南ロンドンを拠点に活動する5人組、シェイムが初アルバム『Songs Of Praise』をリリースした。苛立ちを隠さない歌声が耳を引く、まるで暴動を煽るかのようなパンク・サウンドは、不況と言われるUKロック・シーンの再生を予感させるが、本作をリリースしたレーベルが〈デッド・オーシャンズ〉であることにも注目すべきだろう。ダーティ・プロジェクターズやデストロイヤーなどのリリースで知られ、どちらかといえばUSインディー~アメリカーナ的なイメージが強い同レーベルが、いかにも英国的なインディー・バンドを輩出したことには驚いた。近年のカタログを振り返ると、スロウダイヴやブライアン・イーノとトム・ロジャースのコラボレーションといったイメージを拡張するタイトルも目立つが、そのなかでもシェイムの本作はレーベルに鮮やかな新色を加えるはずだ。Mikikiでは『Songs Of Praise』のリリースを記念して、デッド・オーシャンズを特集。その前編となる今稿では、レーベルのこれまでの動きや特色をおさらいしつつ、その異端たるシェイムがなぜ閉塞したシーンの突破口となりえるか、バンドの大きなポテンシャルに迫った。 *Mikiki編集部

SHAME Songs Of Praise Dead Oceans/Hostess(2018)

 

モットーは多様でタイムレスなレコードをリリースすること

ごく少数のモンスターヘッドと、無数のテイストに合わせるように数えきれないほどのロングテールが存在するようになった現在の音楽シーン。そして、ストリーミング・サーヴィスの台頭により、アーティスト自身でのディストリビューションもさらに容易にできるようになったいま、インディー・レーベルの存在意義も問われはじめているように思う。それは氾濫する川に流されている者たちがかろうじて捕まる丸太か? それとも自警団のような組織だろうか? そんな疑問に対する一つの答えが、この〈デッド・オーシャンズ〉かもしれない。

シークレットリー・カナディアンとジャグジャグウォーの姉妹レーベルとして、スタッフや倉庫などをシェアしながら、テキサス州オースティンとインディアナ州ブルーミングトンを拠点に運営されているデッド・オーシャンズ。アクロン・ファミリー、トーレスト・マン・オン・アース、スロウダイヴ、ミツキ、ブリーチド、デストロイヤー、ケヴィン・モービーなどこれまでのリリース・カタログを一瞥するだけで、いかにさまざまな音楽性のアーティストが名を連ねているかがわかることだろう。レーベルのモットーは〈特定のシーンやジャンルにフォーカスせず、多様でタイムレスなレコードをリリースすること〉だという。音楽的なタームを用いてレーベル・カラーを一言で表現するのは難しいが、確かにシーンやトレンドに大きく影響されたような作品は少なく、アーティストが自身の創造性を発揮した冒険の記録としてのレコードが多いように感じられる。そうした創造的な冒険の手助けとその結果として作品を残すことが、彼らレーベルの役割だと考えているのだろう。

ミツキの2016年作『Puberty 2』収録曲“Your Best American Girl”
 

そんなモットーを象徴しているのが、レーベル・カタログ第一弾であるダーティ・プロジェクターズの『Rise Above』(2007年)だ。そもそもデッド・オーシャンズの設立は、現在の主宰を務めるフィル・ルドルフがレコード店〈Other Music〉で働くかたわら、友人が立ち上げたレコード・レーベル、ミスタ(Misra Records)を手伝っていた際に、ダーティ・プロジェクターズのデイヴ・ロングストレスから「ブラック・フラッグのデビュー・アルバムを再解釈するというアイデアがあるんだ」と持ちかけられたことが大きなきっかけになったのだという。そして、『Rise Above』の完成と共にレーベルも産声をあげ、加えて同作はその奇抜な着想のみならず、サウンド自体の先鋭性が高く評価されることになった。アーティストのアイデアをエンパワーし、具現化する。そんなシンプルなコンセプトを象徴するエピソードではないだろうか。

