
ペン先のエンジンはもう温まった――理想と現実の狭間にあってもマイクを握れば熱気が環流する。不安や孤独にまみれた状況を一歩ずつ切り拓いてきた男の次なる一手は……
昨年の復帰作『THE KISS OF LIFE』以降、16FLIPによる同作のリミックス盤や、ISSUGIとのジョイント作、KANDYTOWNのMIKIとKIKUMARUの両ソロ作をはじめとする客演など、関連リリースが続いているBES。「去年ぐらいまでは頭おかしくなりそうっていうのがすげえ多かったんですけど、最近はすごく調子がいいです」——4年に渡る服役の要因となったドラッグの後遺症にいまも悩まされながら、我が身を全うせんとマイクに向かう姿は、かつての輝きを取り戻すというより、現在の彼ならではのスタイルで輝きを増している。届いたばかりの新作『CONVECTION』は、その意味で最新にして頂点。本作も『THE KISS OF LIFE』と同様、I-DeAの全面バックアップの下で制作が始まった。

「昨年の冬ぐらいから考えて動き出してはいたんですけど、EP作ろうかって段階で(I-DeAに)頼む話はしていて。ただ、どういう内容にしようって相談は特にしてないです」。
今回の新作は4、500にも及ぶトラックからインスピレーションが沸いた30ほどのトラックをキープし、さらにそこから吟味してリリックを書いた7曲をまとめたもの。トラックメイカーの名前を伏せて選んでいった結果、I-DeA以外は偶然にも2曲残ったhokuto、NOAHの2人にLil'Yukichi、nabeproと、初の顔合わせとなる面々のビートが並ぶこととなった。
「コンセプトありきじゃなくて、シングルを作る感覚で、何曲か手つけてってどんどん塗りつぶしてったって感じですね。リリックは思いついたまんましか書いたことないし、内容が飛ぶことはあっても曲に準ずることで自分が思ったことしか書かない。書きはじめてからどういう内容になってくか見て、ある程度の形が出来てから抜き差しして、端折って書いてるとこもありますし、〈また昔話か〉とか思われるかもしれないですけど書いてる流れでいろいろ振り返ったりとかしてるし、ちゃんとしたことも言うみたいな」。
サンプリング・ベースのローファイなビートが主体だった前作からよりハイファイなものへとシフトした今回のトラック群は、BESいわく「いままで選ばなかったようなトラックばっかり」。結果が「どう出るか自分の中ではドキドキだった」とも言うが、EPの最初を飾る“Rhyme Train”から、その心配が杞憂だったことがわかる。スキルのくびきを解き、一語一語を明快にラップしていく現在のフロウに宿った熱いテンションと圧力は、パワフルなhokutoのビートに対峙し、昨年来最高のレヴェル。そして、客演したVIKNからの〈シックスナインのような勢いある曲にしよう〉というトスが発端のハーコーなパーティー・チューン“Push”に、過去のデジャヴ体験をそのまま歌う“デジャヴ”。はたまた、NORIKIYO & STICKYとの勝手知ったる共演“人生は甘くないから”や、仙人掌とタフにマイクを交わす“What's Up”……と、消えない過去を踏みしめ、未来へと蹴り上げるラップには、もう後がないのだという思いも強く滲む。そんななかで〈残された時間〉を歌いつつも〈ペン先のエンジンはもう温まった〉という前向きなラインと共に今後への希望を残す一曲こそ、NOAHがビートを手掛けたラストの“Takeoff”だ。
「ホントは40でラップを辞めて、自分に喝を入れた生活をしようと思ってたんですよ、この前40になったんですけど。でも、去年からいろいろ出して、こっちがちゃんと作れば聴いてもらえるんだな、何曲か好きになってもらえるんだなっていう実感もあって。もうちょっと……あと1枚は何か出せたらいいなとは思ってますね」。
目の前の状況に追い立てられるように作品を一つ一つ形にしてきたBESにとって、〈残された時間〉が少ないなかで臨んだ今作『CONVECTION』もその例外ではない。作品を作ること自体が苦しみとなるなら、切羽詰まった状況と作品をいつまでも求めるのは酷だろう。しかし、“Rhyme Train”で〈やり残し無しで行くぜマイペース〉と歌ったように、彼がそれでもなお自分のペースで音楽を続けていくのだとしたら、この先の動きへ向けての期待もおのずと大きくなっていくはずだ。 *一ノ木裕之
『CONVECTION』客演アーティストの作品を一部紹介。
『CONVECTION』に至るまで精力的に動いてきたBESの活動報告
長い不在を経て、新曲入りのミックスCD『BES ILL LOUNGE PART 2』を2016年に投下して帰還を告げたBES。翌2017年にはI-DeA後見の下で16FLIPやFaceoffらも助力したサード・アルバム『THE KISS OF LIFE』を形にしている。D.FOCIS製の“Mic Life”やI-DeA作の“Walk”などサンプリング主体のロウな音でまとめられた同作は、16FLIPが丸ごと再構築したリミックス盤『THE DEFINITION OF THIS WORD』に発展した。一方、“Walk Remix”を収めたI-DeAのリーダー作『SWEET HELL』でも表題曲“Sweet Hell”にも登場。さらにKOJOEの“Prodigy”では、OMSBやPETZ(YENTOWN)、YUKSTA-ILL、SOCKS、Miles Wordとマイクを回し、多様なスタイルの後進と絡むことで独自性を際立たせてみせている。
今年に入ると、およそ9年ぶりの絡みとなる鬼と“僕も中毒者”で再会したのに続き、ISSUGIとのタッグ作『VIRIDIAN SHOOT』をリリース。グワップ・サリヴァンやDJ SCRATCH NICE、BudaMunkらの芯のある90年代マナーが熱いDOGEAR色の作りがフロウの復調を促し、フックでもBESならではの存在感を見せつけているのは流石。以降はそこでも絡んだ仙人掌のEPで“WUSHUNNIN”に客演し、SCARSやSWANKY SWIPEを聴いて育ってきた世代にあたるMIKIの“Breath”、KIKUMARUの“March”と、KANDYTOWN組との好相性なコラボも続いた。当人の言葉通りに残された時間が限定的だとしても、短期間で失地回復を図ってきたBESの奮闘とその成果を耳にすれば、まだまだ今後の活躍を期待せざるを得なくなるはずだ。 *出嶌孝次
関連盤を紹介。