ベートーヴェンのチェロ&ピアノ作品全集の新たなる金字塔!!
歴史的名盤が数多いベートーヴェンのチェロ&ピアノ作品全集に新たな金字塔が現れた。演奏者は共にフランス人で、ベートーヴェンのスペシャリストとして名高いグザヴィエ・フィリップ(vc)とフランソワ=フレデリック・ギィ(p)。ギィは近年、彼の作品を集中的にレコーディングするプロジェクトを進行中で、当盤もその一環として2015年に録音。年齢の近い2人は学生時代からの友人で、初共演は1990年に遡る。プライベートでもバーベキューやワインを一緒に楽しむ間柄で、それは息の合ったしなやかな呼吸で振幅する当盤にもよく表れている。
3枚組の当盤には、ソナタ全5曲を番号順に収録。さらにその前に、ヘンデル《ユダ・マカベア》~〈見よ勇者は帰る〉、モーツァルト《魔笛》~〈恋を知る男たちは〉、同~〈娘か女か〉の各主題による3つの変奏曲も並ぶ。その意図をフィリップに尋ねると、「ベートーヴェンのソナタは、多彩でエモーショナル。また、作曲期間が作品番号の5から102までと長き渡るので、それを順に聴くと、彼の音楽と人生における成熟の過程がよくわかると思って。あと、ソナタの着手前に書いた3つの変奏曲。彼はここでチェロの実験を重ね、自らの技巧と感性を鍛えました。そうした“彼”を完全な形でお伝えしたいと思ったのです」
録音前に3~4回もの全曲演奏会を行って万全の準備を整えたという5つのソナタの聴きどころを、ギィは以下のように語る。
「フィリップも言った通り、第1&2番は初期、第3番は中期、第4&5番は後期と、作風の違いを明快かつ立体的に味わえるのが大きな魅力のひとつ。私が特に面白いと思うのは、黄金期“傑作の森”時代に書かれた第3番ですね。それ以前の彼のチェロ作品はピアノが主体で、ピアニストが書いた作品の印象が強いですが、本作で初めて2つの楽器が対等に扱われ、チェロの魅力に多くのスポットライトがあたるようになりました。そして最後の第5番に至り、チェロとピアノはライバル関係へと発展し、より深くリッチな響きを獲得するに至るのです」
筆者が当盤の感想を、ピエール・フルニエ(vc)とヴィルヘルム・ケンプ(p)の名盤に比肩すると伝えると、「『グラモフォン』誌でも同じような評をいただきました。事実、最も共感し、影響を受けた名演中の名演なので、本当に嬉しい」と喜んでくれた2人。さらに、彼らが自分の愛してやまないブラームスのチェロ・ソナタを録音する時は現地に取材に行きたいと続けたところ、なんと来年に録音を計画中だという!
そんな次第で、久々の渡仏が近づいている…