傷が癒えたわけではない。どうしたってあの2人の影を追ってしまう。それでも彼らは前進することを選択した。
過去を受け入れ、変化することではなくバンドの本質を見つめ直した4人に、今度こそ光は射すのか……。

 悲劇のバンド――ストーン・テンプル・パイロッツに何か枕詞を付けようとすると、どうしてもこんな言葉が浮かんできてしまう。何しろオリジナル・シンガーであるスコット・ウェイランドが2015年末に他界したのみならず、2013年のEP『High Rise』でグループに合流し、見事な化学反応を呼び起こしたリンキン・パークのチェスター・ベニントンまでもが昨年7月に逝去。物語が新章に突入したかと思うと障壁に行く手を阻まれる――彼らの歴史にはなぜかそうした展開がつきものだった。しかし今度こそ、新たな黄金期が到来することになるのではないだろうか。そんな予感を口にしたくなるくらい、このたび世界同時リリースへ至った待望のニュー・アルバム『Stone Temple Pilots』は、あまりにも素晴らしい出来映えだ。

STONE TEMPLE PILOTS Stone Temple Pilots Atlantic/ワーナー(2018)

 当然ながらバンドには新しいフロントマンが迎えられている。彼の名はジェフ・グート。かつてドライ・セルなるニュー・メタル系のグループで活動し、US版「The X Factor」へも出場した経験のあるこの人物の加入が報じられたのは、昨年11月のこと。その時点で公表された新曲“Meadow”を初めて聴いた時の衝撃は忘れられない。グリッターな感触のねばっこいリフに絡みつくジェフの艶めかしい歌声が、まるで往年のスコットのように聴こえたからだ。以降もYouTubeの公式チャンネルにはいくつかの新録音源がアップされ、そのたびにゾクゾクするような興奮を覚え、ジェフを擁する新体制でのアルバムへの期待感は高まっていくばかりだった。そしてここに到着した『Stone Temple Pilots』は、それを裏切らないどころか超越するような快作なのである。

 ギタリストのディーンとベーシストのロバートのディレオ兄弟、ドラマーのエリック・クレッツという演奏陣の顔ぶれは、92年のデビュー当時からまったく変わっていない。とはいえ、それから四半世紀以上を経たいま、かつて〈オルタナティヴ〉と呼ばれた彼らの音楽は、むしろクラシックなハード・ロックに近いものと受け止められているのかもしれない。が、確かに時代の流れのなかで音楽地図におけるバンドの居場所は変わってきたものの、このアルバムから感じ取れるのは〈本質はあの頃のまま〉といった印象。しかも、しなやかでグラマラスなグルーヴ感溢れるアンサンブルにはさらなる円熟味が加わっているし、力強くも妖艶なジェフのヴォーカル・パフォーマンスは、長年ストーン・テンプル・パイロッツを聴き続けてきた人たちにとって、おそらく違和感の伴い難いものであるはずだ。

 もちろん、ジェフにはジェフの持ち味があり、バンドの目的も90年代の再現にあるわけではない。ただ、ステージに立てばあたりまえのように往年の代表曲を求められる彼らにとって、過去の曲を温度差なく歌いこなすヴォーカリストを手に入れたこと、そうした楽曲群との親和性の高い新曲が詰まったニュー・アルバムを完成させたことは、とても大きな意味を持つと言える。実際、4人はアルバムの発表を待たずしてUS国内でのツアーを開始しているが、この作品が彼らをより広い世界へ導いていくことは間違いないだろう。

 考えてみれば2010年にスコットの復帰を経て9年ぶりの作品として発表された前作も、今作と同様に『Stone Temple Pilots』と銘打たれていた。ただ、あのアルバムを再出発点とするつもりでいた彼らの活動は、結局のところ暗礁に乗り上げることに。世界規模のツアーを展開しようにも、スコットの過去の逮捕歴などから入国可能な場所が限られていたという問題もある。それを解決するため、ディレオ兄弟やエリックにはグループの顔であるスコットと決別する必要があった。きっとスコットも、その後のバンドに可能性をもたらしたチェスターも、いまは天上から新たな船出を温かく見守っていると信じたい。

 ストーン・テンプル・パイロッツはこうして改めてのセルフ・タイトル作品をもって、いわば2度目の仕切り直しを果たしたわけである。今回は悲しい出来事と無縁の物語になりますように。このアルバムに触れたいま、そう願わずにはいられない。