中学時代にはELLEGARDENやTHE BACK HORN、レッド・ホット・チリ・ペッパーズといったアーティストに触発され、バンドをやりかけたこともあったというMU-TON。その目がラップに向いたのは高校時代だ。彼には当時、同じ福島のラッパー・鬼の周辺でダンサーとして活動していた従兄弟がいた。

 「15、6ぐらいん時に従兄弟に地元のクラブに連れてかれたのがきっかけで。そん時にJAG-MEのラップを見てやってみたいなと思ってすぐ始めました」。

 ほどなく曲を書きはじめたMU-TONは、クラブで知り合ったラッパーLOOPの誘いでライヴ活動を開始。フリースタイルとの出会いもその頃だ。

 「TAICのフリースタイルを聴いて­­〈こんなことができるのか〉と思って。ラップにこだわりは特になくて、好きなようにやってるだけ。本気でやってたっすけど、それでメシ食いたいとかいうのはなく、最初は地元の仲間と好きな音楽をやれてればいいかなって。バトルも地元のみんなが出てたんで、その流れで出てみたらマジで大したことなくて、自分でも何言ってっかわかんねえ時のほうが多いくらいなんですけど」。

MU-TON RIPCREAM SPACE SHOWER(2018)

 そんなMU-TONがデビュー作『RIPCREAM』を晴れてリリースする。自身の音楽的な背景までも紐解く本作には、彼にラップするきっかけを与えたJAG-MEや、TRI MUG's CARTELとして現在活動を共にするTAICとLOOPが参加。制作にもDJ MON(TRI MUG's CARTEL)をはじめ、さまざまな面々が揃った。根っこにあるヒップホップ観を伝える格好の幕開け“Spin Me Round”は、USのスタティック・セレクターがトラックを提供したもの。90's色の濃いラフなトラックと荒々しいラップに、〈時代の波に逆らう/抗うことで水を得た魚〉という歌詞がダブる。また本作では、彼が日本語ラップ作品のなかで一番チェックしているというDLIP勢からの影響も随所で歌詞に。DLIPからトラックにNAGMATIC、客演にBLAHRMYを迎えた“Stereo Out”というズバリな曲もある。制作に際しては、ほぼ全曲の録音/ミックスと、ビートを1曲手掛けたI-DeAのディレクションも大きかったとか。

 「今まではビートを聴いてその雰囲気で書きはじめてたけど、ビートに合ったテーマを決めて、そっから自分の人生、体験を入れたりとか考えるようになった。俺からしたらかなりわかりやすく書いてるんですよ。自分がどういう人間か、俺の周りに起きてることとか、これからどうなりたいかとか、今までこうだったとか」。

 なかでもGRADIS NICE制作の“BelieF”は、I-DeAからのダメ出しでまるごと書き直したものだそう。結果、仲間への思いが綴られることとなった曲には、MU-TON自身の思い入れも強い。 同曲然り、今回の『RIPCREAM』は、MCバトルを通じてラップ・スタイルやフロウに注目が集まりがちな彼のより深い部分に目を向けさせるべく作られている。

 「輪入道さんの曲(輪入道×DOTAMA× mu-ton名義の“TAG SHIT”)で俺が〈リリックに意味を求めなくていいんだぜ〉みたいなことを言ってて、ファンに会った時にもそういう話をされたりするんですけど、これ聴いて喰らってほしいですね、〈結構中身あるじゃん〉って」。

 今後に話を向けると、「あたりまえだけどカッコ良く。あとは楽したい」と笑ったMU-TON。なんにせよ、ここからが本当のスタートだと彼自身もわかっている。

 「最近は地方にもライヴに呼んでもらってるけど、やっぱ自分の作品がないっていうのはわりかし辛くて。だからこのアルバムが出来て安心したっつーか、とりあえず基盤は作れたかな」。

 


MU-TON
95年、福島県白河市生まれのMC。地元のクルーであるTRI MUG'S CARTELに所属。2016年に〈ULTIMATE MC BATTLE〉の本選へ出場し、翌2017年の〈KING OF KINGS〉では東予選で優勝。ほかにも多くのMCバトルの全国大会で功績を収める。また、同年末にAbemaTVで放送された〈フリースタイルダンジョン Monsters War 2017〉では輪入道、DOTAMAとのチームで優勝し、2018年2月にはそれを記念した楽曲“TAG SHIT”を3名義で配信リリース。4月には7インチ・シングル化される。ライヴ活動も全国各地で精力的に行うことで知名度を高めるなか、このたび、ファースト・アルバム『RIPCREAM』(SPACE SHOWER)を12月5日にリリースする。