PR
コラム

デッド・オーシャンズ(Dead Oceans)を岡村詩野 × 上野功平が紐解く――ポップ全盛時代、インディー・レーベルがすべきこととは?

デッド・オーシャンズ特集:後編

Page 2 / 3 1ページ目から読む

ミツキ、ケヴィン・モービー、アレックス・レイヒー……近作の示す先見の明と多様性

上野「ちなみに、最近のデッド・オーシャンズ作品でフェイバリットはどれですか?」

岡村「私はケヴィン・モービーの『City Music』(2017年)がダントツですね。去年の個人ベストにも入れさせてもらいました。

この人はウッズを辞めてソロになってからずっと安定して良いアルバムを作っていて、どこにも属さないで飄々とした風合いもおもしろい。ヴェルヴェット・アンダーグラウンドとかジョナサン・リッチマンなんかも思い出したり……でも、いま、意外にこういうソングライターいないような気がするんです。上野さんは?」

上野「自分がライナーノーツを担当しているからってわけじゃないですが、アレックス・レイヒーの『I Love You Like A Brother』(2017年)はハズせませんし、フィービー・ブリッジャーズの『Stranger In The Alps』(2017年)は本当によく聴きました」

上野「こうレコードをズラッと並べてみると、2017年の顔役が揃ってる感じがしますよね。実はフィービーは、2年前にジュリアン・ベイカーのライヴをNYで見た際に前座として出演していたんですけど、その時はここまで注目されるとは予想すらしていなかったですし、デッド・オーシャンズと契約したと聞いたときは〈これは凄いことになってきたな〉と思いました。で、実際に『Stranger In The Alps』はめちゃくちゃ高く評価されたじゃないですか。デッド・オーシャンズには先見の明というか、すごく独特の審美眼がある気がしています」

岡村「やっぱり初期からの反動が少しはあるんじゃないかと思うんですよ。ジュリアナ・バーウィックはもっとインディー・アンビエント寄りですけど、フィービー然り、ミツキ然り、アレックス・レイヒー然り、基本的には歌もので、女性シンガー・ソングライターの新しい在り方というのを提示しているアーティストじゃないですか。歌われているテーマや歌詞の内容はそれぞれ異なるにしても、女性アーティストの現在を、さまざまなスタイルの歌とメロディーを伝えたい人に届けている。派手ではないですが、そうした一つの潮流がジワジワとできてきている印象もあると思うんです。で、思うのは、もしかしたら、デッド・オーシャンズ立ち上げの頃の傾向を、次へとシフト・チェンジさせているのは、こうした異形の女性アーティストかもしれないということなんです。

たとえば、2009年はデッド・オーシャンズから移籍していったダーティー・プロジェクターズが『Bitte Orca』を、グリズリー・ベアが『Veckatimest』を、そしてアニマル・コレクティヴが『Merriweather Post Pavilion』をリリースした年だったし、翌年にはナショナルが『High Violet』(2010年)を発表してブレイクした。2000年代終盤~2010年代初頭はブルックリン界隈のバンドが一定の結果を出した時代でした。2009年はUSインディーの歴史においてもミラクル・イヤーだったと思います。

では、ああいうハイブリッドな音楽をやる人たちはどこに行くんだろうか?っていう不安があったわけですが、ナショナルみたいに〈歌〉に寄せつつダイナミックな展開で聴かせる好例があるいっぽうで、グリズリー・ベアの去年の新作(『Painted Ruins』)は……個人的には好きだけど、次の手を考えあぐねている気もするんです。ただ、何か新しいことをやらなければいけない……という岐路に立たされた時に、すごくイビツに〈ヒップホップもハウスもアフリカ音楽も採り入れるよ〉っていうハイブリッドではない手法から少し距離をおいたアーティストたちが、近年のデッド・オーシャンズを支えているのかなと感じます。それが今日のそうした異形の女性アーティストじゃないかなと。彼女らって90年代に活躍していた女性シンガー・ソングライターたちと比べても、遥かに断面は異なるはずです」

上野「そうですね。フィービーも当然ジョニ・ミッチェルとかエリオット・スミスとかが好きな人だと思うんですけど、いちリスナーとしては普通にいまどきのポップスとかR&Bにも触れてるんですよね。だからといって、それを自身の音楽性にダイレクトに反映させたりはしない。あと、ライアン・アダムスがデビューEPをプロデュースしていたり、アルバムにはコナー・オバーストが客演していたりと、先輩のシンガー・ソングライターたちからも寵愛を受けているのが面白いなって」

岡村「コナーはプロデューサーとしても良い仕事が多いですからね。ところで、アレックス・レイヒーってLGBTをカミングアウトしているんですか?」

上野「確証は持てないんですが、〈オーストラリアは同性婚が禁止されているから、結婚したくてもできないとインタビューで語っていたので、その可能性は高いです。音楽性としてはこれまた異質で、思いっきりポップ・パンクなんですよね。それこそコートニー・バーネットに続く逸材と謳われたりして」

昨年12月に合法化された

岡村「なるほど。セイント・ヴィンセントやコートニーがあれだけ世界的な評価を獲得していったことで、デッド・オーシャンズとしてもLGBTのアーティストをサポートしたい、多様性を体現したいという意志が少なからずあったのかもしれませんね」

上野「多様性という観点では、クルアンビンやドラン・ジョーンズ&ジ・インディケーションズにはアフロ・アメリカンのメンバーがいますね。あと、これはめちゃくちゃ余談なんですけど、フィービーが最初にリスナーに認知されたのってピクシーズの“Gigantic”のカヴァーがアップルのCMに起用されたからじゃないですか? で、ミツキは昨年10月にピクシーズの前座を務めていたし、今年に入ってブリーダーズも10年ぶりの新作『All Nerve』(2018年)をリリースした。ここにきてディール姉妹の存在感が強まってきたのかな……なんて思っていて」

岡村「ピクシーズの再評価もそうですが、確かに80年代後半から90年代初頭にかけての、どちらかと言えばノイジーなギター・ロックが見直されている状況がありますね。それをすごく象徴しているのが去年のスロウダイヴの新作。そういう20~25年周期の時代の連鎖っていうのは感じますよね」

上野「メジャー・フィールドでもブルーノ・マーズが思いっきり90年代オマージュを披露していますからね。インディー・ロック的な文脈でも、80年代~90年代当時のオルタナティヴ・ロックが再発掘されているのかなって気はします。まあ、いっぽうでフランク・オーシャンがジーザス&メリーチェインのTシャツを、カニエ・ウェストがマイ・ブラッディ・ヴァレンタインのTシャツを着る時代だから、何が起きても驚かないんですけど……(笑)」

岡村「そういう意味では、80年代後半から90年代初頭のアメリカ寄りの〈4AD〉、USインディーのなかでもノイジーなサウンドを鳴らしていたバンドの流れを受け継ごうとしているのかもしれないですね」