これまでの活動を経てたどり着いた場所 ここにしかない新しい世界

 ジャズを出発点にして、自由奔放な語り口で音楽を綴るユニット、ものんくる。これまでは、吉田沙良(ヴォーカル)、角田隆太(ベース)を中心にしたバンド編成だったが、3作目となる新作『世界はここにしかいないって上手に言って』ではメンバーを一新して挑んだ。その思い切った方向転換は、プロデュースを手掛けた菊地成孔からの提案だったらしい。

ものんくる 世界はここにしかないって上手に言って TABOO(2017)

 「菊地さんが“新作の条件”というのをいくつか提案してきて。そのひとつが僕達二人を中心にしたユニットにして、曲ごとにミュージシャンを集めるスティーリー・ダン・スタイルでやろうと。それで、ジャンルとは関係なく、音楽をやるうえで自分達とコミュニケーションのとり方が近い人を選びました」(角田)

 参加ミュージシャンは、斉藤ネコ、FUYU、桑原あいなど多彩で、角田が今年3月まで在籍していたCRCK/LCKSのメンバー、井上銘、石若駿もいる。彼らと共演するうえで、二人はいつも以上に綿密にデモテープを作り上げた。そして、完成したアルバムは、R&Bやロックの要素も盛り込みながら、濃密なセッションと切れ味の良いアレンジのなかにオリジナルなポップ・センスが光っている。前作『南へ』で取材した際に「ポップなものを作りたい」と語っていた彼らは、新しい扉を開いたようだ。

 「“ポップなものを作ろう”と意識するのはやめることにしたんです。考え過ぎてた気がして。そうしたら、どんどん良い曲ができてきて、それが自然にいまのアルバムのかたちになりました」(吉田)

 「『南へ』の時はジャズの器のなかにポップスが入っている感じ。今回はポップスの器のなかにジャズが入っている感じですね。そのジャズのエッセンスがすごく濃い」(角田)

 また、これまでは1曲のなかで次々と風景が変化していく様子を多彩なサウンドで肉付けした長い尺の曲が多かったが、今回はコンパクトにまとめられているのも印象的だ。

 「そういった物語が展開していく曲や、ホーンを入れた曲は『南へ』で完結させようと思ったんです。今回は新しいことをやりたかった」(角田)

 「これまでは物語を伝えようと思って歌っていましたが、今は歌詞全体のイメージとか空気感を伝えられればいいかな、と思っていて。これまでの曲が映画だとしたら、最近は写真みたいな感じかな」(吉田)

 そして、「いまは気持ちよく歌うことが一番大事」と彼女は言う。ジャズを常に意識しながら、歌詞もサウンドも進化し続けるものんくる。新作は、そんな彼らの今を鮮やかに捉えたスナップショットだ。

 


LIVE INFORMATION

『世界はここにしかないって上手に言ってTOUR』
○8/22(火)19:00開演 神戸VARIT.
○8/23(水)19:30開演 名古屋TOKUZO
○8/25(金)19:00開演 代官山UNIT
TOURメンバー: 吉田沙良(vo)角田隆太(b)宮川純(key)渡辺ショータ(key)小川翔(g)伊吹文裕(ds)
Special Guest(東京公演のみ):菊地成孔(ts)安藤康平(as)田島華乃(vn)関口将史(vc)
mononkul.tumblr.com/