(C)MIRARE

初期から後期まで、ベートーヴェンに新たな光をあてる録音

 バッハの《パルティータ》を含む素晴らしいアルバムをリリースしていたフランスの気鋭のピアニスト、レミ・ジュニエがベートーヴェンのピアノ・ソナタの作品集を新たにリリースした。来日した機会を捉えて彼にインタヴューした。ベートーヴェンの作品の中の明暗をくっきり浮かび上がらせるような印象のある作品集だった。

REMI GENIET ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ集 Mirare(2017)

 「必ずしも明暗だけにこだわった訳ではありません。明るい色の中でも、暗い色の中でもそれぞれにグラデーションがあるような感じがします。それをうまく出せれば良いなと思っていました」

 とレミ・ジュニエ。彼が今回録音したのは、第2、第9、第14《月光》、第31番というベートーヴェンのソナタのセレクション。初期から後期まで幅広い時代にわたっているが、それぞれの時代の個性がよく分かる演奏となっている。そこで話題となったのは、特に初期のピアノ・ソナタでのペダルの使いかたのこと。

 「ベートーヴェンの指示がどういう効果があるのか、よく分からない指示があることは、ピアニストだけでなく、聴き手にも有名な話ですね。例えば《月光》の第1楽章はずっとペダルを踏みっぱなしにするとか。そういうことも注意しながら、録音をしたつもりです」

 その繊細な演奏によって、ベートーヴェンの音楽は曖昧さがなくこちらに伝わって来た。

 「ベートーヴェンが作曲した時代の楽器は、やはり今のスタンウェイのように豊かな響きを持っていた訳ではないので、そこを考慮しながら音楽作りをしないと。そのクリアさと曖昧さの境のような部分を特に意識して録音したと思います」

 ところで、最初に手がけたベートーヴェンのピアノ・ソナタは何だったのだろう?

 「1曲まるごと取り組んだのは《悲愴》が最初でした」

 今後の予定はまだ分からないようだが、もっとベートーヴェンを聴きたいと思わせる録音だった。しかし、本人は意外なことを口にする。

 「パリの音楽院ではピアノと指揮を学んでいて、エリザベート国際音楽コンクールに出場して、ファイナルまで進んだために、指揮科の最終試験を受けることが出来なかったのです。実は指揮にもとても興味があって、iPadの中にはオペラのスコアがたくさん入っているのですよ」

 もし、今、オペラの指揮をオファーされたら、何が振りたいかと聴いたら、「モーツァルトの『魔笛』か『ドン・ジョヴァンニ』かな」とジュニエ。いつか、彼の指揮を、あるいは弾き振りを見ることが出来るかもしれない。それも楽しみに待ちたい。

 


LIVE INFORMATION

レミ・ジュニエ 2018/19来日コンサート・スケジュール
○2018年4/19(木)会場:東京文化会館 小ホール
t-onkyo.co.jp/

○2019年1/12(土)会場:彩の国さいたま芸術劇場 音楽ホール
www.saf.or.jp/arthall/

○2019年1/14(月)会場:いずみホール
www.izumihall.jp/

*2019年公演に関しては、発売前となります。詳細は各劇場にお問い合せください。