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2001年生まれのヴァイオリニスト、ダニエル・ロザコヴィッチのDGデビュー

 2017年、札幌の国際教育音楽祭パシフィック・ミュージック・フェスティバル(PMF)で指揮のヴァレリー・ゲルギエフとブルッフの《ヴァイオリン協奏曲第1番》を情感豊かに奏で、鮮やかな日本デビューを飾ったダニエル・ロザコヴィッチ。今年6月の再来日は、ドイツ・グラモフォン(DG)デビュー盤の世界同時発売と重なった。《ヴァイオリン協奏曲第1番・第2番》《無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第2番》と、すべてJ.S.バッハの作品。共演はバイエルン放送交響楽団室内管弦楽団だ。

DANIEL LOZAKOVICH バッハ:ヴァイオリン協奏曲第1番・第2番 無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第2番 ユニバーサル/DG(2018)

 昨年のブルッフで驚嘆した人間の肉声のように深く暖かく美しい音、たっぷりした歌の呼吸はバッハでも際立つ。1990~2000年代を席巻したピリオド(作曲当時の仕様の)楽器の演奏が行き着くところまで行った先に現れたのは、もぎたてのフルーツの新鮮さを随所に振りまきながらも「先祖帰り」としか思えない、古風な情感をたたえた音楽。最初の試聴で思い出したのはヘンリック・シェリングが指揮者を置かず、ヴィンタートゥール室内管弦楽団と録音した旧盤の感触である。

 「私はトレヴァー・ピノックと共演したこともあれば、グレン・グールドやパブロ・カザルスの歴史的録音も好んで聴きます。バッハ自身が音楽を全く別の次元に引き上げた改革者だったわけですから、それぞれの時代の演奏家が自身のスタイルを究めるべきだと思います。協奏曲の構えは大きくなく、バイエルン放送の優秀なメンバーとの自由な会話、音の運びの軽やかさを最大限いかすのに指揮者は不要と考えました。バッハが人間の声を愛してやまなかったという観点から、声の反映でもあるヴィブラートは排除しませんでした。中でも《シャコンヌ》はヴァイオリンの最も偉大な無伴奏作品といえ、素晴らしい旋律や和声の再現において、技術だけでは克服できないものがありました」

 実演、録音の両方で際立つ楽器の素晴らしさ。1713年製のストラディヴァリウス「ロスチャイルド男爵」は米国のスポンサーと恩師の1人であるエドゥワルト・ウルフソンが尽力し、昨年からロザコヴィッチの楽器となった。「輝かしく、特別な楽器ですが、弾きこなすのは大変。例えれば乗用車ではなくフォーミュラ1用のマシンで、きちんとコントロールできて初めて、本来の性能を発揮できます」と、密かな自信をのぞかせた。「ようやく見つかった理想のパートナー」というピアニスト、アレクサンダー・ロマノフスキーとの室内楽の録音、日本ツアーなどもぜひ、実現してほしい。