©️2022 映画「ハケンアニメ!」製作委員会

アニメに力を入れたからこそ作品愛が伝わる、「ハケンアニメ!」堂々の実写映画化

 〈アニメが世界を救う〉、言葉にすればありふれているかもしれないこのメッセージを、〈ナカ〉でも〈ガワ〉でも示してくれた。そんなパワーを感じさせてくれた作品だった。

 「ハケンアニメ!」は2012年女性週刊誌「anan」にて2年間連載された、アニメ制作サイドを描いた辻村深月による小説だ。連載が完結を迎えた2014年に書籍化され、翌年の本屋大賞にノミネートされるほど人気も話題性も既にあった作品だ。その2015年にはすでに実写映画化に向けてのプロジェクトは動いていたが、コロナ禍の撮影延期を重ね実に7年の歳月を経てこの2022年5月に公開に至る。

 あらすじは新人監督と天才監督、その両陣営が伝統の〈土曜5時枠〉の新作アニメで視聴率を争い真の人気アニメの座=ハケン(覇権)を狙うというもの。その両陣営ともに様々な課題に直面したり、それぞれを応援する人々がいたり、〈お仕事もの〉ストーリーらしいコンフリクトとカタルシスがテンポよく進んでいく。常時小気味い良い清々しさを感じられる実写映画化の好例の様に感じた。

©️2022 映画「ハケンアニメ!」製作委員会

 まず〈ナカ〉の話をしよう。

 〈自分の作るアニメによって多くの人の人生を明るくしたい〉という熱い情熱と理想を持った新人監督:斎藤瞳を熱演した吉岡里帆。その情熱が空回りしつつも、天才を超えたいという凛とした闘志をもった主人公像を見事に演じていた。そして一方で天才と呼ばれつつも、信じられないほどの葛藤と情念を持ってアニメ制作に挑んでいた王子千晴を好演したのは中村倫也。そのキャラクター像に合っていると原作者もリクエストした程で、この難しい役どころが雰囲気のみならず所作・言動も含めてマッチしていた。両者がともにその理想が強く露わになる前半のクライマックスシーン〈アニメフェス対談〉は見事な緊迫感と高揚感を演出していた。圧倒的な王子千晴の演説からの、両者の宣戦布告合戦。実写として生身の人間が話して構成される時間感覚があったからこそ、この緊張感を楽しめたのではと思える良いシーンだった。

 この他、嫌味で嫌われ者役も受け入れながらも作品を届けるために奔走するプロデューサー:行城理を演じた柄本佑、天才に振り回されながらも作品完成に執念を燃やすプロデューサー:有科香屋子を演じた尾野真千子をはじめ、実力派キャストがアニメ制作スタッフたちを演じる。特筆すべきは、今回実写初出演となる人気声優:高野麻里佳。〈実力はイマイチだが人気があるため客寄せとしてキャスティングされた〉声優:群野葵を演じた。瞳と対立しながらも作品に真摯に向き合う役どころを初挑戦ながら動きでも声でも演じ切っていた。全員が全員曲者ながらもその根底に〈アニメを愛し、作品を愛している〉姿があるからこそ、この物語のメッセージが強く伝わってくる。

©️2022 映画「ハケンアニメ!」製作委員会

©️2022 映画「ハケンアニメ!」製作委員会

 次に〈ガワ〉の話だ。

 アニメ制作側が舞台ということで劇中でもアニメ作品が制作されるわけだが、そこにも並々ならぬ力が注がれている。斎藤瞳率いるトウケイ動画陣営が制作する「サウンドバック 奏の石」(略:サバク)にはメカデザインに「機動戦士ガンダム00」の柳瀬敬之、監督に谷東、キャラクター原案に窪之内英策が参加。一方王子千晴率いるスタジオえっじの「運命戦線リデルライト」(略:リデル)には、キャラクター原案に「魔法少女まどか☆マギカ」「グレイプニル」の岸田隆宏、監督に大塚隆史が参加する。何より声優陣が豪華でサバクには前述の高野麻里佳をはじめ、梶裕貴、潘めぐみ、木野日菜、速水奨が参加。リデルには高橋李依・堀江由衣・花澤香菜・小林ゆう・近藤玲奈・兎丸七海・大橋彩香らが参加。さらにナレーターには朴璐美が担い、制作にはProduction I.Gをはじめ日本を代表するアニメプロダクションやトップクリエイター陣が参加し劇中劇を支える。(一部声優は実写パートにも顔を出すのでお見逃しなく)劇中アニメを映画の小道具にせずこだわりを持って用意するからこそ、両陣営が命を削ってアニメ作品を作り上げていく様が説得力を帯びる。原作でも苦心したという〈面白そうなアニメ〉は映画化に際しても完全に表現されているのだ。

 日本がアニメ大国と呼ばれてから久しいが、改めてこの作品を通して〈アニメの力〉を感じる。それは作品を〈ナカ〉でも〈ガワ〉でもアニメ作りに力を込めたが故なのだろう。

 


FILM INFORMATION
映画「ハケンアニメ!」

出演:吉岡里帆/中村倫也
工藤阿須加/小野花梨/高野麻里佳/前野朋哉
矢柴俊博/新谷真弓/松角洋平/水間ロン/前原滉/みのすけ
古舘寛治/徳井優/六角精児
柄本佑/尾野真千子
原作:辻村深月「ハケンアニメ!」(マガジンハウス刊)
監督:吉野耕平
脚本:政池洋佑
音楽:池頼広
主題歌:ジェニーハイ “エクレール”(unBORDE/WARNER MUSIC JAPAN)
配給:東映
(2022年 日本 128分)
©️2022 映画「ハケンアニメ!」製作委員会
https://haken-anime.jp/
2022年5月20日(金)全国ロードショー