その後、10年強に渡りアクロン/ファミリーの『Set 'Em Wild, Set 'Em Free』(2009年)やデストロイヤーの『Kaputt』(2010年)、フィービー・ブリッジャーズ『Stranger In The Alps』(2017年)など多様な音楽作品をリリースしてきた〈デッド・オーシャンズ〉だが、フィルがオースティンを拠点としていることからか、北米インディーを中心にアメリカーナとカテゴライズされるようなアーティストが多い印象を与えていたのも事実。しかし、2018年、ここにきて新たな動きが見えてきた。それがイギリスのバンド・シーンにおいて、いま熱い注目を集めているロンドンの顔役の一組、シェイムのデビュー・アルバム『Songs Of Praise』のリリースである。

 

ファット・ホワイト・ファミリーらと形成する、エネルギーに満ちた南ロンドン・シーン

シェイムはロンドンにて友人同士で結成された平均年齢20歳の5ピース・バンド。2016年に新興レーベル〈FNORD Communications〉からデビュー・シングル『The Lick/Gold Hole』を、2017年に同レーベルよりセカンド・シングル『Tasteless/Visa Vulture』をリリースしており、本作が待望のフル・アルバムとなっている。彼らが大きく注目を集めているのは、やはり〈UKインディーの復権〉という期待を背負ったロンドン音楽シーンの盛り上がりと無縁ではない。

2000年代中盤、ロンドンのインディー・シーンの中心地といえばイースト・ロンドンだったが、この2018年における中心はテムズ川の南であるサウス・ロンドンだ。このシェイムもサウス・ロンドン出身。過激な言動とパフォーマンスで知られるファット・ホワイト・ファミリーの活動拠点として知られたブリクストンにあるパブ〈クイーンズ・ヘッド(Queen’s Head)〉でサウンドを固め、結成年である2014年の末には同ブリクストンのライヴハウス〈ザ・ウインドミル(The Windmill)〉で最初のヘッドラインショーを行ったという。そこで知り合ったのが、のちにラフ・トレードとサインするゴート・ガールや、ドミノとサインするソーリー、そしてデッド・プリティーズといったサウス・ロンドン・シーンを形成しているバンドたちだ。

そうした活動のなか、シェイムは〈チムニー・シッターズ〉というイベントにてセミレギュラーを務めるほか、〈i-D〉のインタヴューにおいてシーンの成り立ちの解説、未だ知られざるアーティストや周辺のオーガナイザー、カメラマン、グラフィック・アーティストらの紹介を買って出るなど、20歳の若さにしてシーンの形成とプロモーションを引き受ける兄貴分的な一面も担うように。先に名を広めたバンドとして、他アーティストをフックアップする意識は、まるでニルヴァーナのカート・コバーンのようでもあるし、それに続くバンドが次々と現れる様子はイースト・ロンドン・シーンが現代に蘇ったようですらある。

ゴート・ガールの2017年の楽曲“Cracker Drool”
 

かつてのイースト・ロンドン・シーンを構成したバンドたちには、大まかな共通点があった。まずは、ストロークスに端を発するガレージ・バンドというフォーマット。次に、ストリーツやリバティーンズが切り開いた、市井の人々の日常やユース・カルチャーを詩的な視点とウィットに富んだ切り口で語るリリック。そして、古着のレザージャケットやフレッドペリーにバーバリーといった英国ブランドをシャープに着崩すファッション・センス。さらには、当時ブロック・パーティやフューチャーヘッズなどの作品で腕を揮っていたポール・エプワースの手法に代表される、ポストパンク的なサウンド・プロダクションなどだ。

しかし、今回のサウス・ロンドン・シーンにおいては、そうした共通点は薄い。強いていえば、ストゥージズを連想させる生々しいフィーリングやポストパンクの精神、ラップ/R&B全盛の時代に対しての意識を感じさせるリズムに顕著な実験性が挙げられるかもしれない。だが、まだそうしたカテゴライズをするには成長過程のシーンであり、分析するにも時期尚早だろう。〈サウス・ロンドンはザ・ウインドミルを中心とした、エネルギーとクリエイティヴィティーに満ちたアーティストたちの集まり〉――今はそれでいい。

ファット・ホワイト・ファミリーの〈ザ・ウインドミル〉でのライヴ映像