〈ロックの時代は終わった〉だって? 言いたい奴には言わせておけばいいさ。だけど、どんな時代であろうとも、コイツらが鳴らす猥雑な漆黒ロックンロールのヴォルテージは常に最高潮! それで十分だろ!!

BRMCは決してブレない!

 〈ロックはあるけどロールはどうしたんだ〉――これは日本が誇るロックンロール・ミュージシャン、斉藤和義の“月光”にも引用されたキース・リチャーズの言葉だが、いまや〈ロール〉どころの話ではない。いったいロックはどうしてしまったのだろう。ここしばらくの全米/全英チャートを見ても、R&Bやヒップホップ、クラブ・ミュージック周辺の作品が入れ替わり立ち替わり上位を占め、ロック勢と言えば単発で数えるほど。ややもすれば、数えるほども入ってこない。

 そんな時代にありながら、ロックンロールの楽しさ/カッコ良さを伝えてくれるヤツらがいるのは頼もしい限り。しかも、彼らは業界全体の趨勢などには目もくれず、その姿勢を20年近くに渡って貫きながらロック・シーンの第一線でサヴァイヴし続け、爪痕を刻み続けている。そう、〈彼ら〉とは本稿の主役であるブラック・レベル・モーターサイクル・クラブ(以下BRMC)のことだ。

 マーロン・ブランドの主演映画「乱暴者」に登場するバイカー・ギャングのチーム名から取られた名前もハマりすぎのBRMCは、98年にサンフランシスコで結成。当初のメンバーはピーター・ヘイズ(ヴォーカル/ギター)、ロバート・レヴォン・ビーン(ヴォーカル/ベース)、ニック・ジャゴー(ドラムス)という3人で、2001年(日本は翌年)にファースト・アルバム『B.R.M.C.』でいきなりのメジャー・デビューを果たす。ちょうどロックンロール・リヴァイヴァル人気が盛り上がりを見せはじめた時期だ。当時からすでにブルージーで、パンキッシュで、サイケデリックな独自のスタイルを確立していたBRMCは、よりダイレクトかつ即効性の強いサウンドを打ち出したセカンド・アルバム『Take Them On, On Your Own』(2003年)、ボブ・ディランや初期ローリング・ストーンズらを彷彿とさせるアメリカン・ルーツ・ミュージック的な音作りに転じた3作目『Howl』(2005年)、その揺り戻しのように熱くダイナミズム溢れる轟音を炸裂させた4作目『Baby 81』(2007年)と、コンスタントにリリースを重ねてきた。また、その間にはマイケル・ウィンターボトム監督による2005年公開の映画「ナイン・ソングス」に出演し、プライマル・スクリームやヴォン・ボンディーズ、フランツ・フェルディナンドなどと並んで劇中のライヴ・シーンでパフォーマンスも披露している。

 『Baby 81』を最後にニックが脱退して女性ドラマーのリア・シャピロが加入し、新体制となったBRMCは、自主レーベルのアブストラクト・ドラゴンを設立。配信限定のインストゥルメンタル・アルバム『The Effects Of 333』(2008年)を経て、それまでのキャリアの集大成とも言える多彩な作風の5作目『Beat The Devil's Tattoo』(2010年)、そしてフー・ファイターズのデイヴ・グロールのスタジオでレコーディングし、グループ史上もっとも大きなスケールを獲得した6作目『Specter At The Feast』(2013年)を発表。取り巻く環境が変わっても、ブレない姿勢を誇示してくれた。

 

〈アルバム〉の醍醐味を味わえ!

BLACK REBEL MOTORCYCLE CLUB Wrong Creatures Abstract Dragon/HOSTESS(2018)

 あれから約5年、BRMCが久しぶりの新作『Wrong Creatures』を完成させた。プロデュースを手掛けるのは、ニック・ケイヴ&ザ・バッド・シーズやヤー・ヤー・ヤーズ仕事で名高いニック・ローネイだ。このアルバムでバンドは、前2作の振れ幅とスケール感はそのままに、よりディープで濃密でドラマティックな音世界を作り上げている。映画「タクシードライバー」のように猥雑な夜の風景をイメージさせるスリリングなナンバーや、ウィスパー・ヴォーカルが妖艶に響くスロウ・チューン、初期のコールドプレイを比較対象に挙げたくなるほどの叙情的なバラード、そこから一転しての激烈パンク、さらに一転してのマントラの如きスピリチュアルなサイケ・ロック……といった具合で、それぞれにキャラクターの際立った楽曲たちが密接に絡み合いながら共鳴し、映画や小説さながらの物語性を持って聴き手の感覚/感性へと迫ってくるのだ。これは本人たちに訊いてみないと確かなことはわからないが、今作は一枚トータルでひとつのストーリーが展開されるコンセプト・アルバムであり、BRMCはその語り部としての役割を果たしているのではないだろうか。〈間違った生き物〉を意味するタイトルも含めて、そんな気がしてならない。

 そのアルバム・タイトルについては、先行シングル“Little Thing Gone Wild”の歌詞から取られていることのみ把握できているだけで、そこに込められた思いや意図するところは現時点で不明。最新のオフィシャル・バイオグラフィーでロバートが〈アルバム全編を通じてのテーマでもあり、誰にでもある感覚〉といった内容のコメントをしているので、人間の内面に潜む狂気や悪魔のようなものを指しているのかもしれない。いずれにしても、『Wrong Creatures』がさまざまなイマジネーションを刺激し、空想、幻想、妄想を掻き立てながら、過去の遺物になろうとしている〈アルバム〉の醍醐味を味わい尽くさせてくれるロック作品であることは間違いない。

 ……と、ここまで書いてきてなんだが、BRMCの真の魅力を堪能できるのは何といってもライヴだ。2013年以来となる来日公演の実現を切に願っているし、いままでBRMCを知らなかったというリスナーにも、ぜひ観ていただきたい。

ブラック・レベル・モーターサイクル・クラブの作品。