「曲は悩まず作れます。最初に作った時も1日で4曲が一気に出来て、〈できるじゃん、簡単簡単〉って思ったし、自信満々でした」。
こともなげにそう語るのは〈弾き語りトラックメイカーアイドル〉を自称する眉村ちあき。高校3年生で突然BoAに憧れて〈ダンス・ヴォーカリストになる!〉と思い立ち、アイドル・グループで活動していた彼女が、ソロのシンガー・ソングライターへと踏み出したのは、グループが解散寸前だった2016年のこと。それまで楽曲制作の経験は皆無で、しかも「普段は全然音楽を聴かないし、イヤホンも持ってないレヴェル」にもかかわらず、自作のトラックメイクと自己流で習得したギターの弾き語りで次々と曲を生み出し、活動1年目には月40本（!）ものライヴに出演。2018年5月には初の流通盤『目尻から水滴3個、戻る』をタワレコ限定でリリースし、TV番組「ゴッドタン」で披露した即興ソングの腕前も話題になり、広く注目を集めるようになった。
「何年か前に可愛い女の子ヴォーカルのバンドが、ライヴのMCで〈アイドルなんてどうせバンドマンと繋がりたくてやってるんでしょ?〉って言ってて、私は客席で観ながら〈ちげーよ! やったことない人にそんな失礼なこと言われたくない〉と思ったんですよ。その時に私は、自分より可愛いその子よりも〈アイドル〉として売れてやることに決めたんです」。
そんな彼女が新年の幕開けと共に送り出す作品こそ、自身初の全国流通盤となる2枚組アルバム『ぎっしり歯ぐき』だ。「タイトルは音の響きで決めたんですけど、CDには曲がぎっしり入ってるし、ちょうど親知らずが生えて歯がぎっしりになったから、一石三鳥でピッタリでした!」という言葉通り、本作にはこれまでに発表してきたほぼすべての楽曲を収録。大人になっても失うことのない純真さを〈うんこ〉というワードや壮大なヒップホップ・ビートに乗せて昇華する感動的な名曲“東京留守番電話ップ”、マッドチェスターの匂いも漂う軽快なロックンロール“メソ・ポタ・ミア”など、音も言葉も含めて次に何が飛び出してくるかわからない全30曲が、ヴォーカルとギターを新録して収められている（冒頭で述べている最初に作った4曲“赤いハート”“ひとりぼっちのアイドル”“Dear My Family”“She Saw”も収録）。
「例えばトイレの水が流れる音をサンプリングしようと思ってトラックから作る曲もあるし、ベースの音をブルースっぽいフレーズにしようとか思って作っていく曲もあるし。曲は音重視で作ってるので、歌詞に意味のない曲もいっぱいあるんです」。
とはいえ、家族への感謝を涙ながらに届ける“Dear My Family”や元カレとの別れを題材にした“スーパーウーマンになったんだからな!”などを聴けばわかるように、その時の心情や想いをありのままに表現した歌詞も印象的だ。
「ファンの人にも〈眉村さんがいまどんな状況なのか、すぐわかる〉って言われます。だから恋愛の曲を書くと気まずくなるんですよ（笑）。私は基本何でも表に出せるけど、恋愛の話とエロい話は恥ずかしくて曲にできないんです。だからラヴソングも数曲しか作ったことがないし、作る時は絶対に半分ぐらいウソを入れてます（笑）」。
どんなに独創的な曲でも驚くべき説得力でもって聴かせる安定した歌唱力、感情の波を形にする野性的な瞬発力、ラップやハーモニーも自在に採り入れる技術と表現力……と、パフォーマーとしての実力も破格。しかも某オーディション審査員に毒づくジャンクなバロック・ポップ“ピッコロ虫”、ファンへのガチ恋ぶりを示す“本気のラブソング”など、本作には未収録の新曲もすでに次々と発表されており（取材時も直前までギターを手に曲を作っていた!）、彼女がその無尽蔵のヴァイタリティーで2019年を席巻することは間違いなさそうだ。
眉村ちあき
96年生まれ、東京出身の〈弾き語りトラックメイカーアイドル〉。学生時代に歌手になる夢を持ち、2015年にStar-Bright★REXで活動を開始。2016年からは並行して自作トラックによるソロ活動も始め、グループの活動休止を経て弾き語りのスタイルへ移行する。同年3月の初音源『スーパーサイア「ち」』を皮切りにCD-R作品をコンスタントに自主制作し、2017年には自身の会社を設立。2018年5月にタワレコ限定で初の流通CD作品『目尻から水滴3個、戻る』をリリースした後、トイズファクトリーとの契約を発表。TV出演などのメディア露出でも話題を集めるなか、2019年1月9日に初の全国流通アルバムとなる『ぎっしり歯ぐき』（レーベルじゃないもん）をリリースする。
【ライヴのおしらせ】
〈東阪クアトロライブ～眉村ちあき×スーパードラゴンゲスト～〉
1/13（日）東京・渋谷クアトロ
1/19（土）大阪・梅田クアトロ
〈眉村ちあき 3rd ワンマンライブ～東京湾へダイビング！～
6/4（火）東京・新木場STUDIO COAST
