天野龍太郎「Mikiki編集部の田中と天野が毎週月曜日にお送りしている〈Pop Style Now〉。と言いつつ、今週はもう水曜日ですが……。ともあれ、2018年は最後の更新になりますね」
田中亮太「はい! 今年、僕はうつ状態になっちゃって、その期間はお休みさせてもらいましたが、復帰後は再開できて、毎週海外シーンの注目楽曲を紹介できました。不安定な田中を温かくサポートしてくれた天野くんには巨大かつ不気味なキスを!」
天野「急にオザケンですか……。3月末にスタートした当連載ですが、いま振り返って過去の回を読んでみても、なかなかおもしろいですね。ちゃんとポップ・ミュージックの定点観測になっているというか」
田中「来年は一年を通して更新していきたいですね。それでは2018年最後の〈Song Of The Week〉から!」
21 Savage “Out For The Night Pt. 2”
Song Of The Week
天野「今週は21サヴェージの“Out For The Night Pt. 2”が〈SOTW〉! この曲は12月21日にリリースされたアルバム『i am > i was』に後から追加されたボーナス・トラックです」
田中「なんといってもトラヴィス・スコットが新たなヴァースを加えているということで話題ですよね。元の“Out For The Night”はアルバムに入っていた曲なんですけど」
天野「そうなんですよ。そもそも『i am > i was』はリード・シングルを切っていないというのがすごいです。2017年のデビュー・アルバム『Issa Album』以降、ソロの曲が出てないなーと思ってたところに新作をバーンと出してきました」
田中「肝心の曲の話に戻ると、元曲が終わった後にまったくムードが異なるトラヴィスのヴァースが追加されているという構成になっていますよね。ビートもコード感もなにもかもが違っていてビックリするくらいですが、この割り切り感?が無性にカッコイイ!」
天野「ある意味、アヴァンギャルドな構成なんですけど、例えば2018年を代表するヒット・ソングであるトラヴィスの“SICKO MODE”も前半と後半で毛色が違う組曲っぽい展開を持っています。あと、ケンドリック・ラマーの曲にはこういうものが多いんですよね」
田中「今年はエイサップ・ロッキーの『TESTING』も挑戦的なサウンドでしたけど、尖った音楽がポップ・シーンのど真ん中で鳴っているのは痛快です。フレッシュであることは、ポップに不可欠な要素ですからね」
Malibu Ken “Corn Maze”
天野「2曲目は、エイソップ・ロックとブラック・モス・スーパー・レインボウのタバコによるユニット、マリブ・ケンの新曲“Corn Maze”です」
田中「ちょっと懐かしさのあるサウンドですね。マーク・ロンソンの初期作『Here Comes The Fuzz』や2010年前後の西海岸アブストラクトにも通じる、エキセントリックで骨太な感じ」
天野「エイソップ・ロックは、もう20年選手のコンシャス系を代表するラッパーですね」
田中「で、ブラック・モス・スーパー・レインボウはフレーミング・リップスやMGMTと近い音楽性を持つエクスペリメンタル・ポップの雄。このマリブ・ケンは、双方の魅力を活かしたナイスなコラボと言えそう」
天野「IDMっぽいビートの組み方やアナログ・シンセの歪な音色が耳に残ります。その上でカマされる力強いラップも存在感抜群です」
田中「ミュージック・ビデオは、不眠症のエイソップがTVに幻視するサイケなアニメをモティーフにしています。この映像のアナログな雰囲気も楽曲にマッチしていますね。なお、マリブ・ケン名義での初アルバムは来年1月18日(金)にリリース予定!」
Jhené Aiko “Wasted Love Freestyle”
天野「続いて、ジェネイ・アイコの新曲“Wasted Love Freestyle”です。泣けるハートブレイク・ソングですね……」
田中「ジェネイはTDE勢の作品への参加などで知られるR&Bシンガーです。彼女はラッパーのビッグ・ショーンと交際していたんですよね」
天野「そうなんですけど、どうやら別れてしまったようです。で、この曲は彼との関係を歌ったものだと言われています。〈あなたは私の人生だった/そばにいないこと、それは正しくないと感じる〉と直球の歌詞です」
田中「うひゃー、胸が痛い。10cc“I'm Not In Love”調のまろやかなサウンドとあいまって、甘苦さに息が止まりそう……」
天野「ビートの存在感が希薄な点もおもしろいですよ。完全にノンビートではないんですけど、柔らかで、まるで心臓の音みたいな感じ」
田中「良い音響で聴くと凄まじいリスニング体験をもたらしてくれそうなプロダクションですね。この優しさに溢れたシンセに死ぬまで包み込まれていたいな……」
天野「とことん癒されたいとぼやいてる、いまの亮太さんにはうってつけの楽曲ですね!」
Cigarettes After Sex “Neon Moon”
天野「4曲目は、シガレッツ・アフター・セックスがリリースした“Neon Moon”です」
田中「6月にリリースされたシングル“Crush”と“Sesame Syrup”に続く新曲ですね。天野くんはこの曲をいたく気に入っていたようですが」
天野「ファースト・アルバム『Cigarettes After Sex』(2017年)ではあんまりピンとこなくて、この“Neon Moon”でやっとその魅力がわかったんですよね。ドリーム・ポップやシューゲイズと言われていますけど、つまりはサイケデリック・ロックなんだって気付いたんです」
田中「そうですか? 僕はけっこうマジー・スターとかコクトー・ツインズとかの直系って感じますけどね。ライターの黒田隆憲さんも、そうした位置づけで記事を書いてくれたし。まあ、黒田さんの言うことなら間違いないっていうか」
天野「それは確かにそうなんですけど、ベースラインやライド・シンバルを刻んでいる感じが、僕には裸のラリーズにしか聴こえなくって。サイケデリック/アシッド・フォーク好きのツボを刺激されました。これはシガレッツ・アフター・セックス版“白い目覚め”ですよ!」
田中「興奮しないでください! えーっと、なんだかよくわかりませんが……その視点からファーストを聴き返してみるとまた発見がありそうですね。新作にも期待大です」
Neon Indian “Heaven's Basement (Theme From 86'd)”
天野「ラストはネオン・インディアンの“Heaven's Basement”です。曲名に〈Theme From 86'd〉と付いていますが、映画か何かのために作られた曲なんですか?」
田中「フロントマンのアラン・パロモが監督した短編映画『86'd』のテーマソングみたいです。なにやら24時間営業のデリが舞台で、深夜のオーダーを機に5つの物語が派生していく作品だとか」
天野「へー。アラン、映画も撮るんだ。ネオン・インディアンといえばチルウェイヴの代表的なバンドという印象のリスナーが多いかもしれませんが、最近の作品はかなりディスコ・フィールでダンサブルになりましたね。この“Heaven's Basement”もミネアポリス・ファンクっぽい瞬間があったり」
田中「ブリっとしたベースといい、吐息の如きセクシーなヴォーカルといい、ちょっとやりすぎなくらい、まんまプリンスですね(笑)」
天野「クリスティン・コントロールやなんかとプリンスの“Pop Life”をカヴァーしてましたし、生粋のファンなんでしょうね。ともあれ、バンドにとっては2015年のアルバム『VEGA INTL. Night School』以来の新曲ですし、この方向性は興味深いところ。来年あたり、そろそろ新作も出るんでしょうか」
田中「楽しみですね。〈PSN〉としては引き続き続報をキャッチしていきましょう。それでは、2019年も当連載をよろしくお願いいたします!」
天野「みなさま、よいお年を!!」