「サウダーデの目をしているね」……ポルトガルとの出会いに導かれて
かつてヴィム・ヴェンダースは、ひとりのサウンドマンが映画と都市を発見してゆく旅を1本の映画にした。『リスボン物語』だ。だとしたらこの映画は、ひとりの俳優がポルトガルを発見してゆく時間の旅であったのかもしれない──。
「ぼくにとって、ポルトガルという国に出会ったことがいちばん大きかったですね。ポルトガルの人たちにも共感をもつことができた。以前、留学していたときにイタリアに住んでいたわけですが、イタリア人とかフランス人にはそれなり馴染みがあったものの、ポルトガル人についてはまったく知らずにいた。あの素朴さ、郷愁を誘う感じ、サウダージに共感することができた。撮影で仲良くなった衣装担当の方が、僕の写真をその友人のフランス人に見せたら、『サウダーデの目をしているね』って言ったそうなんです」
“サウダーデ(サウダージ)≒郷愁”は、ポルトガルの人たちについて語る際に必ず耳にする言葉だ。日本語の“郷愁”に近いとも言われているが、翻訳不可能な言葉でもある、ポルトガル人にとって精神の深いところに触れる言葉。その目をした俳優、中野裕太さんが出演した『ポルトの恋人たち 時の記憶』は、18世紀のポルトガルを襲った大地震の記憶と、21世紀の日本を襲った大地震の現実とが重なり合いながら、時を超えた物語を刻む。裕太さんが演じるのは、主役ではない。が、一歩引いたところにいてすべてを見届ける人物、四郎と幸四郎の二役を演じる。
「ラヴ・ストーリーであり、ファンタジーの要素の強い作品だということは脚本からつかみ取れました。その主題から外れなければいいはずだ、と。前半の四郎役も後半の幸四郎役も、物語のどろどろとした部分にはからまず、傍観者でいることができる。浮遊感のあるところがおもしろそうだと思いましたね。試されていると同時に、演じるスペースがあって、解釈を委ねさせてもらえそうだな、と思い、演じるならこの役だと」
最終的には、アナ・モレイラと柄本佑が演じるひと組の恋人たちの、時を超えた愛の物語へと収斂してゆくこの映画で、その境界線上にいて見守る。時間と空間を浮遊してゆく人物。だが、その印象は強く、『ポルトの恋人たち』のサブ・テーマが彼に集約してゆくかのようだ。語られうるもうひとつの物語を紡ぐ人物として。
「撮影の途中からポルトガル語が通じるようになって、ポルトガルのクルーたちと仲良くなれたんですね。その後、プロデューサーの方とはいろんなことを相談するほど仲良くなり、この4月に出かけたときには、その方の家に泊めてもらったりするまでになりました」
裕太さんが映画のなかで話すポルトガル語は、違和感を感じさせることなく画面に溶けていった。時間と空間を穿ってゆく天分。それが映画を人生へとつなげてゆく。まだ見ぬ物語、まだ知らぬ可能性がこの映画から始まる──。
映画『ポルトの恋人たち 時の記憶』
監督・脚本:舩橋淳
音楽:ヤニック・ドゥズィンスキ
出演:柄本佑/アナ・モレイラ/アントニオ・ドゥランエス/中野裕太/他
配給:パラダイス・カフェ フィルムズ(2018年 日本・ポルトガル・アメリカ 139分)
◎11/10(土)、シネマート新宿・心斎橋ほか全国公開
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