アーバンとカントリー、大人と子供~新生〈市川愛〉が歌う、30代女性の愛と演技

 若い女性が長い髪を切ったからといって、特別な意味を見い出そうとするのは、愚の骨頂だろう。がしかし、『MY LOVE, WITH MY SHORT HAIR』に関しては、ロングヘアからショートヘアへの変化を、そのまま素直に受け取っていい。これは、新しく生まれ変わった〈市川愛〉のアルバムだから。

市川愛 MY LOVE, WITH MY SHORT HAIR TABOO(2018)

 市川愛は、これまでにジャズ・ギタリストの平岡遊一郎のプロデュースによる3枚のソロ・アルバムをリリースしてきた。これらの中には、マイケル・ジャクソンやジョン・デンバーの曲も含まれていたものの、市川はスタンダードをメインに歌うロングヘアのジャズ歌手として知られてきた。対して、新たに菊地成孔をプロデューサーに迎えた新作は、すべてオリジナル曲。市川愛が単独で作った曲に加えて、菊地の書き下ろし曲、市川と菊地が共作した歌詞にSWING-Oや大島宏之が曲を付けた曲、浜田真理子から提供された “あこがれ”など全8曲 (+ボーナス・トラック3曲)で構成されている。演奏者は菊地や今堀恒雄、鈴木正人、林正樹など主にジャズ畑で活躍しているミュージシャンで、平岡も3曲の編曲に関わっている。ただし、音楽的ベクトルは、これまでに比べて、格段とポップな方向に向けられていて、〈ジャズ・ヴォーカル〉のアルバムではない。しかも単にロングヘアをカットしただけでは生まれない、動きのある軽やかな、あるいは艶めいたショートヘアのようなアルバムに仕上がっている。

 市川は、菊地のプロジェクトにバイリンガルで舌足らずな覆面ラッパーの 〈I.C.I.〉として参加してきた。“マイラヴ・ウィズ・マイショートヘア”は、そうした側面が披露されている曲だ。が、この曲以上に〈新生:市川愛〉が打ち出されている曲として、“ダメなわたし”を僕は推したい。市川は、スウィンギーな演奏に乗せて、三十路の自分の劣等感をくだけた感じで歌い綴っていく。やさぐれていながらも、彼女の本質的な可愛らしらが伝わってくる〈ジャズ歌謡〉だから。

 


LIVE INFORMATION

『MY LOVE, WITH MY SHORT HAIR』 リリースライヴ
○7月20日(金) 開場 19:00/開演 19:30
会場:duo MUSIC EXCHANGE
出演:市川愛
※スペシャルゲスト有り
ai-ichikawa.com/