィンセントなど豪華ラインナップが揃っている。

今回は、今年2月に再始動したCHEMISTRYの堂珍嘉邦を迎え、そんな〈HCAN〉への期待を〈いちリスナー〉としての観点から語ってもらった。〈え、なぜ堂珍?〉と思った方もきっと多いだろう。だが、驚くなかれ。実は彼は海外インディー・ロックへの造詣も深く、自身のソロ・ライヴではコクトー・ツインズやデペッシュ・モードのカヴァーなども歌っているのだ。

そもそも彼はどんなきっかけで洋楽を聴くようになったのか。それらの音楽は自身の活動にどのような影響を与えているのか。そんな気になるトピックと共に、彼の〈インディー・ロック愛〉をお届けしたい。

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レモン・ツイッグスのようなバンドには〈大好きだぞ!〉〈頑張れ!〉と思っちゃいます

――堂珍さんは、海外のインディー・ロックの熱心なリスナーだそうですが、普段どのあたりを聴いているのですか?

「〈インディー・ロック〉って、どこまでがインディーでどこからがメジャーなのかとか、そういう定義がちょっとわからないんですけど、誤解を恐れずに言うと、ど真ん中なのはラプチャーとかああいうディスコ・パンク系ですね。テンションを上げたいときや、車を運転しているときなどに聴いています。ルーツとなる音楽を感じさせつつ、〈自分だったらこうする〉っていう新たなエッセンスを加えようとしていて、そうした姿勢を感じさせるのがインディー・ロックの魅力なのかなと」

ラプチャーの2003年作『Echoes』収録曲“House Of Jealous Lover”のパフォーマンス映像
 

――ご自身がパーソナリティーを務めるInterFM897の番組〈Now what can I see?〉でも最新の洋楽インディーをガンガンかけているようで、最新回でもゴリラズやリアル・エステート、アヴァランチーズなどが選曲されていますね。彼らがルーツとするような音楽も聴いています?

※取材が行われたのは7月中旬

「そんなに深くは掘ってないけど、ビートルズとか大好きだし、彼らに影響を受けたレモン・ツイッグスのような若手のバンドが出てくると、〈大好きだぞ!〉〈頑張れ!〉って思っちゃいます(笑)。自分が高校生の頃だったら彼らにメチャクチャ憧れただろうなって」

レモン・ツイッグスの2014年作 『Do Hollywood』収録曲“These Words”
 

――いつ頃から洋楽を聴くようになったのでしょうか?

「中学生くらいのときですかね。家にあったサイモン&ガーファンクルやビートルズ……特にジョン・レノンのレコードをよく聴いていました。親が音楽好きだったから、たまにギターを弾いているのを眺めてて。自分から洋楽を聴くようになったのは、高校生になってからかな。90年代のブリット・ポップが世代的にストライクなんですよ。他にもグリーン・デイやウィーザー、フー・ファイターズ……当時はバンドを組んでいましたから、メンバーから勧められたアーティストを聴くこともありました」

――海外のフェスに行ったことはあります?

「いや、まだ行ったことはないですね。〈コーチェラ〉には行ってみたいですけど。あと、〈SXSW(サウスバイサウスウエスト)〉のような、街をジャックしてのサーキット・イヴェントには惹かれます。ブレイク寸前の勢いがあるアーティストをチェックできるし、そういう意味でもいいイヴェントですよね。ここ数年はどんどん規模が大きくなって、音楽だけじゃなくカルチャー全体のイヴェントみたいになってきているので、ちょっとすべてを追いきれてはいないんですけど」

――国内のフェスはどうですか?

「〈フジロック〉には何度か行きました。いままで観たなかではアトムス・フォー・ピースが印象に残っていますね。〈サマソニ〉にも行ったことがあって、アイドルからヘヴィー・ロック、EDMまで〈何でもあり〉な感じがいいですよね。〈B'zとフレーミング・リップスが同じフェスに参加するの?〉みたいな(笑)。CHEMISTRYも一度出演したことがあるんですが、そのときは自分たちがどういう立ち位置にいるのかが確認できたし、それがキッカケで〈ソロをやろう〉って思ったところもあるんです。〈自分だったら、このバンドと並んでこのステージに出たい〉みたいな」

※2011年の〈SUMMER SONIC OSAKA〉、MOUNTAIN STAGEに出演

アトムス・フォー・ピースの2010年の〈フジロック〉でのライヴ映像

 

クリーンな歌声でも、ロックはできるんだよと証明したい

――2012年にソロ活動をスタートした時は、ご自身の音楽について〈耽美+アンビエント=耽美エントRock〉と定義していましたね。

「CHEMISTRYの活動を経てのソロですから、良くも悪くもいろんな目で見られるだろうなと思ったので、最初に〈自分はこうです〉っていうふうに言葉でわかりやすく定義したほうが、きっと伝わりやすいと思って、〈耽美エントRock〉というフレーズを掲げました。〈耽美〉には、〈美しい世界感を追求する〉という意味があるじゃないですか。僕のようなクリーンな歌声でもロックはできるんだよ、〈ロック=ワイルド〉みたいな固定観念はやめてくれるかな?っていう気持ちもあったし、僕がラプチャーやジェフ・バックリーに惹かれるのは、彼らの歌声が好きで共感しているところもあったので、当時は〈耽美エントRock〉を標榜していたんです」

2012年のシングル“Shout”
 

――なるほど。

「そこからいろいろと可能性を拡げ、選択していき、さまざまな試行錯誤がありましたが、いまは楽しくやれているかなと思います。自分が〈こうなりたい〉と憧れているものと、自分が持っている資質、それと、みんなが求めていることがあって、それらのバランスを上手く取ることが大事なのかなと。おそらく、ソロを始めてすぐ商業的に成功していたら、もっと傲慢になっていたかもしれないですけど(笑)、そうはならなかった。でもそれは、自分でも覚悟していたことなんです。諦めずに継続してやっていけば、周囲の評価も変わってくるだろうと信じていたというか。なので、結構がんばっていたんですよ(笑)。いまは、当初の〈耽美エントRock〉を継承しつつ、自分がその都度やりたいことを取り入れているという感じです」

2017年のシングル“BIRDY”
 

――サム41などを手掛けてきたジョシュ・ウェルバーをエンジニアに起用したり、ライヴでも洋楽のカヴァーを積極的に取り入れたりしている堂珍さんですが、昨今の日本で〈洋楽が厳しい〉と言われている現状についてはどう思いますか?

「確かに、最近だとハイエイタス・カイヨーテやアラバマ・シェイクスが来日しても、(本国でのキャパと比較すると)大きくないハコでのライヴになりがちですよね。なので、〈もったいないなぁ〉と思うことはあります。僕は毎年グラミー賞の授賞式に行っていて、今年で3回目になるのかな。それこそアラバマ・シェイクスやケンドリック・ラマー、アデルなどがパフォーマンスをしたときの、熱狂的な受け入れられ方を現地で観ると、どうしても日本とのギャップを感じてしまいますね。だからこそ〈HOSTESS CLUB WEEKENDER〉や〈HCAN〉のような、洋楽中心のイヴェントが日本で開催されて、とても盛況なのはすごく嬉しいし、素敵なことだなと思っています」