©Stefan Höderath

豪華な共演陣と〈ロマンティック〉な歌の世界を極めるクラリネット

 名実ともにクラリネット界のニュー・スター。その最新盤は共演陣も豪華だ。ヤンソンス指揮するベルリン・フィルをバックに吹いたウェーバーの協奏曲第1番をプログラムの軸としながら、もう1つの目玉が、ユジャ・ワンのピアノを得た同じ作曲家の“協奏的大二重奏曲”。メンデルスゾーンの“無言歌”や、ブラームスのピアノ曲と歌曲からアレンジされたピアノとクラリネットのデュオが、さらにそれを取り囲む。

「この協奏曲に僕が見出すのは何よりもオペラ的な要素であり、カンタービレな表現です。ドイツ音楽だからといって堅苦しく演奏するのはおかしい。そんな解釈と呼応する、ロマンティックな香りやメランコリーを備えた小品がアレンジの素材となっています」

ANDREAS OTTENSAMER Blue Hour Deutsche Grammophon/ユニバーサル(2019)

 アルバムの冒頭を飾るブラームスの“間奏曲 作品118の2”には、まさに彼の言葉どおりの魅惑が横溢。そしてこのCDのトレイラー・ヴィデオとしてweb上で公開されている動画でも、同じ曲に接することができる。しかしなんと、演奏の場所は湖の上。

「ベルリンの郊外にあるスティーニッツゼーという湖です。軍隊用の強力な設備でステージを固定し、実際には音も出ないオンボロのピアノを搬入。ユジャと僕は、ボートに乗ってそこまでたどり着きました」

 動画の中の彼らを包み込む、空と湖の色合いが実に麗しい感じだ。アルバム・タイトルの“ブルー・アワー”そのもの。撮影は早朝、それとも黄昏時?

「両方(笑)。湖畔にはタービン・ホールという歴史的な建造物があり、そこでは芸術とスポーツを総合的に結びつけたアート・フェスティヴァルが毎年の夏に催されています。僕はその芸術監督の1人なんです。今回の映像はフェスティヴァルの期間中に、主催者の協力も得て収録可能となりました。夕方に撮影して、その後はコンサートをこなし、また翌朝に……」

 1枚のCDを通じて印象に残るのは、愛用する銘器クロンターラーから彼が引き出す、浸透力も高い弱音の美観。それでいてユジャ・ワンの闊達なピアニズムと渡り合うだけのエネルギー感にも欠けていない。

「声高に叫びっぱなしの演奏は、いつか飽きられてしまう。ひそやかに語りかけながらニュアンスが豊富で、いやでも耳がひきつけられる。ベルリン・フィルの中で吹くときもそんなソロを意識しています。ユジャと音楽を通じて対話ができたのは、今回の大収穫でした。彼女が持つ室内楽奏者としてのすばらしい資質まで、改めて認識してもらえるリリースだと思います。次のアルバム? モーツァルトの協奏曲はそろそろ視野に入っていますが、具体的にはまだこれから!」

 おお、期待度十分。みんな待ち望んでいますからね。

 


LIVE INFORMATION

アンサンブル・ウィーン=ベルリン 2019公演スケジュール
○9/28(土)15:00開演 会場:彩の国さいたま芸術劇場 音楽ホール
○9/29(日)15:00開演 会場:三鷹市芸術文化センター 風のホール
○10/1(火)19:00開演 会場:石川県立音楽堂 コンサートホール*
○10/2(水)19:00開演 会場:京都コンサートホール アンサンブルホールムラタ
○10/4(金)19:00開演 会場:東京文化会館 小ホール
○10/6(日)14:00開演 会場:横浜みなとみらいホール*
*協奏
www.hirasaoffice06.com/artists/view/78