「フィルム・ノワール」としても絶品! 父と息子をテーマに描く、新鋭アルチュール・アラリ監督のデビュー作
間違いなく今年日本で公開されるフランス映画の中でも最高の一本『汚れたダイヤモンド』は、新鋭アルチュール・アラリ監督の長編デビュー作である。それが「フィルム・ノワール」としても絶品なのだが、ただのジャンル映画に終わらない、緻密で重層的な作品になっているところがまた凄いのだ。来日をした、まだ青年のような雰囲気を残したアラリに話を聞いて来た。
この映画は、ニールス・シュネデール演じる主人公のピエールが、消息不明だった父の死を突然知らされることから始まる。そして、その物語は、優れたダイヤモンド職人だった父を非業の死に追いやった父の弟、つまり叔父ジョゼフに対するピエールの復讐劇と要約することもできるのだが、それについて、アラリは次のように語る。
「確かに、この映画は一見〈フィルム・ノワール〉なんですが、いろんな見方ができて、例えば、シェークスピアの『ハムレット』を下敷きにした家族の悲劇の話とも言えますし、主人公がさまざまな経験や人々との出会いを通じて成長をして行く〈ビルドゥングス・ロマン〉的な側面もあるかと思います」
『ハムレット』に象徴されるような「父と息子」という永遠の物語が、この映画の中では、主人公と、亡くなった父を補完するような形で登場する年長の男たちとの間で描かれるが、その演出がどこか神話性の高みにまで達しているように思われるのは、舞台となるベルギーの、ダイヤモンドで有名なアントワープという街のロケーションの効果もあるかもしれない。そこで象徴的に現れるのは〈ブラボーの像〉なのだが、それはアントワープの歴史や伝説を背景にしているだけでなく、この映画のストーリーの重要なメタファーともなっているのだ。アラリは、その存在をロケハンで偶然知ったと言う。
「本当にそれは奇跡でした。もちろん、私はその話をすぐにシナリオに書き加え、主人公も知らずにそこに行って、それを見出すという話にしました。その方が、この物語をより神秘的なものにしてくれると思ったからです。まるでピエールは、自分を古代ローマの悲劇の主人公のように錯覚して、道を踏み外して行くのです」
そして、この「神話的な悲劇」に、それに相応しい荘重なるスコアを書いたのは、意外にも、〈Los Chicros〉や〈Syd Matters〉のようなポップ・バンドで活躍するオリヴィエ・マルグリだった。アラリは、頭の中で鳴っていた音を口笛でマルグリに伝えることで、彼はいくつかのテーマを作曲したというから、これはある意味、アラリとマルグリによる共作でもある。
アラリの次回作では、何と、あの終戦を知らず、フィリピンのルバング島で30年近く一人で戦争を戦い続けた小野田寛郎を取り上げるのだと言う。そちらも楽しみだが、まずは、『汚れたダイヤモンド』を観て、アラリの傑出した才能に驚愕して頂きたい。
映画『汚れたダイヤモンド』
監督・脚本:アルチュール・アラリ
撮影:トム・アラリ
音楽:オリヴィエ・マルグリ
出演:ニールス・シュネデール/アウグスト・ディール/ハンス・ペーター・クロース/アブデル・アフェド・ベノトマン/他
配給:エタンチェ(2016年 フランス・ベルギー 115分)
(C) LFP‐Les Films Pelléas / Savage Film / Frakas Productions / France 2 cinéma / Jouror Productions
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