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ソロ第3作のテーマは、クラリネットにとっての〈特別な時代〉

 「挑戦しがいのあるレコーディングでした」と、開口一番アンドレアス・オッテンザマーは語る。新時代を意味する“NEW ERA”というタイトルを掲げた1枚のアルバムでキーワードとなるのが、18世紀半ばにドイツで栄えた音楽都市マンハイム。同地の宮廷楽団はオーケストラの発達史に重要な位置を占め、クラリネットをいち早く導入した点でも画期的な存在だった。その響きは若き日のモーツァルトも魅了している。

ANDREAS OTTENSAMER New Era~18世紀のクラリネット作品集 Decca/ユニバーサル(2017)

 「マンハイム楽派の創始者ヨハン・シュターミッツが残した、クラリネット協奏曲の草分けともいえる作品には、バロック音楽の流れをくむギャラントなスタイルが認められます。彼の子息にあたるカールの協奏曲からは明らかに古典派の息吹が漂ってきますね。モーツァルトへ通じる道が開け放たれたような……」

 父のエルンスト(2017年7月逝去)と兄のダニエルがウィーン・フィルの首席クラリネット奏者というサラブレッド的家系に育ち、自らはベルリン・フィルの首席をつとめるアンドレアス。彼が強い矜持の念を抱くのが、柔らかな輪郭とジューシーな質感を備えた“ウィーンの音色”だ。その伝統的な美観を保ちながら、シュターミッツ親子の作品の書式や様式面の差異まで鮮やかに描き分ける。まさに新時代の吹き手。

 「当時の演奏家にとって、音符の背後に秘められた何らかのゼスチュアや、書かれていない約束事を読み取ることは容易だったはず。それを現代の楽器で“話し言葉”のように再現することを意識しました。重要なのはピリオド楽器に音を似せる作業ではなく、音楽の文脈を正しくたどる行為。カールの協奏曲のように時代が新しい作品でも、そこに即興的な要素を加味する余地はおのずと見てとれます。車を運転中に赤信号や青信号や道路標識へ自然と反応するみたいに(笑)」

 ベルリン・フィルの名手たちもアルバムに華を添える。モーツァルトの歌劇からの編曲物でデュオを交わすのはフルートのパユ。ダンツィの小協奏曲ではマイヤーがイングリッシュ・ホルンを手に原作のファゴット・パートを吹きこなす。そしてやはりマンハイムに縁を持つダンツィが「ドン・ジョヴァンニ」の主題によって書き上げたクラリネットと管弦楽のための幻想曲は、いわば1枚のプログラムを取り結ぶリンクだ。

 「ダンツィはロマン派へつながる扉の前に立っていた作曲家です。つまり音楽史の特別な時代にスポットを当てながら、〈その先に待ち構えていたもの〉にまで聴き手の好奇心をあおるのがアルバムのコンセプト」

 なるほど。ならば、彼自身の次回作は?

 「ウェーバーの協奏曲。あとは内緒!」と悪戯っぽく目を細めるオッテンザマー。期待感、あおられますね。