78年、電子音楽が一般的な人気を得る前のパリを舞台に、若き女性ミュージシャンがドラム・マシーンに魅了される姿を描いた映画「ショック・ドゥ・フューチャー」。音楽ユニット、ヌーヴェル・ヴァーグ(Nouvelle Vague)のメンバーとしても知られるフランス人の監督、マーク・コリンによる同作が、2021年8月27日(金)より新宿シネマカリテ、渋谷ホワイトシネクイントほか全国の映画館で順次公開される。
主役のアナを演じるのは、アレハンドロ・ホドロフスキーを祖父に持つ新鋭、アルマ・ホドロフスキー。劇中では、スロッビング・グリッスル、スーサイド、ディーヴォといった当時のエレクトロニック・ミュージックがアナの日常を彩っている。
音楽カルチャーにおける女性ならではの葛藤や苦悩、それらを超越した創作の興奮をリアルに捉えたこの映画を、Mikikiでは3人の女性ミュージシャン/ライターがレビュー。テクノ・シーンで確固たる地位を築き、音楽業界内の女性の地位向上について積極的に発信してきたSapphire Slows。インディー・ロック・バンド、The Wisely Brothersのメンバーであり、Real Soundにて映画連載〈考えごと映画館〉を持つ真舘晴子。映画や文学、音楽などさまざまな分野の女性カルチャーに造詣の深いコラムニスト、山崎まどか。3人が「ショック・ドゥ・フューチャー」の魅力に迫った。 *Mikiki編集部
78年、パリ、シンセサイザーに音楽の未来を夢見た女性
by Sapphire Slows
〈未来の衝撃〉という意味のタイトルのこの映画は、78年、ポピュラー音楽史的にはまさにニューウェイヴ前夜である電子音楽の黎明期に、シンセサイザーを使って作曲家として働く女性、アナの夢と現実を描いた作品です。映画では冒頭からシンセサイザーの名機が続々登場します。71年発売のARP 2600、73年発売のMoog Model 15、77年発売のポリフォニック・シンセサイザーYamaha CS-80、ストーリーのキーとなる78年発売のドラム・マシーンRoland CR-78……。往年のシンセ・ファンも唸らせる高価で夢のような機材に囲まれつつも、実はアナは借り暮らしで、最新の機材欲しさに借金をしたり、作曲以外の仕事をしていたり、経済的に余裕のない様子も描かれているのが印象的です。
劇中では露骨でリアルな女性軽視とハラスメントのシーンも度々登場します。シンセサイザーは〈女には買えない代物〉であり、女は仕事ができない、美人なんだから歌えばいい、などの発言には思わず息を詰まらせてしまいますが、年齢や性別を超えた友情や音楽愛をシェアする仲間に支えられる姿や、女性同士でレコーディングすることの新鮮さや心地よさも描かれており、心温まるシーンに救われます。個人的には頭の硬いプロデューサーと対照的に、アナの未来を予想するような先進的な感性、音楽の進化に心躍らせ興奮する様子がたまりません!
1978年は2021年から遡ると43年も前ですが、この映画には〈そんな時代もあった〉と言い切れない同時代性があります。作曲家としてぶつかる壁、女性としてぶつかる壁、自分が本当にやりたい音楽とは異なるCM制作でスランプに陥る様子とともに、未来の音楽を夢見る場面では、共感して思わず涙してしまいました。アナログ・シンセサイザーというマイナーな題材を扱いつつ、爽やかな青春音楽映画へと昇華されていることで多くの人に見て欲しいと思える作品です。