現代屈指のリート歌手、ゲルハーヘルによる待望のシューマン・プロジェクト開巻は、微細で飾りのない情感のニュアンスを〈熟聴玩味〉する愉しみが濃厚に味わえる出色の一枚。みずみずしい感興がしばし時を忘れさせるケルナー歌曲集の12曲。詩句と音楽との幸福な調和と苦渋のにじむ乖離が背後にひそむ。《初めての緑》、特に《問い》以降、《ひそやかな涙》、終曲《古いリュート》に至るまでの静謐と濃密な情感は筆舌に尽くしがたい。大詰めでラ・マルセイエーズが現れる劇的な『二人の擲弾兵』も巧みな歌い口が強く印象に残る。明快で美しいディクション、含蓄に富む声の響きと共に、表現の深化が圧倒的だ。