2013年のエリザベート王妃国際コンクールで第2位に輝いたフランスの若手ピアニスト、レミ・ジュニエ。1992年モンペリエ生まれなのでまだ20代前半だが、とても美しい音色、しかも豊かなソノリティを持つピアニストである。2014年のラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポンに急な代役として登場し(これが初来日だった)、ラフマニノフのピアノ協奏曲第3番を見事に演奏したのも記憶に新しい。彼のピアノの音は、透明なのに、オーケストラの間を抜けて客席まで届いて来るほど豊かだった。今年のラ・フォル・ジュルネではバッハの作品などを小さな会場で親密に奏でた。

 「昨年はちょうどエリザベート・コンクールのツアーを行っている最中で、ラフマニノフは準備をしていたので、大きな問題はありませんでしたよ。でも、スケジュールがとてもきつかったので、来日しても会場とホテルを往復するだけで、ちょっと残念でした」

【参考動画】レミ・ジュニエによるラフマニノフ〈ピアノ協奏曲 第3番〉2014年〈LFJ〉ナント公演の映像

 

 昨年、バッハの作品集を録音した。その選曲は「パルティータ第4番」「イギリス組曲第1番」「トッカータ(BWV911)」、そして「最愛の兄の旅立ちに寄せて」というものだ。

 「バッハの鍵盤楽器のための作品は膨大にあるので、そこから選ぶのはとても難しいことです。でも、自分にとってバッハの特徴と思えること、それを代表するような作品を選ぶことにしました。舞曲、対位法、そしてフーガなどのバッハらしい要素があり、同時に人生そのものを描いたユニークな作品もある、という感じですね」

REMI GENIET J.S.Bach:Partita No.4,Caprice BWV.992, English Suites No.1,Toccata BWV.911 Mirare(2015)

※試聴はこちら

 録音も素晴らしい。最近のフランスの演奏家がよく使っているポアティエの劇場で録音された。

 「非常に響きが豊かで、しかも自然なホールです。自分の音をちゃんとチェックしながら演奏することが出来るので、とても楽に演奏出来ました」

 バッハの楽曲の中の様々な声部がクリアに聞こえる。

 「おそらくバロック時代の作品を演奏するピアニストがみんな気にしていることですが、作品の中の様々な音をきちんと表現したいと思いました。もちろんペダルをどうするか、というのは大きな問題ですが、それはピアノと演奏会場の個性によってかなり変わりますから、常に同じとは言えませんね。響きが重なり合わないように、気を使って演奏したことは確かですが」

 ちょっとひねった質問にもサラリと答えてくれるジュニエ。見た目はちょっと幼さも感じさせるのだが、さすがにパリでエンゲラーなどに、ハンブルク音大でコロリオフに師事した秀才。音楽についての真摯な姿勢はすでに成熟した演奏家である。来年には来日公演が行われる予定で、とても楽しみである。