スタジオ・アルバムの初リマスター音源が遂に登場。まさにケイト・ブッシュの決定盤!

 ケイト・ブッシュのすべてのスタジオ・アルバムが最新リマスター音源で、4つのアナログ(LPレコード)・ボックス・セットと2つのCDボックス・セットにまとめられて発売される。これはケイト本人が自ら、85年の『HOUNDS OF LOVE(愛のかたち)』のエンジニア、ジェイムズ・ガスリーと共にリマスターを手がけたもの。ほとんどのアルバムはこれまでリマスターされておらず、これが決定版となる。さらに、アルバムとしてまとめられたことのなかったレア音源集も収録と、これはまさにファンが待ち望んでいたものだろう。

KATE BUSH Remastered In Vinyl 1 Parlophone(2018)

 アナログ・ボックス・セットの1「KATE BUSH REMASTERED IN VINYL 1」は、78年のデビュー・アルバム『THE KICK INSIDE(天使と悪魔)』、同年の『LIONHEART(ライオンハート)』、80年の 『NEVER FOR EVER(魔物語)』、82年の『THE DREAMING(ドリーミング)』の4枚を収録。16歳の若さでEMIと契約し、19歳で満を持してデビュー。シングル〈嵐が丘〉で全英No.1を獲得してセンセーションを巻き起こしてから、その想像力豊かな世界にふさわしい自分のサウンドを確立させていく過程を追う。急ぎ作った感のある2作目のあと、当初のピアノを中核においたプログレ的なオーケストラ・ロックから、もっとサウンドや題材の幅を広げた『NEVER FOR EVER』で全英No.1アルバムを獲得。そして単独プロデュースした『THE DREAMING』で、サンプリングのできるフェアライトなど、当時の最新機材もいち早く導入し、ユニークな歌声に冒険的なサウンドを結び付け、斬新なアヴァン・ポップを作り出したのだ。

KATE BUSH Remastered In Vinyl 2 Parlophone(2018)

 アナログ・ボックス・セットの2「KATE BUSH REMASTERED IN VINYL 2」は、85年の『HOUNDS OF LOVE』、89年の『THE SENSUAL WORLD(センシュアル・ワールド)』、93年の『RED SHOES(レッド・シューズ)』を収録。彼女の黄金期の3枚と言っていい。(CDの「KATE BUSH REMASTERED PART 1」はアナログの1と2を収録)

 自宅に48トラックのレコーディング・スタジオを作り、自分のヴィジョンだけを追いかけ、じっくりと2年の時間をかけて生み出したケイトの代表作が『HOUNDS OF LOVE』だ。〈Running Up That Hill〉が英国だけでなく、アメリカでもヒットした。デビュー以来、自分の美意識と想像力だけを信じて歩んできたら、彼女は突然時代の最先端に立っていたのだ。また、音楽界はMTV時代を迎えていたが、ケイトの常に映像的な音楽はその先駆でもあり、ヴィデオ・クリップという媒体でも優れた作品を幾つも残している。そして『THE SENSUAL WORLD』と同名の映画にインスパイアされた『RED SHOES』はアメリカでもよく売れたアルバムとなった。後者にはプリンスも参加している。また、これらのアルバムでは、アイルランドの伝統音楽やワールドミュージックの要素も音楽にも取り入れられ、うまく活かされている。

KATE BUSH Remastered In Vinyl 3 Parlophone(2018)

 アナログ・ボックス・セットの3「KATE BUSH REMASTERED IN VINYL 3」は00年代以降のアルバム3枚を収録。それまで以上に間隔が空くようになったのは、98年に母になったからだろうが、05年の2枚組『AERIAL(エアリアル)』は非常に多彩な内容だし、11年の『DIRECTOR’S CUT(ディレクターズ・カット)』はずっと不満を抱えていた『THE SENSUAL WORLD』と『RED SHOES』からの曲をリミックスや再録音したこだわりの1枚で、同じ11年の『50 WORDS FOR SNOW(雪のための50の言葉)』は、冬を舞台にした7~13分という長い曲ばかりと、創作意欲は決して衰えていない。

KATE BUSH Remastered In Vinyl 4 Parlophone(2018)

 そして、注目がレア音源ばかりの「KATE BUSH REMASTERED IN VINYL 4」だ。『12” MIXES』は12インチ・シングルのみだったミックスを収録。『THE OTHER SIDE 1』と『THE OTHER SIDE 2』はシングルのB面曲やデモ録音などをまとめた。そして、『IN OTHERS’ WORDS』が楽しいカヴァー曲集で、若い頃に影響を受けたエルトン・ジョンの〈Rocket Man〉やマーヴィン・ゲイの〈Sexual Healing〉などのケイト流解釈が聞ける。

 なおCDボックスの「KATE BUSH REMASTERED PART 2」にのみ、14年の復活コンサートのライヴ盤『BEFORE THE DAWN』を追加している。